第33話 『無知の知』を知る0歳児
グラなんとか王国の王子様たちを見送り、ようやく落ち着いたところで一息つく。
「坊ちゃん、私も少々失礼します」
「ん」
いそいそと扉の方へと向かうゲオルディクスをそっけなく見送る。
僕を見捨てた教皇のことなどもう知らない。
「……あの、イクラウス様……」
「マリン? そういえば、聞きたいことがありそうだったな」
「はい……いいですか?」
好きな女子のタイプだろうか。
しかし『母様』と答えそうになって、何とか思いとどまる。
マリンの顔がいつになく真剣だったからだ。
「何だい?」
「あ、あの……! わ、私の足を治してくれたのも……イクラウス様、ですよね……?」
「んん?」
それはそうだが……。
いや、確かあの時は『奇跡が起こった』ってごまかしていたんだっけ。
裕福ではなさそうな彼女たちが気を使わないようにって。
まあ、もう隠すこともないだろう。
「そうだよ」
「やっぱり……」
どうやら薄々は気が付いていたようだ。
彼女に聖癒を手伝わせていたし、同じ足の治療ということで今回確信したのだろう。
「私……イクラウス様に……色々してもらってばかりで……!」
「気にするな。マリンは僕の奴隷だからな――」
「ぴょん?」
「――奴隷のことを気にかけるのは主人の役目だ」
どうも照れくささか、素っ気ない対応をしてしまう。
奴隷とかそんなつもりはないが……どうも僕はまだまだ子どものようだ。
しかし一瞬変な鳴き声が入った気もするが。
「……私、もっともっと、イクラウス様のお役に立ちたいです……!」
「今でも十分助かってるよ」
「いえ! もっと、もーーーっと!」
「むぅ」
「私も魔法が使えたり……本を一緒に読めたり……できれば……よかったのですが……」
最後の方は自信を無くしてしまったようで、消え入るような声になってしまった。
しかし、マリンはまだ10歳。前の世界ではまだ小学生――あ、そうか。
「マリンよ、学校に行け」
「がっこう……?」
「そうだ。学校とは基礎的な勉学や一般常識を学び、友達を作るところである」
「そんなところが……」
あるのだろうか。
この世界に学校があること、確かめていない。どうしよう。
否、今は信じるのみ。
「けど、もしかして……私またわがままを……」
「わがままを言うのも子どもの仕事だ」
「…………」
「それに、余もまだまだ常識に疎いところがある。学校で学んだことを教えてくれると助かる」
こう言えば負い目も少なく感じるだろう。
それに、魔王のことや獣人のことなど、子どもでも知ってるらしいことを知らないのも事実。
そうとくれば、ゲオルディクスにでも頼んで学校に入れさせてもらおう。学校がなければ作ればよい。
「……くすっ。イクラウス様でも、知らないことが、あるんですね」
「たくさんある。むしろ知らないことだらけだ」
「イクラウス様のお力になれるなら、学校に行きたいです……!」
「ああ、すぐに手配しよう。マリン、期待している」
「はいっ!」
輝く笑顔とはまさにこのこと。
学校に行けば、もしかしたらマリンの“やりたいこと”も見つかるかもしれない。
そうと決まれば、早速――。
「ぴょん! 奴隷!」
「ん?」
「素敵な響きぴょん」
何を言っているんだろうか、この桃色うさぎは。
「知らないのか? 奴隷とは、主の命令に従わされる――」
「知ってるぴょん。獣人は奴隷にされやすいって聞いたこともあるぴょん」
「だったら――」
「その時は絶対嫌って思ったけど、旦那様の奴隷なら……ぴょん♡」
「…………」
「何でも命令して欲しいぴょん♡ 何でも聞いちゃうぴょん♡」
「…………」
「ドキドキしてきたぴょん♡ よだれがとまらないぴょん♡」
「…………」
「あれ? おまたからもよだれが――」
「待て!」
それ以上は看過できない……!
「そう、です……! 奴隷は、私だけ……!」
「……ふぅん」
「ロロップさんは、ただの、友達……でしょう?」
「……へぇ」
暗黒うさぎに対抗できるのはマリンだけ。
しかしそのマリンも相手を挑発することが多い。
「……お友達、さん」
「……そう」
助けて。
◇◇◇◇◇◇
「学校? もちろんありますよ」
ゲオルディクスが戻ってきたので、早速尋ねる。
ちなみにマリンとロロップはどこかに行った。
行先は聞かなかったが、河原でもみつけて決闘でもするのだろう。
「ご存じ――ないと思いますが、この教会でも孤児をお預かりしておりますので」
「うん、知らなかった」
認めよう、余は、無知であると。
彼の偉人も言っていた。『無知の知』――ムチムチした女性はいい、と。
ともかく、知らないことを恥じていては前に進めない。謙虚に教えを乞うのだ。
「失礼、孤児の話は意図的に避けておりました故、ご存じないのは当然でしたな」
「おのれゲオルディクス! また謀ったな!」
「何のことでしょう。坊ちゃんが些事に囚われぬように、という判断ですよ」
「……些事、か」
わかっている。こいつが子どもの不幸を些事と切り捨てる訳がないと。
それでも僕にとっての1番の目的は母様。
その前には、全てが些事。そう言ってくれているのだ。
「そうだな、些事だ」
「ええ。それに……子どもたちからしても坊ちゃんは少々――否、かなり――いえ、とても異質。同じ場で過ごさせることは不可能、そう判断したのです」
「不敬」
確かに……前世の記憶がある分、同じ年齢の子どもと接するのは難しいだろう。
記憶と言っても、いわゆる人格のようなものはないのだが。
知識だけ、ともいうべきか。
「ともかく、マリンさんとロロップさんの学校への参加はこちらで準備いたします。“学び”は大切ですから」
「助かる」
「それに――くっくっくっ。坊ちゃんにも、改めて“学び”が必要なようですねぇ……特に、王族の方について、ね」
「…………」
学校とは渡りに船だったらしい。こいつにとって。
その後しばらくの間、ゲオルディクスや他の神官からみっちりお勉強させられることとなってしまった。
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