第89話 ダンジョンに挑む0歳児
『果てのない旅路』はAランク冒険者である。
このランクは魔物のランク付けと一致しており、つまりはAランクの魔物を討伐したことがあるということ。
最上位のSが実質勇者パーティだけであることを考えると、Aランク冒険者が人類最高峰と言って差し支えない。
ダンジョンへと向かう道すがら、お姉さんのことを教えて欲しいと言った僕にお姉さんは自信満々に告げた。
「だから、坊やのことはお姉さんたちが守ってあげるからね!」
「それは嬉しいです! ところでAランクの魔物というのは、どのようなものですか?」
「そうねえ、わかりやすく言うとワイバーンとかかな。この前の魔王軍幹部、あれもAランク評価を受けていたわ!」
「ああ、あの巨大骸骨ですね」
「ぴょん」
なるほど。あまり大したことはなさそうだな。
その上のSランクというのが気になる。
「Sランクって言うのは?」
「Sランクというのは、要は規格外の扱いね。ランク付けできない。例の魔王は文句なくSランクよ」
「骸の?」
「対抗手段が限られていて、倒してもまた復活する、兵糧攻めも通用しない万を超える軍勢……そんなアンデッドの召喚者ですもの。文句なくSランクだわ!」
ふむむ。
そう考えるとそうかもしれない。
僕があの魔王を倒せたのはあくまで相性の問題だったか。
「さてアレイザ、お話はおしまいだ。ダンジョンに着いたぞ」
「あら、もう?」
リーダー、パトルスの言葉に前方を見る。
そこには、古代遺跡のような柱に囲まれた下りの階段が口を開けていた。
横幅は3メートルはありそうだ。
不思議なことに、周囲は明るいにもかかわらず階段の先が全く見えない。
「最終確認だ。ヴァスティーユがタンク、アレイザと聖子様、ゴレイヌ殿、ロロップさんが真ん中、俺が背後を務める。大丈夫か?」
「はい!」
「スティングルは斥候兼遊撃――まあしばらくは必要ないだろうがな」
「おう、任せろ」
「よし、行くぞ!」
リーダーの号令で、ヴァスティーユを先頭にダンジョンへと侵入を果たす。
これが僕のダンジョン初体験。
何だか心が躍る。
どんな未知が待っているのか、どんなお宝が待っているのか。
「……ふむ、やはり人が多いな」
階段を下りた先は、まるで古城の内部のような作りになっていた。
広い踊り場、石造りの壁、たくさんの部屋、そして2回へと上がれる階段が見える。その先にもいくつもの部屋が。
パトルスさんの言う通り、他にもたくさんの冒険者らしき人がおり、中にはスケルトンと戦っている者たちもいた。
「新しくできたばっかだからな。みんな一攫千金を狙ってんだろ」
「そうだな。予想通りお前の出番はまだ先みたいだ」
「まっ! せっかくだししばらく気楽にいかせてもらうぜ!」
先ほどリーダーが言っていたのはこのためか。
気楽にするとの言葉通り、暇そうな顔をしたスティングルが横に来た。
「よお坊主。悪いが探索中は敬称略ってやつで行かせてもらうぜ?」
「構いません。それより、スティングルさんのお仕事――斥候というのを教えてくれませんか?」
「スティングルでいい。斥候っつーのはな、簡単に言えばパーティより先に進んで罠や敵の危険を見つける役目だ」
「なるほど」
予想通りの答え。
今は他のパーティがたくさんいるから彼の仕事はないのだろう。
「罠の解除っつーのもあるぜ。物理的に解除するものもありゃ、魔法を使うこともある」
「魔法? 魔法で解除できるんですか?」
「ああ。魔力を通わせることで罠の仕組みを破壊するんだ。見つけたら試してみるか?」
「ぜひ!」
やけに挑発的だったり口が悪かったりするけど、誤解していたようだ。
スティングルは面倒見のいいあんちゃんって感じ。ツンデレ成分も含む。
口が悪いのはツンだからか。
「ま! おめぇみてえなガキにできるわきゃねぇけどよ!」
「死ね」
「…………」
そしてロロップとは相性が悪いようである。非常に。
「おーこわ! けどいいのか? お前ずっとガキを抱えてっけどよぉ、それじゃあいざというとき身を守れねぇぞ?」
「わからない? これでいつでも私が旦那様の盾になれるってこと」
「……そーかい。そういうこったら別にいいけどよ」
そういう意図があったのを初めて知った。
とはいえ僕自身に『聖女の守り』がある以上、近くにいればロロップも安全ではある。
あれ、そういえば――。
「ロロップも冒険者だったよね? ダンジョン行ったことあるの?」
「ないぴょん! 一緒に初めて、しちゃったぴょん♡」
「そ、そうね……」
総勢7人でね。
「私はお外ではっぱ集めたり、魔物を倒したりぴょん!」
「へえ。嬢ちゃん、ランクは?」
「D」
「ガキと対応違いすぎてウケる。Dとか駆け出し――いや、すまねぇ。悪ぃこと言った、忘れてくれ」
スティングルが言葉を変えたのは、決してロロップが睨んだからではない。
その目がうさ耳を見たことに気が付いた。
獣人の事情を察したのだろう。
つまり、ランクを上げたくても上げられないような不当な環境にあったのだと察してのことだ。
「……実は、耳……切って人間のふりして活動してたぴょん」
「お? ……そうか」
「今は旦那様が治してくれたぴょん!」
「…………はっ! だったら、やっぱり駆け出し冒険者ってことじゃねぇか! おとなしくしとけよ!」
「ウザ」
どうやらロロップとスティングルも少し打ち解けたようである。
スティングルの悪態も、意訳すると『気を付けて、俺らに任せとけ』ということだろう。
実にめんどくさ――頼りになるやつだ。
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