第84話 夜なべする0歳児
逃げ出した、と言ってもすぐ近くの店の影からこちらを伺っているのが見えた。
かわいいうさ耳が飛び出ている。
「ロロップよ、怒らないと言っただろ」
「ぴょん……ごめんなさいぴょん」
神殿への道を進みながらしかし考える。
僕は怒らないが、関係者にバレたら怒られるだろうなと。
ついでに僕も監督不届きとかで怒られそう。
つまり、僕としてもバレる訳にはいかないのだ。
「誰にも内緒だ。僕とロロップだけのな」
「ぴょん♡ 何だか素敵な響きぴょん♡」
「うむ」
気分をよくしたロロップがすり寄ってくる。
残念ながら身長差で足としか触れ合えない。
いずれ蒸れ蒸れになるであろう足と。
「ぴょん♡ えっちなこと考えてるぴょん♡」
「は? 考えていないが? 何言ってんだ? は?」
「お鼻♡ ぴくぴくしてるぴょん♡」
この鼻め。
いや、母様からいただいた体に文句を言うのは筋違いだ。
僕の性格に文句を――いいや、母様に育てていただいた性格に文句を言うのも失礼だ。
つまり、そういうことか。
「主と母様は仰った。『汝欲することをせよ』と。僕がお前の足に惹かれているのは事実だ、今すぐにでも触りたい」
「ぴょん……♡ えっちぴょん♡ 嬉しいぴょん♡」
「…………」
勢いとごまかしの果てにとんでもないことを言ってしまった気がする。
顔が熱い。
それをさらにごまかすように、別の話題を振る。
「可能なら、そのブーツにも魔道具化を施そうと思うのだが、どうだろう」
「ぴょん! 嬉しいぴょん!」
「うむ。さしあたり思いつくのは地属性の『硬質化』あたりだな」
「お任せぴょん♡ でもでも、ちょびっと重たいから軽くしてくれると嬉しいぴょん♡」
「ならばなぜその鉄で作ったんだ」
「頑丈で強そうだからぴょん!」
つまり頑丈さを損なわないように軽くする、ということか。
風の属性でどうにかなるかな。
神鉄とやらに刻めるかも不明だ。そもそも神鉄ってなんだ?
「まあ、あまり期待しないでくれ」
「ぴょん♡ 期待しかしてないぴょん♡」
◇◇◇◇◇◇
神鉄。
ほとんど魔力を通さない物質で、とにかく硬くて重い以外に特徴がない鉱石。
そのため武器や防具に使用されることはほとんどなく、一方で日用品や鍛冶師のハンマーとしては人気の素材だったため、民のてつ鉄、『民鉄』と呼ばれていた。
しかし聖マーリユスが武器の素材として注目、その剣を振るう姿とどんな敵も叩き潰す壮絶さから武器としても人気が高まった。
その人気と、そもそもの採取量が少なかったことから、現在はほとんど姿を見ることができなず、名称もいつしか『神鉄』と改められた。
「なるほどな……『これで君も鍛冶師になれる~初級編~』、意外とちゃんと載っているではないか」
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加工には通常の鉄よりさらに熱が必要、1度溶かさないと傷をつけることすら難しい、か。
そもそも魔力を通さないとあるから、『神鉄』そのものに刻むのは得策ではないか。
「ワイバーンの皮に刻むか……? いやそれだと皮が硬くなるだけかもしれん。それだと逆効果だな。一応衝撃を緩和する役目もあるらしいし」
難しい。
あのキラキラした目を裏切りたくない。
あのすべすべした足を――。
「……衝撃を緩和する機能が乏しいと言っていたな」
ならば、靴そのものではなく、すべすべな足を守るための靴下ならばどうか。
僕は『高機能糸吐き機』なのだ。
靴下を編むことなど造作もないだろう。
そして重大なことに気が付いてしまった。
「これって……僕そのものがロロップの足を包むことになると言っても過言ではないのでは!?」
そんなの……そんなの許されるのでしょうか!
主よ!
「はあ、くだらないことを言っていないで一刻も早く作ろう」
編み物などやったことはないが、一般的な母親が夜なべをすれば手袋を作れるのだ。
史上最高の母様の息子である僕なら数分で作れるだろう。
手袋も靴下も似たようなものだし。
「…………」
とりあえず指先から糸を出す。
今回はほぼ芋虫の糸を使用し、ベースとなる靴下をまずつくり、後に魔法陣用の糸を縫い付けよう。
属性と言えば、火、水、風、地、そして光と闇と聖。
結局僕はすべての属性が使えることがわかったのだが、その適性はバラツキがあった。
聖が最大で、闇、光、地、風、水、火の順に適性が低くなる。
しかも風から下は実戦で使えるレベルではなさそうだった。
「しかし、地の属性が使えるのは僥倖。これならアレも……くっくっくっ!」
思わずゲオルディクスのような笑みがこぼれてしまう。
やはり、この笑い方は企みごとがある時に出てしまうのだろう。
つまりゲオルディクスは信頼のおける人間ではないということだ。
「くっくっくっ……くーっくっくっくっ!」
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