第46話 覚悟する0歳児
今日は特に予定もない。
いわゆる休暇である。
そして僕はいよいよ覚悟を決める。
「母様、同意もなくあなたの中に入ることをお許しください」
ついにこの日が来たのだ。
ドキドキする。
背徳感に包まれる。
そして――。
「怖い……」
自分に持てる力を出し切っても、届かなかったとしたら。
もう無理なんじゃないかと諦めてしまうんじゃないか。
「だけど、先日教えてもらったのです。『あなたと共になれない未来があるのなら、全てを賭けてそれを阻止する』のだそうです」
ひと月前まではどこか虚ろな目をしていた少女が、力強い目でそう宣言した。
何があっても諦めない、逃げ出さない、掴み取る。
そんな決意を滲ませて。
美しいと思った。
素敵だった。
「僕もああなりたい。だから、勇気を出します」
今まで避けていた、母様の“聖癒”。
大丈夫、僕ならできる。
「細胞、注入」
細い細い管を伝い、丁寧に丁寧に送り出す。
何も傷つけないように、そっと解析する。
「心臓は動いている。血は巡っている」
肺も動いている。筋肉も動いている。
その他内臓にも動いている。
「……異常なし」
どこも何も、異常は見当たらない。
自分の知識、経験から得た人の体の構造。他の人との相違、なし。
「……もう1度」
異常なし。
「……まだだ」
異常なし。
「……これ以上……」
異常なし。
母様は全くの健康体。
つまり――。
「…………」
治しようがない。
「……母様」
こうなることを恐れていた。
だから、怖かったんだ。
「…………」
「…………」
すぅすぅと、安らかな寝息を立てて眠り続ける母様。
まるで、ここだけ時が止まったかのように……。
「……絶対に諦めません」
目覚めないのが肉体的な理由なのか、それとも精神的なものなのだろうか。
はたまた脳に損傷があるのか。
まったく見当がつかないが、諦めないことだけは確定している。
必ず手繰り寄せる。
「……もう1度、行ってみるか。あいつのところに……」
◇◇◇◇◇◇
ゴレイヌを連れ、教会の地下へと向かう。
松明がないととても歩けないような、薄暗い場所。
湿気のような、かび臭いような、陰気な空間が広がっている。
そこは地下牢。
神や教会に仇なした罪人をとらえている場所。
「久しぶりだな」
とある鉄格子の前で、その女性に声をかける。
目隠しをされ、轡を噛まされ、両腕を胸の前で交差したまま縛られている女性。
壁と首を繋げる鎖をカチリと鳴らし、女性はこちらを見る。
「元聖女専属メイド、ミレイ」
「……坊ちゃん、ですか」
弱々しく、かすれた声。
それでも懐かしい記憶が思い出され、泣きそうになる。
母様を殺そうとする前の、懐かしい記憶。
「ゴレイヌ、すまないが……」
「御意に」
ゴレイヌにも闇魔法のことは秘密にしている。
そのため、見張りもかねて看守に怪しまれないような場所へと離れてもらう。
移動を見届けた後、改めて口を開く。
「久しぶりだな」
「……言うべきことは、既に嘘偽りなく申しております。坊ちゃん、殺してください」
「断る。お前は……手がかりだ」
かつては凛とした、とても強い女性だった。
その彼女が殺してという。
牢に繋がれ精神を摩耗、だけではない。
「フルルーチェ様を手にかけようとしてしまった。それだけで万死に値します」
「母様は死んでいない。故にお前にも生きながらえてもらう」
嘘だ。
本当は即刻処刑すべしとの声が圧倒的だった。
それでも生かされているのは、僕が大教皇に強く懇願したためだ。
理由は1つ。
「……本当に……なぜ私は……フルルーチェ様……」
「…………」
ミレイが自ら母様を殺そうとしたとは考えられないからだ。
恐らく誰かに操られたのだと思う。
その犯人を探し出すため、彼女をこうして生かしている。
「……今からお前に、嘘が付けないように魔法をかける。僕の話に相違があれば言え」
「……かしこまり、ました……」
それでは……思い出そうか。
忌まわしき、あの日を――。
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