第69話 夢を馳せる0歳児
そして3日目の昼頃。
僕らはついにグランデシャイン王国へとたどり着いた。
厳密に言うとグランデシャイン王国は大国なので、『〇〇領』といった領地が複数存在し、とっくに王国の内部には入っていたのだが。
つまり、今日は城が見えたということ。今は王都周辺を囲む城壁の前にいる。
「着きましたね」
「う、うん……」
自分の家の目前に着いたというのに、第3王子はプルプル震えている。
昨日こっそり行った魔石の質実験の時とは別人だ。
ちなみに、やはり魔道具の効果は魔石の質が大きく関係していたことを確認できた。
「既に先触れは出しておりますので――おや、あの方々が案内してくださるみたいですな」
非常に大きな、頑健そうな城壁。
そこにある入口へと向かう。
「聖イルミナス教会様方、遠いところお越しいただき、誠にありがとうございます! つきましては、お荷物の確認をさせていただきたいのですが……」
「もちろんです」
事前にゴレイヌに聞いていたが、いくら教会の使者といえど手荷物検査は避けて通れないそうだ。
教会の人間だって悪いことをする者もいる。
時には名前を騙る偽物だっているだろう。
仕方がない。
「おお、あなたが聖子様――後ろの獣人の方は?」
「彼女は僕の大切な友人です。どうか、丁重に扱っていただけると……」
「あ、いえ。どうして聖子様の背中に顔をうずめているのかと」
当然の疑問だった。
怪しい挙動に間違いはないので、ロロップに声をかける。
「ロロップ、終わり」
「あ、あとちょっとだけ……」
「散々吸っただろう。ここに来る間ずっと」
「だってぇ……この後アステラちゃんに会うんでしょ? ぴょん……」
ああ、だからか。
それが寂しくて吸っていたのか。
逆の立場だったら僕も吸っている。
「兵士様、どうか――」
「すみません、規則ですので」
「――ですよねー! 『洗脳』!」
あ。
やっちゃった。つい。
「……はっ!? これは失礼しました、既に検査を終えておりましたね! ではあちらへどうぞ!」
「うむ、よきにはからえ」
冷汗を垂らしながら、努めて冷静に周囲をこっそり見回す。
パンツが見えている女子を、気が付かないふりしてこっそりチラ見するが如く。
……大丈夫だ、誰も気が付かなかったようだ。
無事に検問も終わり、門を潜った先はまるで別世界に来たような感覚に陥る。
どこもかしこも人。そして店。
質、量ともに幅広そうだ。人も店も。
「おお、我ら聖都とはまた違う街並みですなぁ!」
「ほう……」
門をくぐった最初の大通りだからだろう、本当に賑やかだ。
ゲオルディクスから聞いていたように獣人の姿もチラホラ見える。
中には肌の色すら異なる人種も。
「ゴレイヌ、彼らは?」
「ああ、魔族の方々でしょう。彼らは、その……」
「何だ、言いにくいのか?」
「……ええ、大きな声では言えませんが、魔物との混血、と噂される方々です」
獣との混血は獣人。
魔物との混血が魔族。
なるほど。もしかしたら彼らも被差別されているかもしれないな。この国は違うだろうが。
「とはいえ! 我ら主の元にみな平等ですから!」
「わかっている。ありがとう」
ゴレイヌも敢えて俗な噂を教えてくれたのだろう。
見た目はどうだろうが、彼らが権利を主張し、神の恩恵を訴えるならば、我らもそれを受け入れるだけ。
「むっ! ゴレイヌ! あれは!」
「どうしました?」
そしてついに見つけてしまった。
大通りから少し裏に入った場所。
昼間だというのに、胸元を強調しているお姉さんが立っているところ!
主と同様、希望を授ける場所。戦う男たちの癒しの場。まさしく約束の地!
「ゴレイヌよ、今宵の目的地はあそこだ。聖子として、僕は行かねばならぬ」
「むむ、どこのことですか?」
キョロキョロと馬車の外を眺めるゴレイヌ。
こいつには見えなかったのか。確かに少し距離があるし、もう影になってしまって見えない。
だがこいつも好きに決まっている。
「しかしイクラウス様。さすがに今夜は歓待を受けることになるでしょうし、特別な理由がなければ抜け出せないかと」
「…………」
娼館に行きたいと言ったらどうなるだろうか。
多分めちゃくちゃ怒られると思う。
グラウゼルに頼んだら連れて行ってくれそうだが。
明日聞いてみよう。
「グラシェルノさんも明日――グラシェルノさん!?」
「…………」
めちゃくちゃ震えている。
馬車の振動で気が付かなかったが、ものすごく震えている。
女性に夢を馳せている場合じゃなかった。
「大丈夫、大丈夫ですよ……主があなたを見守っておられるはず……!」
「は、はははは……はい……」
妹のことで感謝をいいにわざわざ来てくれたんだもの。
そんな優しい人が怒られる訳がない。
「大丈夫ですよ。私が何とかしましょう!」
「うううう、うん……」
しかし僕はいつも通り甘く考えていたようだ。
そもそも、僕は彼の王に頭が上がらないということを、すっかり忘れていたのだ。
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