第62話 考える0歳児
『まだその時ではない』
その神託を受けてから数週間。
僕本人が受けた訳ではない神託だが。
「力が足りないことを言っているのか、いや……」
そうではなく、今母様を目覚めさせてはいけない何かがあるのか。
その可能性が高いと見てはいるが、実際のところわからない。
明確な言葉を寄こすように毎晩祈っているが、何も起こらない。
おお主よ、どうして答えてくださらないのか。本当に。
「神め、なぜ邪魔をする……あ、そうか」
ならば、神の妨害をものともしない力を付ければいいんだ。
神を殺す、そういう逸話はごまんとある。実際に殺すつもりはしないが。
方向性は定まった。後の問題は、方法だ。
「何かいい方法はないものか……」
そんなことを考えながら日々を過ごしていた。
今日もそして終わるのかというところ。
この日は少しだけ違った。
「おっそよー! イクラウス様!」
「ん? クゥか……いいのか、こんな時間に」
まためんどうくさいやつが来たなと思わないこともない。
しかしクゥの奴、そろそろ仕事――使命の時間でないのだろうか。
以前こっぴどく怒られたらしく、それ以降はしっかりやっているらしい。
「仕方ないじゃないですかぁ~……イクラウス様にぃ……会いたいって……」
「クゥ……」
普段元気とウザさが爆発しているクゥの奴が珍しくしおらしい。
こんなこと言うなんて、何か嫌なことでもあったのだろうか。
しかしかわいいことをいうもんだ。
「クゥ、何か悩みでもあるのか? 僕にできることなら何でも――」
「この不審者さんが! 会いたいって!」
「は?」
「いんやー参っちゃいましたよ! お仕事しようとしたらこの変な人がコソコソしてて! 話を聞いたら『聖子様に会いにきた』だなんて言うもんですから!」
そう言う彼女の後ろには、ベージュのフードを深く被り、猫背になって震えている男性がいた。
確かに不審者。
「なぜ門兵に突き出さない! 不審者を連れてくるな! 自分で言うのもなんだが僕は守られる立場だ! あと不審者に近づくな!」
「やだ、嫉妬!? イクラウス様ったらぁん☆ そんなことしなくてもぉ、クゥの体はイクラウス様だけのものですよぉ!」
頭は僕の物ではないらしい……そうじゃない。
なんとなく目の前の男は無害そうに見えるが――事実『聖女の守り』は発動していないが、そうでなかった場合本当に危険だ。
「んじゃ! クゥには使命がありますから! 人類の希望になるという偉大な使命が!」
「あ、おい! 話はまだ――」
「あ、それと! さっき『何でもしてやる、愛しいお前のためならば』って言ったの、忘れないでくださいねー☆」
「……さっさと行けっ!」
捏造も甚だしいが、どうしようもない。
今は目の前の不審な訪問者の対応を考えよう。
「あ、あのぉ~……」
「……どのようなご用件かは知りませんが、まずは門兵に要件を伝えてもらってから正式な手続きをお取りいただきたい」
「……と、取りました……」
「…………」
「…………」
何か様子がおかしい。
声からしてまだ若い感じがする。
フードの男は、体を強張らせながら話を続ける。
「も、門兵さんに……要件伝えて……お金も、は、払って……」
「…………」
「ひ、人に会うのがこわいから……ゆっくり……か、隠れながら向かっていたら……」
「…………」
「……あの子に見つかって……」
「……ご愁傷さまです」
どうやら彼もクゥの被害者のようだ。
しかし他の神官はなぜクゥやこの男を素通りさせたのか。
クゥだからか……。
誰もが目を合わせたくないのだろう。
「あ、あの……あなたが……イクラウス、様……?」
「そうです。教会の聖子、イクラウスと申します」
「……会いたかった……!」
突然フードの男に両手を掴まれる。
しまった、油断していた。
まだこの男が何者かわかっていないのに。
「ちょっ――」
「妹を、ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」
しかしその男は両手を掴んだまま――いや、感謝の思いを込めて包み込んだまま、跪いて泣き崩れる。
「君のおかげで……本当に……!」
「……あなたは……?」
「…………」
男は言葉の代わりに、フードを取る。
ボサボサの緑色の髪、泣き崩れてはいるがそれでもわかるきれいな顔立ち。目の下にクマが薄っすらと見えるが。
そして男は胸元のペンダントを取り出して僕に見せた。
「これは……どこかで見たような?」
「僕……私は、グランデシャイン……3番目の、男子……です……」
3番目の、王子だった。
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