第75話 危機を感じる0歳児
アステラと別れ、休憩するという言い訳で自室に籠り『聖子印聖子』をせっせと作る。
横でジッと見ているロロップが気になるが。とりあえず放っている。
「ぴょん……また旦那様が減っちゃうぴょん」
「どうせまた元に戻るよ」
「ぴょん。これでどのくらいぴょん?」
「そうだね……大体3か月くらいかな」
「ぴょん……3か月分……それを3人分で……ぴょん♡」
どうして3人分なのだろうか。
今用意すべきなのはアステラの1人分だけなのだが。
まさか自分も欲しいということなのか……。
「失礼します。イクラウス様、御夕食の準備が整いました」
城のメイドさんと思われる人が、扉の向こうから声をかけてくれる。
もうそんな時間か。
ずいぶん集中していたようだ。
「今行きます」
「ぴょん!」
ロロップを連れ立って食堂へと向かう。
そこには既に昨夜と同じ方々が揃っていた。
グラシェルノを見てみると、相変わらず固まっている。
どうやら王妃様と第2王子は、今日も最初はいてくれるようだ。
「お待たせして申し訳ございません」
「ぴょん!」
「揃ったか。では料理長、頼む」
王様の言葉で今日もおいしそうな料理が運ばれてくる。
縮んだ体にはたまらない匂いが――。
「こちら、グランデシャイン特産の――」
「……何だと」
「はい、グランデシャイン特産の――聖子様!?」
思わず立ち上がってしまう。
なぜなら今、とんでもないことが起こっているからだ。
1番恐れていた事態が。
「いかがなされた聖子殿。もしやこのグランデシャイン特産のシャイニングサソリを使ったシャイニングスープが気に召さないか? 見た目はアレだが、実にうまいのだ。普段他国の客には出さないが聖子殿にぜひ召し上がって欲しくてな……ほら、毒もないぞ」
普段威厳たっぷりの王がシュンとしている顔は珍しい。
王自らが口に含み安全をアピールしてくれているのは、本当に食べて欲しいからだろう。
しかし、今はそれどころではない。
それどころではないのだが……。
「ゴレイヌ……」
「いかがしました? 見た目はアレですが、実に食欲をそそる――」
「そうではない、僕は……行かなきゃ……」
ここが世界有数の国なのは知っている。
その会食のにおいて席を外すことがどれほどの無礼に当たるかもわかってる。
「……イクラウス様、先日申し上げましたが、よほどの事情がない限りは」
「…………くっ」
よほどの事情、ではある。
だがそれを説明する手段がない。
言っても誰も信じてくれないだろう。確かめようもない。
どうすれば――。
「ちっ! ちちちち――父上ぇぇっ!!!」
「む? シェルノ?」
焦り悩んでいると、グラシェルノが急に大きな声を上げた。
「じ、実はぁっ! 僕! イクラウス様と実験することになってましてぇ! 今すぐ!」
「何?」
「い、今すぐ行かなきゃ……実験がうまくいかなくてぇ……そ、それでぇ……」
「…………」
「い、行ってもいい、でしょうか……い、いえっ! 行かせてくださぁぁいっっ!!!」
「…………」
周囲の者、みんな呆気に取られている。
当然だ、あのグラシェルノが大きな声を上げることなど。
ましてやこのような席で退出を宣言するなど。
昨日は緊張で終始固まっていた彼が、そんなことするなんて信じられなかったのだろう。僕もだ。
「……ふむ、シェルノよ」
「は、はい……」
「よき友を持ったな」
「へぇ?」
「行くがよい」
「えっ!?」
「どうした、お前が言ったのだろう? 聖子殿を連れて行くがよい。ロロップ殿もか?」
「は、はい!」
グラシェルノ……ありがとう。
そうだ、アステラに伝えなきゃ。
「アステラ!」
「は、はい!」
「例の物は部屋にあるから! それと……愛してる」
「はっ! はひぃっ!」
言っちゃった。言ってしまった。
母様以外に……何でだろう。
きっと焦りから――いや、もしかしたらという不安からか。
「それではみなさん、無礼をお許しください、主の加護がありますように!」
そしてグラシェルノとロロップを連れて王城の玄関に走って向かう。
「グラシェルノさん、ありがとう」
「ううん、どうしても、行きたかったのでしょう?」
「はい」
「王都に来た時に言ってましたものね……!」
「……それ、違う」
「へ……?」
違う。
娼館のことじゃない。
娼館に行きたくて王族との晩餐を抜け出すとか、めちゃくちゃ怒られる。さすがの主も怒るだろう。
「で、ではどこに……?」
「……神殿へ」
「ええ!?」
さすがに予想していなかったのだろう。
しかしグラシェルノはここまでしてくれたんだ。簡単にでも伝えなければ。
「今、母様の身に危険が迫っている。だから、行かなきゃ」
神殿が襲われている可能性が、ある。
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