第34話 心配する0歳児
学校の話から10日後。
この間、僕は王族との関わり方の何たるかをゲオルディクス始めたくさんの人に叩き込まれた。
曰く、平等であるが平等でない。教会は中立の立場だが中立ではない。聖子は偉いが、王族も偉い。
特にグランデシャインは大陸有数の大国らしく、そこと喧嘩した日には大変なことになるらしい。
ということを耳にたこができるほど聞かされた。
1番堪えたのは、レストリアにデコピンされたことだった。
「イクラウス様、戻りました……!」
「ただいまぴょん♡ 会いたかったぴょん♡」
「おかえり、2人とも。学校は楽しかったかい?」
マリンのついでにロロップも学校へと行っている。
子どものうちから獣人と接することで偏見を減らす、という思惑もないことはないが、シンプルにロロップのためでもある。
しかし他の子を色々な意味で襲わないかという心配もあるが。
「はい、楽しかったです……! 友人もできて……」
「それはいい。もし外出したいならいつでもいうんだぞ。お小遣いもあげるからな」
金貨10枚もあれば足りるだろうか。
それにマリンのような子が町を歩くとなると誘拐されてしまうかもしれない。
ここは護衛長であるゴレイヌにお願いしてみよう。
いや、それよりもお小遣いだ。もう少し――。
「大丈夫、です」
「――しかしっ!」
「お給料、ちゃんともらってます……!」
「……そう」
さすが教会、奴隷の子にもちゃんとお給料くれてるんだな。
ありがたや、ありがたや。
「ロロップはどう? 学校」
「私は……正直あんまりですぴょん」
「そっかぁ。やっぱり変な目で見られる?」
「ううん、そういう訳じゃないぴょん。『お耳かわいいね』って言ってくれるし。けど……」
「けど?」
「男子の目が、不快」
「…………」
「不快」
確かにね、仕方ない、ね。
ロロップは……年齢の割にはすでに大人な体――ムチムチである。
学校には出会った当初と同じ服で行ってるそうだから、太ももの絶対領域は年頃の男子の脳みそを焼き焦がすだろう。
「……今度一緒に服買いに行こうか」
「ほんとぉ? ぴょん♡ 嬉しいぴょん♡」
「マリンがよければ、お友達も誘って一緒に行かないか」
「は、はい!」
これならマリンの安全も確保できる。いたいけな少年の煩悩も抑えられる。
我ながらパーフェクトなプランである。
ついでにおいしい食べ物も御馳走してあげよう。
「あ、友達……あの子、です」
「ん?」
マリンが窓際に行ったと思ったら、下の方を指さしている。
彼女の示すほうを見ると、街頭にはしごを使ってよじ登っている女の子がいた。
マリンの友達にしては腕白な。
「彼女、クゥちゃんっていうんですけど……街灯に火を灯すのがお仕事なんです」
「ほう?」
見続けていると、街灯の先っぽにて掌から火を出して点火している様子が見れた。
そういえば前の世界でも、昔はあのように街灯1本1本に火をつける仕事の人がいたと聞いたことがある。
家電に代わるような便利な魔道具は、この世界には存在しないらしい。僕でも見たことはない。
「あ、こっち気付いた……ふふ、おーい!」
米粒みたいな大きさにしか見えないが、こちらに手を振っているのがわかる。
遠目で見てもボサボサな赤い髪、質素な衣服。それと褐色の肌。
どうやら神殿で面倒を見ている孤児のようだ。
マリンに合わせて手を振ってやると、向こうも振る手を増やしてきた。
「元気そうな子だ」
「はいっ! ちょっとだけ……『ちゃんマス』様に、似てるんですけど」
その情報だけで不安しか残らなくなった。
アレと同種とは……。
「ん? あれは?」
手を振る少女の後方、何者かを乗せた馬がすごい速さでこちら――神殿の玄関に向かってきている。
どうやら急ぎの伝達を携えてきたらしい。
馬を下り、玄関の前に立つ神官に何やら手紙を渡している。
「何やら面倒ごとが起きそうな気がする」
「今のうちに逃げ出しますか? ぴょん♡」
「そんな訳に行くか」
「旦那様と一緒なら♡ どこでもイケるぴょん♡」
こいつ、学校に行き始めてからより桃色具合がひどくなった気がする。
まさか本当にいたいけな少年をその毒牙にかけているのではなかろうか。
「ぴょん?」
「……何でもない」
しかし口に出したら負けだ。
決して嫉妬だとかではなく、罪のない少年の心配をしているだけだが、口にするのはやめておこう。
「聖子イクラウス様、失礼します。至急お耳に入れたいことが」
どうやら予感は的中したようだ。
扉の向こうから、息を切らせた神官の声がそれを物語っていた。
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