第31話 足に惹かれる0歳児
お姉さんたちには1度退出してもらい、部屋に残ったのは僕とゲオルディクスだけ。
「めずらしいですな。坊ちゃんなら『お姉さんのきれいな足が見たいから』と言ってすぐに治すものかと」
「失礼な。僕には母様のおみ足だけで十分だ」
「…………」
ロロップの健康的な足もそそられ――否、そういうことではない。
「足の治療、聖女様なら可能だと思うか?」
「それは……やってみなければなんとも。しかし、聖騎士団員の中でも負傷の影響で患部を切除するという話はままあります」
「む」
聖女でもできないかも、ということか。
そうなると尚更悩む。
やりすぎか、そうでないか。
「何を悩んでいるのです?」
「お前が言ったのだろう。聖女にすらできないことをやってのける子は、悪魔の子ではないか、と」
「はて? そんなこと言いましたかな」
こいつ!
こっちはお前の言ったことで悩んでるってのに。
やはり腹黒たぬき……!
「私が申したのは、そういう不埒な輩がいる、ということだけです」
「だから――」
「お母様なら、どうされるでしょう」
「――あ?」
「あなたが敬愛する聖女、フルルーチェ様ならどうするでしょう。目の前で、救える者がいたとして――否、救えないとして。あなたのお母様は、そのような雑言を気にして何もしないとでも?」
「…………」
そうだ。
そうだった。
僕の母様なら……そんなこと気にしない。例え悪魔だと言われようが、目の前の困った人に手を差し伸べる。
「それに……もしもその輩たちがあなた方に牙を剥いたとしても、この教皇ゲオルディクスが必ずお守りします」
「ゲオルディクス……」
「坊ちゃん、『汝、欲するままにせよ』。主と私は、あなたの味方です」
「…………」
まさか、ゲオルディクスに泣かされそうになる日が来るとはね。
いやこいつのことだから何か裏があるはず。
まあ今しばらくは素直な子どもを装ってやるか。
「ありがとう、ゲオルディクス」
「……くっくっくっ」
◇◇◇◇◇◇
「手術を始める!」
「はいっ!」
「ぴょん!」
マリンに助手を頼み、それといい機会なのでロロップにも参加してもらい、僕の聖子としての役割を教えることにした。
「レストリアも頼むよ!」
「…………」
心なしか腕まくりしているレストリアも一緒だ。
彼女が一緒なら何も怖くない。
「細胞、注入!」
「注入……!」
「ちゅっ♡」
やはり呼ばなければよかったと後悔。
頭が桃色すぎる。
「むむ、これは……」
「ぴょん?」
「壊死した細胞も多いが、まだ生きている部分もあるな。これなら回復させつつ足りない部分を補ってやれば――」
「わかるぴょん」
「嘘つけ!」
やっぱり今からでも追い出そうかな……。
口だけでも塞いでおこうかな……。
「旦那様、頑張るぴょん!」
「頑張って、ください……!」
「……ん」
いや、別にいいや。
我慢できないほどじゃないし。
「助かるな。0から作るのとは負担が全く異なる」
「…………あ、あの……」
「ん?」
マリンがおずおずと、何か言いたいことがあるようだ。
「い、いえ……何でも……」
「何だ? 言いたいことは言っていいんだぞ」
「……何でも、ありません! 集中してください……!」
「…………」
何が言いたかったのか気になるが、こうなった彼女は決して口を割らないだろう。案外頑固なところもある。
手術中に左手をプルプルさせるのもよろしくない。
彼女が執刀する訳ではないけど。
「まあいいけど――む、これは……!」
「どうしたぴょん?」
「…………」
壊死した部分を修復した場所、血流が通い始めたのだあろう。温かい感触が戻ってきた。
つまり――。
主よ、母様よ……不埒な僕をお許しください。
「…………」
足って、えっち。
◇◇◇◇◇◇
「すごいすごい! 足の感触があるし痛くないよ!」
手術が終わり、お姉さんを起こす。
旦那さんと思われる人とご老人も部屋に招き入れ治療の成功を確認してもらう。
「おぉ! 色も通常と同じようなものに!」
「…………ほう」
「でしょ!? よかったよぉ、これでまだお店を続けられる! 聖子様と聖女様のおかげだね! 本当にありがとうございます!」
お姉さんは僕の頭を撫で、レストリアの両手を包んで感謝を伝える。
そう、レストリアはなぜか消えるのを拒みそのまま残っているのだ。
心なしか僕への視線が冷たい。
「治りたてですので数日は様子を見てください。何かあればまたここにいらっしゃってくだされば、対応します」
「わかりました! 聖子様、本当にありがとねぇ!」
「いえ。喜んでいただけてこちらも嬉しいです」
「あらかわいいこと言っちゃって。お姉さんのお店に来てくれたらたーっぷりサービスしてあげるからね! ふ・で・お・ろ・し・も♡」
「…………」
なんてことを言うのだろうか。僕にはすでに母様がいらっしゃるというのに。
しかし大切な母様を傷つける訳にもいかないので事前に経験しておくというのも悪い選択ではないのかもしれない。
ここはひとつ、口約束だけでもしておくとしよう。
「筆おろしがなにか存じ上げませんが、その時が来たら――」
「ぴょん」
「――あ、あぁ……」
「ぴょん」
怖い。
後ろを振り向けない。
今振り向いてしまえば、深淵が僕を見つめているのだろうから……。
「じゃ、じゃあ……あたしはこれで……! ありがとございましたぁー!」
お姉さんも行ってしまった。
まあいい。これでよかったんだ。
「…………」
「ん?」
しかし旦那さんと思われる人は出ていこうとしない。
もしや、奥さんの筆おろし宣言で怒ってしまったのだろうか。
「…………尋ねたいことがある」
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