第76話 分体から危険を知らされる0歳児
母様の身に危険が迫っている。
それを知らせたのは、僕。
母様の近くに安置しているウサギのぬいぐるみ、その中にいる、僕の分体。
もちろん別個に意思がある訳ではないが、常にとある魔法を発動するように設定している。
「母様を常に守っている『聖女の守り』。それが何者かの攻撃を受けた」
「そんな! でも神殿までとても遠くて……」
「…………」
「いえ、イクラウス様なら可能なのでしょう。わかりました、後のことは任せてください!」
グラシェルノ。
人一倍恐怖感の強い男。
その実、一途にして誰かのために強くなれる、貴ばれるべき男。
「友よ、グラシェルノさん。ありがとう」
「こちらこそ、イクラウス様! 僕の……友達!」
彼に別れを告げ、ロロップに抱えなおしてもらい夜の王都を駆ける。
みるみる城が小さくなり、王都を守る城壁を飛び越え、街道についた。
「ぴょん! どういうことぴょん?」
「言った通りだよ。何者かが母様に対して害意を持って近づいている。今視るよ」
「ぴょん!」
視る。
それは、意識を向こうにいる僕の分体と繋げるということ。
今アステラの中にいる細胞のような、完全に分離した“僕”とは接続できない。
ではどうするのか。答えは単純である。
「今も魔力で繋がっている“僕”に接続……!」
急ぎ足の馬車で3日。
その距離を延々と伸ばし続けた魔力を辿り、視界は遠く離れた神殿へ。
さすがに操作はできそうにないが、接続はできた。
「ゲオルディクスに……男3人に……女1人」
まさか、やはりゲオルディクスが裏切ったのだろうか。
いや、不審者たちと向かい合っているところを見ると制止してくれているらしい。
声が聞こえないのが惜しい。
「あいつら、神殿だというのに剣を持ってる……!」
「ぴょん? 神殿の中は武器持っちゃいけないぴょん!」
「ああ……しかもその剣見覚えがある……いや見たことはないはず……あっ!」
数日前、ゴレイヌが聖剣について調べてくれていた。
その時に彼が持ってきた資料に描かれていた剣だ。
なんとなく剣からは聖なる魔力を感じる。
間違いない、あれは聖剣。つまり――。
「勇者だ……あいつらは勇者!」
「そんな! 勇者がお義母様を!?」
「そのようだ……まさか本当に敵だったなんて!」
観察を続けていると、勇者と思われる人物が見えない壁――僕の『聖女の守り』を殴りつけているのが見えた。
「まだ大丈夫みたいだが……時間の問題かもしれない。ロロップ――」
「任せるぴょん! 旦那様、『おーら』お願いぴょん!」
ロロップはいつも僕を支えてくれる。
彼女にも、ちゃんと伝えなきゃいけないな。
でも今は進むことだけを考えよう。
「距離にして約100キロ。ロロップ、大変だと思うが……頼めるか?」
「ぴょん! 旦那様のためなら! むしろご褒美ぴょん!」
「任せた。『オーラ』!」
光属性に属する、身体能力を向上させる魔法をロロップに使用。
ただでさえ早かった足が、比べ物にならないものとなる。
木々が残像になり、走っている環境が僕には全くわからないものとなる。
ぶつかる風に押しつぶされそうだ。
「ぴょん! お義母様、待ってるぴょん!」
ロロップの声も良く聞こえないまま、闇の中を駆け続けた。
その間も、考えるのは母様のことばかり。
僕の守りが及ばず、あの男に乱暴されたら、誘拐されたら……殺されてしまったら。
「……くっ」
「…………」
もしそうなったら、誰を恨めばいいのか。
遠因であるグラシェルノか、油断して遠征した自分か、救いをもたらさない神か。
恨みたくない、誰も恨みたくない。そんなことになるなんて、決して許されない。
「ハァ、ヒィ、旦那様、回復を、ぴょん」
「ロロップ……『聖なる癒し』」
「元気もりもり! ぴょん!」
体力は回復する。
しかしそうして無理やり走らせる負担を強いて申し訳ない気持ちになる。
精神的な負担はあるだろう。暗い夜道に集中も切らせない。
それでも彼女は走ってくれている。
「ぴょん!」
「『聖なる癒し』」
主よ、母様よ……彼女にご加護を。
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