第26話 弄ぶ0歳児
未だ姿を現さない魔王はどこかにいるのか。
簡単である。
スケルトンを操るための魔力。か細いそれだが、辿っていけばいい。
「助かりました。案外近くにいてくれて」
「なっ!? 貴様は――」
「ああ、結構。言葉を交わすつもりはありません」
見た目はただのスケルトン。それが黒いローブを纏っている。
内包する魔力は確かに膨大である。
四天王とやらが10倍いても足りないくらい。
「僕はその100倍ですがね」
「何――」
何かを言おうとしたが、その声はこちらに届くことはなかった。
昏い昏い、漆黒の棺が彼を閉じ込めてしまったからだ。
「『悪魔の棺』。その棺に閉じ込めたものを、ありとあらゆる闇魔法で弱体化させる」
「…………」
しまった、弱体化させてしまったら反応がわからないじゃないか。
せっかくの……実験台なのに。
「骸の魔王とやら。申し訳ないですが、いろいろと試させていただきますよ。こうして魔法を思いっきり使う機会などめったにありませんから」
「…………」
「あなたも、たくさんの命を弄んできたのでしょう? 主も言っておられますよ。『目には目を、歯には歯を、やられたら倍にしてやり返せ』と」
「…………」
違うところの神だったかもしれない。
なんなら僕自身はまだなにもされていないが、まあいい。
発展には犠牲がつきものである。母様の治療の糸口を掴むため、お前には尊い犠牲となってもらおう。
「主よ、お許しにならなくても結構」
「…………」
「例えこの身が地獄に落ちようとも――」
「…………」
「――母様のためなら、何でもしましょう」
◇◇◇◇◇◇
「むにゃ……ぴょん」
「おはようございます、ロロップ」
「ぴょん……これが朝チュンぴょん……」
断じて違う。
兵士たちと別れて魔王を探しに行く途中、ロロップには見せられないからと眠らせた後。
魔王との甘い夜を終わらせてサンディバーグの城壁内に戻ってきたところだ。
夜もすっかり明け、雲一つない青空が広がっている。
「ふわぁ~……はっ!? 魔王は!? ぴょん!」
「倒しました」
「ぴょん!?」
「魔王は恐ろしく強大でした……! 一瞬でロロップを眠らせた後苛烈な攻撃を――」
「……情けない……旦那様が戦ってるときに……」
あっ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ロ、ロロップ! 違っ! 本当は――」
「ごめんなさい……私……私……!」
やらかしてしまった。
どうやら僕が踏みにじったのは、魔王の命だけではなかった。
ロロップの決意、覚悟、思い……それらも……。
「ロロップ。君は悪くない。悪いのは僕だ」
「そんなこと――」
「いいや、本当は眠らせたのは僕なんだ。ロロップには見せられないことをするために、眠らせた」
「それ、は……」
「だから、ごめん。君の決意を踏みにじった。本当にごめん」
浮かぶのは『ごめん』という言葉だけ。
罪悪感に押しつぶされそう。
「……私が、獣人だから、ですか?」
「え?」
「私が獣人だから……信用してくれない、ですか?」
「それは違う!」
獣人。
こんな時まで“獣人”というラベルが邪魔をする。彼女を不安にする。
「確かに、僕を君を信じられなかった」
「やっぱり……」
「だけどそれは僕には大きな秘密があるから。決して獣人だからとか、そういうことじゃない」
「…………」
どうすればうまく伝わるだろうか。
彼女に、この国の救世主に。
「僕は君が君であることを誇りに思う。獣人であることを」
「そんなこと……」
「だって君が獣人じゃなかったら、走るのが得意じゃなかったら。この国の人々を救えなかったじゃないか」
「あ……」
朝も早いというのに、町の人たちは笑顔で走り回っている。
戦った兵士に感謝を告げ、怪我をした人を労わるために。
そして、僕らを心配そうに見ている人たちも。
彼らの目に、決して侮蔑の色はない。
「僕には君が必要だ。これからもそばにいて欲しい。そして僕を、助けて欲しい」
「私で……私で、いいの?」
「ロロップ、君がいいんだ」
「はい、旦那様……生涯、共に……ぴょん!」
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