第18話 思いでを語る0歳児
それから数日が経過した。
マリンの朝のお世話も手慣れたようで、今日は1人で行うようだ。
しかし、困ったことが1つだけある。
「……ちらっちらっ……」
「…………」
決して見ないようにはしているものの、彼女はそれを毎回行う。
何が行われているかはわからないが、よくないことだと思う。
「……ツンツン……ふふ」
「…………」
これについては、もういい。甘んじて受けようと諦めた。
彼女が自然に笑えていることが、何よりも善きことなのだから。
「イクラウス様、お仕度、終わりました」
「ああ、ありがとう」
「はいっ!」
僕自身の務めの時間にはまだ少し時間がある。
そのため読書を続け、彼女は相変わらずそれを眺めている。
しかし今日は少し違った。
「……あの、イクラウス様」
「ん? どうした」
「その……イクラウス様のこと、教えていただきたいです……」
「ぼ――余の?」
何だろうか。
自分のことは自分でもよくわからない。何だよ、ミニイクラウスって。
そうではなく簡単に教えられることと言えば……スリーサイズだろうか。上から下に55、55、55である。
「上から――」
「その、例えば……イクラウス様とお母様の、お話……とか……」
「……母様との、か」
「はい……だめ、ですか?」
彼女の疑問。
それもそうだろう。
なぜ、聖女ともあろう方が寝たきりになっているのか。万民に愛され、神に守られるべき人がどうして、と。
「だめではないが……やはり気になるか。母様がなぜ寝たきりなのか、ということが」
「? いえ、それも気になるかもですが……イクラウス様のことを、もっと知りたいのです……」
おずおずと恥ずかしそうに。
だけど聞きたいことは遠慮しない。僕との約束をしっかり守ろうとする。
ならば、僕も彼女に応えよう。
「わかった。僕と母様の甘くて素敵な愛情あふれる物語、語って聞かせよう」
「は、はい!」
◇◇◇◇◇◇
2日目。それは、とある食事の時間の時のこと――。
「イクラちゃ~ん、ぱいぱいの時間でちゅよぉ~♪」
「母様、それはまだ僕には早いようです。いずれ大きくなったらお願いします」
「むしろ今が適切な時期だと思いますが」
◇◇◇◇◇◇
10日目。それは、とある昼下がりのこと――。
「あらぁ、ご本読んでるの? 偉いねぇ~♪」
「はい。早く母様の助けとなれるように知識を蓄えているところです」
「まあまあ♪ 嬉しいけどぉ、まだまだ子どもなんだから、お外でかけっことかして遊んでいいのよ?」
「本来なら読書どころか歩くことすらできないはずなのですが」
◇◇◇◇◇◇
13日目。それは、とある就寝前のこと――。
「母様見てください。母様と同じ魔法が使えるようになりました」
「ふぇ? 本当に?」
「はい。恐らく、母様のことを想いすぎてその力を手に入れることができたようです」
「まあまあ~……本当にすごいねぇ! カッコいいねぇ!」
「はい。早く母様に釣り合う男になりたいです」
「聖魔法……? それは聖女様専用の魔法、流石にそれは問題ですね。教皇にお話ししてきます」
◇◇◇◇◇◇
「そしてあれは――」
「ちょっ、ちょっと待ってください……!」
人がせっかく母様との思い出を語っているというのに。
マリンが口を挟んできた。
「む? なんだ、これからがいいところだというのに」
「その、えっと……ま、まずは……『2日目』とかの日付って何、ですか?」
「それは生後だ」
「生後」
「生まれてから経過した日数だ。母様と共に過ごした日数でもある」
「はぁ……」
もういいだろうか。
この続きに、母様との聖魔法の訓練の話が待っている。
あれは本当に素晴らしい日々だった。忘れたくても忘れられない、輝かしい日々。
「で、では……その、イクラウス様とお母様以外のお方のお話も、あったようですが!」
「…………」
気が付いてしまったか。
いや、本当は気付いてほしくて伝えてしまったのかもしれない。
常に落ち着いた様子で物事を指摘する女性のことを。
「彼女は……母様の専属メイドだ。元、だがな」
「元……せんぞくの……」
「…………」
彼女のことは、まだ早い。
迂闊だった自分を呪う。
母様との思い出、そこにはほとんど必ず彼女もいた。
だから口を滑らせてしまったんだ。
「今はちょっとお休みしててね。きっと母様も寂しがっているから……母様のお世話、頼むね」
「はい!」
いつか、彼女のことを伝える日が来るのだろうか。
母様を……聖女を殺そうとしたあの女のことを。
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