第47話 あの日を振り返る0歳児
※過去の話となります。
その日僕は……僕たちは、いつも通り何気ない日常を迎えるはずだった。
「母様、今日も魔法を教えてください!」
「うふふ、いいわよぉ♪ それじゃあ、今日は『聖なる守り』のおさらいね!」
「はい!」
既に日課となっていた、母様による聖属性魔法についての勉強だ。
早く母様の手伝いができればと、この日も朝早くから母様にせがんでいた。
「まず、聖属性の特徴の1つとして~、『邪悪なものや不浄なものを否定する力』、というのは覚えてるわよね~?」
「はい、もちろんです! 『その者たちにも思いやりを忘れないのよぉ♪』というのも覚えています!」
「うんうん♪ それで、『聖なる守り』は少し特殊で~、別名『神の守護』とも言われてるの~」
「神の、しゅご……」
「そうなの♪ 聖なる魔法の使い手は、勝手に神様が守ってくれるんだって!」
神による守護。それはつまり全ての害意から聖女を守る絶対の盾。それが常に発動している、というもの。
そのハズだった。
「普段は聖女の周りにしか効果がないんだけどぉ、これも自分の意志で効果を広げられるの!」
「なるほど……そこは通常の魔法と同じような感覚、ということですね!」
「そうそう――おっとっと……」
「か、母様!?」
神から守られているはずの母様。
しかしここのところふら付くことが増えた。
「だ、大丈夫だよぉ♪」
「母様……神様が守ってくれているのでは……」
「う~ん……」
大切な母様の不調に、思わず神への不信を口にしてしまう。
そしてこの日、僕は信じられない事実を知ってしまった。
「あなたのお母様、聖女フルルーチェ様は1度も寝ていないんですよ。不気味な坊ちゃん」
「え?」
「ミレイ!」
珍しく――初めて母様が大きな声を上げるのを聞いた。
同時に、“1度も寝ていない”ということが気になってミレイの言葉に耳を傾けた。
「生まれ落ちてすぐに人語を操り、僅か半年足らずで5歳程に成長。怪しくない訳がない。そんなあなたを守るために――」
「ミレイ! やめてったら!」
「フルルーチェ様は1度も眠らず、あなたを『聖なる守り』で包んでいる」
「ミレイ……」
衝撃だった。
いつも朗らかに笑っている母様が、そんな苦労をしてくれていたなどと思いもよらなかった。
「さらに言えば、貴方を身ごもってから1度も、です。“処女懐妊”や“奇跡”という言葉を信じず、お腹の子どもを何としても“なかったことに”する人間がいましたから」
「そんな……」
涙が止まらなかった。
母様に甚大な負担を負わせてしまったこともそうだったが、何よりも――。
「母様……こんな僕を守ってくれて……ありがとうございます」
「……いいの、当たり前よ。あなたは私の大切な子なんだから。愛してるんだから」
「母様……」
思わず母様を抱きしめる。
母様も抱きしめてくれる。
僕の人生はこの人に捧げよう。この人がくれた命なのだから。
そう、僕はこの日に誓ったんだ。
「母様、『聖女の守り』がうまく操れるようになったら……今度は僕が母様を守ります! 一生! 母様と一生一緒にいます!」
「まあ! 嬉しい! うふふ♪」
「とりあえずのところは、母様が安心して眠れるように頑張ります!」
「……うん♪」
この日も、こうして終わるはずだった。
昨日より今日。より大きな愛を抱えて、優しい笑顔に包まれて。
だけど、これがいけなかったのだろう。
僕の言葉が、母様の気を緩めるきっかけとなってしまったのかもしれない。
「フルルーチェ様、体力をつけるためにもしっかり朝ごはんを食べてください。いつも通り、消化しやすいよう柔らかいものを用意しました」
「ありがとう♪ しょうがないから、イクラちゃんにバラしちゃったのは許してしんぜよぉ~♪」
「ククーーはい。ありがとうございます」
母様が、手渡されたヨーグルトのようなものを口に含んだ……その時だった。
「――あっ、ガホガホッ!」
「母様? 母様!?」
胸を押さえて苦しみだしたのは。
「――くくく、はは……キャーッハッハッハッ! ウマクイッタウマクイッタウマクイッタ!」
「――ッ!!!」
様子が豹変したミレイを睨みつける母様。
するとミレイが弾き飛んだ。
それが『聖なる守り』を意図的に行使したことを後に理解した。
「キャッ――ハハハッ! セイジョヲヤッタ! イマイマシイマモリガウスクナッタ! ユダンシタナ!」
ミレイは壁際まで飛ばされ座り込むが、それでも壊れたおもちゃのように不気味な言葉を繰り返していた。
「ガホゴホ……ミ、ミレ――」
「母様喋らないで! 『聖女の癒し』……僕が必ず治します!」
「イク、ちゃ……」
「ゆっくり休んで! 僕が守る! 必ず守る! だから安心してて!」
「――うん♪」
そして、この日から母様は眠りについた。
1度も目覚めていない。
治療は完ぺきだったはずだし、それ以降も『聖女の守り』を切らしたことはない。
それでも母様が眠りから目覚めないのは――。
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