第67話 トラブル処理する0歳児
今日も今日とて、グラシェルノと魔道具作りの話に花を咲かせる。
「魔法陣を描くのに同属性の魔力を込めて古代文字を刻む必要があるというなら、それは魔石でなくてもいいのでは?」
「……というと?」
「例えば糸を魔力で浸したもので刺繍のようにしたり――」
「それは盲点でした! いけそうですね……早速試して……しかしどのような浸せば……いや魔物の素材を使ってみるとか……」
今回は古代文字を刻む方法。
どうやら先日魔石で古代文字を書いていたのは、属性を込める必要があったかららしい。
細かい粒子のようなものが付着したのだろう。
そして、実は紙というのも良くはなかったそうだ。
素材とその属性に親和性がないと最大限に効果を発揮することは難しいらしい。
「すごい……1人で考えるよりずっとたくさんのアイデアが沸いてきます。しかし僕1人じゃとても……そうだ」
「どうしました?」
「今度古代文字を翻訳したもの辞典を送りますから、イクラウス様も時間があるときに試してみてください!」
「え、でもそれってさすがに機密情報なのでは……?」
膨大な利益を生むであろう機密、それに加えて悪用したら兵器にもなる。
そんなものをこうも簡単に流出させてはさすがにグランデシャイン王国も黙ってはいなさそうだが。
「……僕らだけの秘密ってことで!」
「……ふふ、ではありがたく頂戴します。主と母様に、決して悪用はしないと誓いましょう」
あくまで身内用に使わせてもらおう。
ロロップのチョーカーも急ごしらえだし、マリンたちにも何か用意したい。
それこそインスタント聖剣なんか。いやマリンの場合は剣というより……うん、魔法少女路線で行こう。そうしよう。きっと似合う。
「イクラウス様、少々よろしいでしょうか」
「ん? ゲオルディクスか。どうした?」
ゲオルディクスが入室してくる。
その手には何やら手紙を持っている。
そしてその手がぷるぷる震えている。ついでにコメカミもピクピクしている。
完全に怒っているようだ。
「ほ、本当にどうしたんだ……?」
「これを……」
「ん? この手紙は……?」
「要約すると、『うちの第3王子をしらないか?』と」
「…………」
「『うちの第3王子をしらないか?』、と」
誰が出したかなど、わかりきっている。
手紙を入れていたであろう封筒、そこに施された封蝋に見覚えもある。
「我々はてっきり……というか当然、グランデシャイン王の許可の元こちらに参られたのかと……」
「…………」
そういえば言っていたなぁ。
誰も家臣が付いてこなくて1人で来た、と。
家族にも知らせずに来ちゃったかぁ。
「ご、ごごご……ごめ、なさ……」
「ごめんで済めばいいのですが……最悪の場合戦争にもなりえます。というよりも、御身の安全のことを考えても2度としない方がいいかと」
「は、ははは……はい……」
厳しいようだが、その通りではある。
こちらは全く意図していなくても誘拐だなんだ言われたら立つ瀬がない。
しかしせっかくできた友人、このまま見捨てるのもかわいそうだ。
「ゲオルディクス、これは教会としても丁寧な対応が求められるな」
「まことその通りです」
「であれば、教会聖子の僕が自ら送り届けよう」
「……確かに、それはよい方法ですな」
ついでに我が婚約者の様子も見ることができる。
喜んでくれるだろうか。
「しかしよろしいので? お母様のそばを離れたくないと、ことあるごとにゴネ通す甘えん坊ちゃまなのに?」
「問題ない」
母様の傍にはウサギのぬいぐるみが――僕がついている。
しかしこの狸め、僕のことをどう思っているのか。
「……ではそのように取り計らいましょう。急ですが、今日中にでも発てればと」
「よしなに」
急いだ様子でゲオルディクスが退出していく。
その様子を涙目で見ていたグラシェルノが震えながら口を開いた。
「ご、ごめん……」
「しょうがないですよ。というか家臣の方の手落ちだと思います」
「……彼らにも悪いことをした」
「…………まあ、寛大な対応を僕からもお願いしてみます」
せめて首だけは飛ばないよう、拳骨で済ませてあげて欲しいと。
だが……仕えている主人を放っておくやつらに必要な慈悲かはわからないな。
「さて、慌ただしくなるけど……やり残したことはありませんか?」
「……はい。あ、そうだ。古代文字を刻む方法だけど――」
こんな時までそんな話をしなくても。
そう思ったが、そういう人間だからこそ偉大な発明にたどり着けたのだろうな。
「――なるほど、全ての文字を繋げるようにすることで円、循環としての意味合いが……」
「その通り!」
結局出発の直前まで話は続いた。
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