第55話 貢ぐ0歳児
「…………」
「…………」
「…………」
誰も、何も言葉を発することが出来なかった。
ゴブリンゾンビを討伐した帰り道。
静かに馬車が進んでいく。
「あっ、あのミルク屋さんもう閉まってるぴょん!」
「本当だな」
このロロップと、返事を強いられる僕以外。
同乗しているゴレイヌどころか、周囲の騎士もみなあれ以来一言も発していない。
「……ぴょん……」
「どうした?」
「……私、やりすぎちゃった……?」
「そうかもしれんな」
やりすぎた感は、否めない。
そこそこの冒険者さえ追い返したというゴブリンを容易く爆散させた、彼女の足。
その足に挟まれたいなどと思っていたとは、僕はとんだ破滅願望所有者だったようだ。
だが、それでもいい。挟まれたい。
「……ぴょん……」
「…………」
しかし、このままでは彼女もかわいそうだろう。
一時の怒りでゴブリンを爆散させたのは事実だが、そもそもあれは討伐依頼のあった魔物。
少々衝撃的だっただけで彼女は悪いことをした訳ではない。
「しかし、やはり僕は恵まれている。こんなに頼もしい友がいるのだからな」
「ぴょん?」
「ロロップ。他の誰が恐れようと、僕はお前を頼りにしている。それでは不満か?」
「……いいえ! いいえですぴょん♡ やっぱり私には旦那様しかいないぴょん♡ スー……」
そうだろうそうだろう。
わかったから吸い込むのはやめてくれ。
「……むんっ!」
「ゴレイヌ? どうした?」
突如としてゴレイヌが、自身の顔を両手で叩く。
音からしてかなり強い衝撃だったようだが、大丈夫だろうか。
「失礼、少々腑抜けていた自分に喝を入れさせていただきました! イクラウス様の護衛としてあってはならない姿を晒し、本当にお恥ずかしい!」
「……そうか」
「しかしこのゴレイヌ! ロロップ殿には負けておられませぬ! 必ずやイクラウス様にふさわしい筋肉をつけてまいります!」
「そうか」
それはありがたいことだが、筋肉は控えて欲しい。
相対的に僕が小さく見えてしまうからな。
などと思っていると、馬車の周りからもバシンという音が聞こえてきた。
「ふふ、僕は当然聖騎士団のことも頼りにしている。先の戦いでも、見事な動きだったぞ」
「ありがたき! しかしまだまだ!」
「ロロップ殿に! 負けてられません!」
「イクラウス様、私もです!」
「帰ったら特訓だ!」
ゴレイヌや周囲の騎士たちの決意表明。
これもロロップがもたらしたもの。
こういう信頼の築き方もあるのかと、感心する。
「そうか。期待している」
「はい!」
騎士団の向上心にも同時に感心しつつ、何よりロロップを誇らしく思いながら、何か報いたいと思いを馳せる。
僕の成分を吸うだけでは満足できないかもしれない。
そうだ、マリンに買ったようなアレをロロップにもあげたらいいかな。
「用事を思い出した。聖都に着いたら雑貨屋で降ろしてくれ」
「はい? ……はっ、承知しました」
◇◇◇◇◇◇
聖イルミナス教会の神殿、その周辺に広がる住宅街や繁華街をさして聖都。
以前マリンと買い物に来た雑貨屋に到着すると、護衛はゴレイヌだけ残し帰っていった。
まあロロップと彼がいれば問題はあるまい。
「ここは雑貨屋ですか?」
ゴレイヌが、なぜこのようなところに、という疑問を浮かべながら聞いてくる。
確かに僕が身に着けるような服や装飾品は別の、専門の場で用意されているらしい。
この店は庶民的というか、とっつきやすいとでもいうべきか。
「うむ。ロロップに贈りたい物があってな。それとゴレイヌ達にも――」
「スー……スー……ぴょん?」
「ロロップ、君にリボンを贈ろうかと思うのだが、構わないかい?」
「――ぴょんッ!?」
しかし、ロロップの表情は嬉しさというよりも、戸惑いを浮かべたものだった。
急だったから嫌だったか?
「こ、困ります……これ以上旦那様に何か貰うと……多分……」
「多分……?」
「死んでしまいます……ぴょん……」
「それは……困るな」
困るが、死にはしないだろう。
何言ってるかわからないし。
「……このリボンなんかどうだ? マリンとお揃い――」
「それは嫌ぴょん」
「あ、はい」
それは嫌なのか。
まあ確かに黒とピンクの髪に赤色はいまいちか。
しかし……勢いのある拒否だったなぁ……。
悲しみ。
「……む? あの店は?」
「む? ああ、どうやら最近できたお店らしいですよ。どうも他国で流行している店の系列だとか」
「ほう……」
何やらフリフリしたドレスやスカートやら。
機能的というよりは見た目にこだわった、ここらではあまり見ないタイプの服だ。
「ほわぁ~……」
「ロロップ?」
「あ、いえ……ぴょん……」
すっごく見てる。
確かにロロップには似合いそう。
いわゆるゴスロリと言うのだろうか、よくわからないが。
特にあの黒い長袖ワンピースをベースに、袖やスカート部分にヒラヒラでフワフワな装飾が施され、胴回りに大きなリボンのある服なんか似合いそうだ。
「あれを買おう」
「へ? ぴょん!? 旦那様が着るのぉ!?」
「いや、お前に」
「ええ!?」
「驚きすぎだろう」
別に日頃世話になっている従者に服を贈ることなど……ないこともないだろう。
きっと、ある。
「で、でもでも……!」
「あ、あとこのリボンもいい。黒地にさりげない金の刺繍が施されている。かっこよい」
「そんなっ!」
「何だこのスケルトンが――いや、髑髏が刺繍されたバッグは!? これもだ!」
「……あ、あの」
「こ、これは……! 蝙蝠の翼!? 一体何のために……わからない、わからないが……これも買おう!」
「…………」
かっこいい、なんだこの店は!
こんな店があったとは!
「イクラウス様、落ち着いてください」
「何だゴレイヌ。僕は今――」
「ご覧ください、これを」
「ぬ? 値札? そんなもの――なぁっ!?」
予想以上にお高い値段に、泣く泣くドレスとリボンだけ買った。
貯金がなくなったようだが、ロロップの笑顔と引き換えなら悪くない。
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