第42話 圧縮する0歳児
魔道具。
この世界にはまだなかったハズの物。
いや、ダンジョン産の“遺物”がそれに当たるのだが、数が少なく非常に貴重なものと言うことでめったにみかけないものである。
この教会にもいくつかあるらしいが、見たことはない。
つまり、“魔道具”というものは存在しない……と思っていたのだが。
「神が作り奇跡の道具と呼ばれる“遺物”、それに刻まれていた魔法の文字の羅列――魔法陣。それを解読し、特殊な方法で刻んだのが我が弟の発明、魔道具だ。詳しくはわからんがな」
作ったらしい。天才か。
泣きつかれて眠ってしまったアステラの部屋を後にし、“聖癒の間”に冷蔵庫を設置してもらいつつグラウゼルの話を聞く。
込み入った話になると思い、マリンとロロップには席を外してもらった。
「やつは王族としての務めを放棄して研究にのめり込んでいてな……まぁそれはいい。この技術が漏れれば戦争を引き起こしかねない、故に今まで門外不出の代物であったが……まあ、それもいい。なぜ先ほどから開けたり閉めたりしている?」
「強度の確認」
「なんだそれは」
冷蔵庫を買う前にはこうするものだと、古来より決まっているのだ。
しかし金属でできているからか非常に冷たい。
取っ手のところに布が巻いているが、それでも冷たい。
「……使い方だが、毎日てっぺんに見える魔石に魔力を込めるのだ。そうすればその魔力を使い、内部にある氷属性の魔石が効力を発揮する。つまり、冷える」
「魔石」
「知らんのか? 魔物の体内にて生成されるものだ。魔力を込める方の魔石はそれを使っている」
「なるほど」
「それともう1つ。属性魔法を圧縮し続けることで高質化、物質化する。それが氷の方の魔石だ」
「それは知ってる」
魔力を圧縮したらどうなるか、それは誰しもが追い求めるロマンだろう。
かくいう僕も幼いころに何度も魔力を圧縮する日々を過ごし、そしていつからか魔石ができあがっていったものだ。
「ほら。聖属性の魔石、他のよりきれいでしょ」
目の前で作って見せる。
母様譲りの聖属性の美しさに、グラウゼルも口と目を大きく開けて見とれている。
「……うちの宮廷魔導士たちが必死にやってどうにか数日に1つ作る代物だぞ……?」
「ん?」
「熟練の魔法使いが……魔力の扱いに長けたものが何度も失敗を繰り返しながら作るものだと言っている……」
「ああ、魔法得意ですので」
代わりに身体能力が味噌っかす。将来に期待。
でも母様も運動苦手そうだしなぁ。息子の僕も期待できそうにないな。
「そ、それになぁ……聖属性の魔石なんて、かつてなかったものなのでは……?」
「そうでしょうか? 母様にもできますよ。母様に不可能はありませんから」
「お前の母親への信頼はなんなんだよ……いや、それはいい。それはいいが……その聖属性の魔石、本当にやばいんじゃないか?」
「というと?」
僕からした冷蔵庫の方がやばい。
現在も地下に専用の物を冷やす空間があるらしいが、効率やコストが全然違うだろうし。
何なら持ち運びできるということは交易にも革命が起こる可能性がある。
「勇者しか扱うことのできない剣、聖剣。それは本来聖女しか扱えない聖なる属性の込められた剣。もしかしたらそのお株を奪う可能性も……いや、さすがにないか?」
「勇者……」
「知らんのか? 現勇者はお前の母親と行動を共にした時期があったはずだ」
「敵です。神敵です。勇者は許しません」
「お前、それ誰かに聞かれたら大問題だぞ」
構わない。
母様と少しでも会話したことのあるやつは敵だ。
ああ母様、醜い嫉妬に狂う僕をお許しください。でも母様を独占したいのです。
「……その魔石はみなかったことにする。せいぜい気を付けろ――気を付けるがよい――気を付け……なされよ」
「何で言い直した?」
「いや……今更だがお前――そなたは聖子様で、俺はまだ王子で……」
「ああ、別に構いませんよ。こんな子どもに敬語だなんて疲れるでしょう」
「――そうか? そりゃ助かるわ! あっはっは!」
バンバンと背中を叩くイケメン王子。
しかし馴れ馴れしすぎる。
「馴れ馴れしくしていいとは言っていない――でございます」
「いいじゃないか。お前も気を使わなくていいから!」
「いえ、許容範囲を超える顔立ちの方とは距離を置くことにしておりますので」
「なんだそれは。どういうことだ」
イケメン、それもまた神敵。
主も言っておられる。イケメンを許すな、と。
母様をたぶらかす可能性のある人間は全て、敵。
「お前が何を心配しているのかわからんが……俺は妹のことで頭がいっぱいだ、安心しろ」
「あ、その妹さん、僕の婚約者になりました」
「……は?」
「いやぁ。まいっちゃうなぁ。確かにかわいいですよね、僕のアステラ」
「貴様ぁぁぁッ! 表に出ろっ!!!」
「いやです。もう遅い時間です。子どもは寝る時間です」
「いいから出ろ! 決闘だ!」
騒ぎを聞きつけた神官に止められるまで、僕とグラウゼルの言い合いは続いた。
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