第60話 ゴレイヌと0歳児
そして翌日の、というよりも同日の夕方。
僕は再びミレイのところに訪れている。
ここ最近闇魔法が上達した実感と、聖魔法の使い手としての心構えを教えられたことで、変わることがあるのではという期待を胸に。
「ミレイ、また来たぞ」
「……坊ちゃん、ですか。懲りないですね」
「ああ、お前を助けるためだ」
「……あまり大きな声でそういうことを言わない方が――」
まただ。
ミレイはまた、僕のことを気遣う。
いい加減にしろ、苦しいのは自分だろう。
「構わない! 僕は声を大にして言う! ミレイを助けるためにここにいる!」
「坊ちゃん! おやめください! そんなことすればあなたが――!」
「ミレイは僕の母親同然だ! 真犯人をこの手で捕まえる! だからそれまで待ってて!」
自分が正しいと思ったことを、もう恥じない。
嘘をつく必要はない。
……たまにごまかすかもしれないけど。
「……おバカな……おバカな坊ちゃん。これじゃあ……もう、死ぬなんて言えないじゃない」
「主がそれを許そうと、僕と母様が絶対にそれは許さない」
「……では、待ちましょう。幾星霜の時がかかろうと……主が迎えに来る、その時まで……」
「そんなに待たせてたまるか。ミレイには僕と母様の結婚式に来てもらうのだからな」
「それは……絶対におとめしなければ。早く助けてくださいね」
「……うん。それじゃあ、いくよ!」
かつてないほど、自分の力が高まるのを感じる。
聖属性と闇属性は違うが、いや魔法の使い方は同じだ。自分の中のイメージを、確たる意志の元に行使する!
「『マインドスティール』」
前にそれを使った時と同じ。
ミレイが部屋に来る前、食事を作る前、顔なじみの商人から食材を買う前、市場に寄る前、いつの間にかその手に植物を持っていた。
だが。
「(見せろ! この先を! 僕に見せろ! お前は誰だ! 絶対に見つけてやる! 姿を、現せ!!!)」
聖なる魔法を、ミレイに行使する。
悔しいだろう、ミレイ。大切な人を、自らの手で殺させようとしたそいつを見つけたいだろう。八つ裂きにしたいだろう。
一緒に否定してやろう、そいつの魔法を。そいつの存在を。主が許そうと、僕らは許さない。
「(ミレイの頭から、出ていけ!!!)」
突然、映像にノイズが走る。視界が暗転する。ミレイの頭の中から弾き飛ばされそうになる。
しかし、その瞬間――確かに見た。ついにたどり着いた!
『あらぁん♪ おいたはダメよ、ぼくちゃぁん♪』
「ぶはぁっ!? ハァー、ハァー……」
「ぐぅぅ……はぁはぁ……」
その言葉を最後に、僕らは元の場所に戻った。
いや移動をした訳ではないが。
「見つけた……見つけたぞ……!」
「……や、やりました……坊ちゃん……! 私にも見えましたよ……!」
真っ黒な外套を被り、顔もほとんど見えなかった。
しかし、胸元までの長さの派手なピンクの髪。そして口元のほくろ。
十分だ、今までに比べたら十分すぎる成果だ。
「よし……よぉしっ! やったんだ! よくやったぞミレイ!」
「イクラウス様……! 本当に……本当に良かった……!」
「ああ、お前も本当に――本当に……ほんとうに……かわいいね、ミレイ!」
「イクラウス様! このゴレイヌ、我がことのように嬉しゅうございます!!!」
いつの間にか横にいるゴレイヌ。大泣きしている。
これ、ごまかせないやつだ。
「ゴゴゴゴレイヌよ、いつからそこに!?」
「イクラウス様が大声を出したので、何事かと……そんなことよりも! やりましたな!」
ほぼ最初からじゃないか。
つまり闇魔法を使っているところも見ている訳だ。
よし、洗脳しよう。
「思えば長かったですな。当初即刻処刑すべしとの声を無理やり抑え、牢屋にて厳重に監禁とはほとんどの者が疑問に思いました」
「…………」
「そこから何度かミレイ殿のところに通っているうち、何やら怪しげなことをし始めたイクラウス様のことを、当時は訝しみました」
「…………」
「ですが、普段ほとんど表情を変えないあなたが、泣きそうな顔で心底悔しそうに顔を歪めるのを見て……信じようと思ったのです」
「…………」
いつから見ていたのか。
今日ではない。
事の始まり、ほぼ最初っからだ。
つまり、ずっと前からゴレイヌには闇魔法のことがバレていたんだ。
「坊ちゃん……大人顔負けのことをやるくせに、時々子どもみたいに注意力のない坊ちゃん」
「その語り口、完全にゲオルディクスだ」
僕のこと『坊ちゃん』呼びするのもそう。
「失礼よ、とても。あいつが私の真似をしたの」
「その言い草が失礼だと思うよ」
しかしどうするか。
黒幕の姿が僅かだが見えたのは大きな前進。
ゴレイヌのことは……。
思わず彼を見つめてしまう。
「ご安心を。ミレイ殿についても、信じるに値すると判断いたしました。私もあなたの助けになるよう動きましょう」
「あら、どうしたの突然。私が嘘ついている可能性だってあるのよ?」
「イクラウス様が信じるあなたを信じる。それだけです」
今回のことで、僕もミレイの冤罪を確信できた。
でも、それはあくまで僕らが言っているだけで、客観的証拠ではない。
だけどゴレイヌは信じてくれると言う。
「ゴレイヌ、お前も……主が僕の元に遣わせた人間なのだろう。ありがとう」
「イクラウス様……誠に過分なお言葉。しかし……万感の思いでございます」
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