第48話 記憶を覗く0歳児
過去の振り返りを終え、改めてミレイを見据える。
薄暗い地下牢、松明で照らされた影を睨むように。
「僕の言葉に安心したのか、眠っていなかったことで効果が薄れたのか、はたまた『神の守護』を上回るものだったのかはわからない」
「…………」
「しかしお前が混ぜた毒、それが母様を――聖女を殺しかけたのは事実。あれは一体何だったんだ」
「……わかりません」
かつての尋問の時のように答えるミレイ。
「私は……いつものように朝食の準備をし、提供しただけなのです。いつも通り栄養剤を加えて……」
「それが何だと言っている」
「蜂蜜と野菜の粉末を混ぜたものです。その日以外にも、毎日提供していましたが……あの時に使ったものに、特別な食材を使ってしまったのです」
「……そうだな」
こちらも栄養剤や、ヨーグルトなどを後に全て調べつくし、判明したのは……非常に強い毒が混ぜられていたこと。
その材料は、誰も見たことのない植物だった。
ともあれ、ここまでは何のことはない、専属メイドが毒を用いて主人を殺した。普通に考えればそれで終わり。
普通であれば。
弱っていたとは言え『神の守護』は発動していたはずなのだ。
「……なぜ、アレを入れようと思ったのかわかりません。いつものように私自ら買い出しを行い、食材を用意して、その日たまたま手に入れたアレを……」
「…………」
「アレが毒だとは思いもしませんでしたが……そもそも、なぜアレを用いたかわかりません」
何者かに提供された毒の植物。
それを不審に思わないように操られ、そして混入させられた。
「そうならないように……2人の安全のために私自ら食事を用意していたというのに」
ミレイが心底悔いるような声で小さくつぶやく。
不気味だと言いながらも、彼女は僕のことすら配慮してくれていたのだ。
「……お前の頭、覗かせてもらう」
「……不気味な坊ちゃん。どうぞご自由に」
「『マインドスティール』」
他者の記憶を覗く高度な闇魔法。
それを用いて彼女の過去を覗く。
僕らの部屋に来たこと、食事を作っているところ、顔なじみの商人から食材を買ったこと、市場に寄ったこと、いつの間にかその手に植物を持っていたこと。
その日の出来事が巻き戻したように頭の中で再生される。
「…………ふぅ」
この手の魔法は、事前に本人に思い出させておくことでより効果を発揮する。
長話をした甲斐もあり、鮮明にみることが出来た。
しかし、記憶はここまで。
以前と変わらず、植物を入手した直接の記憶がない。
「相変わらずだ。より高度な魔法で封じられているか、あるいは――」
「……お静かに」
「…………」
闇魔法の行使が誰にもばれないように、ミレイ自ら注意を促してくる。
この人はいつもそうだ。さっきもわざと悪態をついて僕がやりやすくしようとしているのだろう。
僕らの安全を考えて手間をかけた食事を用意してくれた。
ドライなようで、その心は聖女のように優しい人なんだ。思いやりあふれる人なんだ。
「さっき母様の治療を試みたが、ダメだった」
「……そう、ですか……」
「待っていろ。必ず母様を救い……そしたら……」
「……不気味な坊ちゃん。早く私を殺しなさい」
「主がそれを許そうと、母様と僕が許さない。今日は帰るよ」
立ち上がり、ミレイのいる鉄格子の前から離れる。
ゴレイヌに声をかけ、階段を上りながら改めて考える。
例のことでわかったのは、人に害意がなければ『守り』は発動しないということ。
そうでなければミレイは近寄れなかったはず。
「(もう1つの方が問題だ)」
それは、今回の犯人がとても強大な力をもっているであろうこと。
でなければ聖女に害成すあの毒自体は弾かれたはずなのだから。
害意がなければ防げないのであれば、不慮の事故でいくらでも死ぬ可能性はある。
そうではないのだ。『神の守護』は。あらゆる害を弾くはずなんだ。
あの植物は、現在世界のどこにも存在を確認されていない未知の物だった。
「(敵は、神をも超える力をもつ存在、か)」
自分の魔法が及ばない。
神の守護すらすり抜けるモノを用意できる存在。
「(関係ない。必ず見つけ出して……殺してやる)」
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