第59話 隠す0歳児
夜も更け、そろそろ家に帰らないといけないと焦りが脳裏に過ったとき。
聖フランボワーズさんがそれを察したように口を開く。
「我々はそろそろお暇しましょう。史上最もかわいい聖なる使い手さん」
「それは母様です! 僕ではありません!」
「いいえ、あなたはかわいいですよ」
「ぴょん! ぴょーん!」
ロロップが、同意なのか怒っているのかよくわからん顔して鳴いている。否、吠えている。そして正座したまま跳ねている。
「そうか? 私からしたら――」
「それはそれで腹立つぴょん! かわいいって言うぴょん!」
すごいな、このウサギ。
“苛烈”様に対して憚ることなく食って掛かってる。
「いやイクラウスは――まぁ、そうだな、うん」
「…………いやなんですか。言うなら言ってくださいよ!」
「いや……まぁ、うん」
「……ひどい」
マーリユス様は何を言い淀んでいるのか。
そこが気になって夜も眠れなさそう。
「……そうだ、私の剣はまだあるかな? 恐らく墓の中にあるはずだが……うむ、あったな」
「ぴょん!?」
勢いよく骨の拳を地面に突き刺し、自らの墓を荒らす聖女様。
とりだしたのは、とても大きく重そうな大剣。
長さ2メートル、横も50センチくらい、厚さも5センチくらいありそうな、最早鉄の板のような剣だ。
片方だけが刃となっているようで、色が白い。持ち手には布が巻かれているだけだ。ボロボロだけど。
「継戦だけを考えて作られた、頑丈だけが取り柄の愛剣だ。多少ガタついてはいるが、整備すれば使えるだろう」
「え?」
「やる」
「そんな――」
「やる。うさぎ、お前に」
僕じゃないんかい。
まあそんな大剣、使える日が来るとは思えない。
なぜなら母様も使えなさそうだからだ。
「ぴょん? そんなもの貰っても旦那様はあげないぴょん!」
「そうか? 残念だ。イクラウスのこと気に入ったのだが」
「ぴょん!?」
「冗談だ。この剣で大切な人を守れ。獣人の騎士よ」
「……ぴょん。ありがと……」
ありがたいな。
ロロップは大剣を、僕には知識を。
この夜に得た物は、果てしなく大きなものだろう。
「それでは、2人に主のご慈悲があらんことを――」
「いつでも呼べ。史上最も――」
消えた。
聖フランボワーズ様は慈しみ深い祈りとともに。
聖マーリユス様は結局気になることを言わずに。彼女は僕に不眠をもたらしたいようだ
「ぴょん!」
「ん、帰ろう」
◇◇◇◇◇◇
教会の自室へとたどり着いた僕ら。
時は既に明け方、太陽が顔をひょっこり覗かせているところである。
「ふわぁ~……今日は寝るぴょん……一緒に寝るぴょん?」
「いや、僕は女性用宿舎に行く訳にはいかないからね。ロロップ、今日はありがとう」
「ううん、旦那様と一緒で嬉しかったぴょん♡ お洋服も♡ ぴょん♡」
「ん、おやすみ」
そして残されたのは、大きな剣。宿舎にもっていく訳にはいかないからね。
2メートル超えの、とても重たい剣。
子どもの僕には、『オーラ』を最大限用いてやっと引きずれるほどの剣。
さらにめんどくさいことに、詳しい人間ならば誰の所有物だったかわかる可能性がある貴重品だ。
「さて、どうするか」
こんなもの、部屋に置いておいて見つかったらどんなことを言われるか。
いや子どもはみな剣にあこがれる。小さい剣のキーホルダーなど誰しもが欲しがっただろう。
とはいえこれはキーホルダーではなく、どうやって持ってきたかという突っ込みが入ること間違いない代物だ。
「とりあえずベッドの下に隠そう。隠し物をするにはベッドの下と、主も言っている」
前の世界とは異なり、こんな場所を見る人間などこの世界にはおるまい。
……いや、1人2人心当たりはあるが……あいつは最近来ないからな。
「重っ! ……よし、何とか押し込めた――」
「おっはよーございまぁーす! イクラウス様ぁ! 会いたかったでしょー☆」
「お、おっはよー……ございまぁーす……! 会いたかった……です!」
「マリンと……クゥ!? なぜだっ! なぜおまえが!?」
いつも通りのマリンと、心当たり2人目にしてなぜここにいるのかわからないクゥが扉を勝手に開けてきた。
本当に、この世に主はいないのではなかろうか。
「……なぜおまえが……! 今日に限って!」
「いやぁ~、なんとなく? イクラウス様のところに行かなきゃって! ビビッと来ちゃいまして☆」
「お前の使命はどうした! もうすぐ消灯の時間だぞ! 人類の希望になるんじゃなかったのか!?」
「サボって来ちゃいましたぁ!」
「ふざけるな! そんなんで人類の希望など100年――いや10年早いわ!」
さすがに100年はかわいそうだから10年にしておこう。
しかし本当に何で来た?
天下の聖子様の部屋は、気軽に遊びに来ていい近所の友達の家ではないはずだが。
「さーて……ふむふむふむ……ここが怪しい!」
「あっ! ちょっ! 引き出しを勝手に開けるな!」
「そんな慌てちゃってぇ! 私たちに見せられないものでもあるんじゃないですかぁ?」
「……べ、べべべ別に?」
もう嫌だ。何でこんな目に合うんだ?
とにかく今は何とかして追い返さなければ……!
「すまないが、着替えるので少し出て行ってもらえないか?」
「着替え……手伝い、ます!」
「マリン……いいんだ、自分でやるから」
「手伝い、ます!」
「マリン、頼むから……」
「手伝い、ます!」
マリン、本当に強くなったね。
僕は泣きそうだよ。嬉しくて悲しくて。
「……マリン、出て行ってあげよ? 多分……アレだよ、アレ」
「まあ! イクラウス様、また……でも、それもお世話したい、です……!」
「ダメダメ、そういうお世話は大人になってからなんだって。しょうがないから、行ってあげよーよ」
「……はい……」
そうして僕は、0回目にして2度目の不名誉を被ることになった。
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