第146話 埋もれる1歳児
『成った。約束の時は10の夜明け後』
主のその言葉を受け、僕たちは急いでグランデシャインへと帰還することに。
約束の時などはどうでもいい。『成った』とは恐らく主の力が戻ったことを意味しているはず。
つまり母様のお体の不調も回復した、そう言うことだろう。そうに違いない。
「ヴェラ、急いでくれ! 1秒でも早く……!」
「イクラウス様、危ないので頭の上に乗らないでください……」
少しでも早く母様に会いたい、そのために僕はヴェラの頭にしがみついている。
背中よりも頭の方が近いのだ、当然だ。
「あ、あれだ! あのお城がグランデシャインだよ!」
「把握しました。どうしますか? 少し離れたところで降ろしましょうか?」
「このままお城に突っ込んで!」
恐らく帝国で襲撃を受けたことを加味しての提案だろう。
だがタリアさん曰くグランデシャインでは当たり前のことらしいので、問題ない。
問題なのは、母様に会うのが遅れることだけだ。
「イ、イクラウス様……できれば少し離れたところで……」
「どうして! タリアさんがグランデシャインでは当たり前って言ったんじゃん!」
「あれは嘘です」
「…………」
知ってたけどね。
やはりだめか。王国の人をびっくりさせたら母様もきっと怒るに違いない。
「……やっぱり入口で降ろして。変な顔した像があるからわかるはずだよ」
「ふふふ、承知しました」
ヴェラが笑ったのを始めて見た気がする。
今まで『スン……』って感じだったし。
早くヴェラのお子さん、見つかるといいね。
「変な顔の像、ですかぁ~? 楽しみですわぁ!」
「ジリアス皇女、グランデシャインの像は主の像なのですよ。他の方の前でが変な顔とか言わない方がよろしいかと……」
「はわぁ~! え? それをイクラウスちゃまは変な顔って……?」
「…………内緒にしてください」
僕だけ仲間外れにするやつなんか、変な顔で十分だ。
なんて言ってる間に変な顔の前に到着。
「着いた! 行こう!」
「これが主……なんと神々しい……私も祈りを捧げても?」
「もちろんです!」
ヴェラが何か言っているが、今は母様の元に1秒でも早くたどり着くことが先決だ。
僕は先に行く。
「ロロップ!」
「ぴょん♡ 旦那様専用世界最速乗り物をご所望ぴょん?♡」
「ご所望ぴょん!」
「ぴょん♡ ぴょん♡ でもお義母様もこっち来てるぴょん♡」
「何っ!?」
「マリンとクゥもいるぴょん!」
「本当か!」
やはり母様は『聖女念波』を使うことができるんだ。
当然か、僕にできて母様にできない理由がない。
マリンたちも元気そうで何よりだ。
「ぴょん♡ 見えたぴょん!」
「ひぃっひぃっ! はぁはぁ……!」
「お義母様、頑張って……!」
「イクラウス様が待ってますよー! ほらほらぁー! 走って走って!」
ああ……いかにも運動が苦手そうな母様が必死に走っていらっしゃる。
こちらまで聞こえそうなくらい息を切らしながら……。
マリンたちの早歩き程度の早さしかないが、それでも僕の元へと駆けて来てくれている……!
「母様! マリンにクゥも!」
「は、はぁ~い、イクラちゃ~ん……♪ ひぃ、ひぃ……ふぅ~……」
「イクラウスちゃん……!」
「イクラウス様! おひさー☆」
飛びつきたい衝動を必死にこらえ、母様を出迎える。
多分飛びついたら大変なことになる。
「母様! お体は大丈夫ですか!?」
「ふぅ~……大丈夫♪ イクラちゃんのおかげよ♪」
遠慮していると、母様の方から抱きしめてくれる。
激しい動きの証である体温が、鼓動と柔らかいおっぱいの感触と共に伝わってくる。
母様の甘い匂いが、記憶にあるそれよりも強く感じられ、僕の胸の高鳴りも早まっていく。
「……えっちすぎ」
タリアさんの声が聞こえるが、まったく気にならない。
この状況でえっちな気分にならないはずがない。
世界一かわいい母様に抱きしめられているのだから。
「あ、これは失礼しました~! タリア様、それにアステラちゃんもロロップちゃんも、本当に本当にありがとうございました♪」
「はい! アステラはとっても頑張りました、お義母様!」
「ぴょん♡ お義母様、体調はどうぴょん?」
「はい♪ おかげさまで主も絶好調! 私もついでに絶好調~♪」
よかった……これで『まだ足りないのぉ~……』とか言われたら泣くところだ。
「お初にお目にかかりますわ! わたくし、イクラウスちゃまの……ちゃまの……なんでしょうか?」
話すことがまとまっていないなら話し出すな。
しかし、ジリアス皇女は……僕の何だ? 友達というのも違うか。
「フルルーチェ様、こちらのお方はオフィ-リアス帝国の皇女、ジリアス様でございます。我が国で丁重にお迎えすることになりました」
「まぁ! 私はイクラちゃんの母親、フルルーチェです♪」
「まあまあ! あなたが本物のフルルーチェ様! お会いできて嬉しいですわぁ~~~!」
「まあまあまあ! こちらこそ嬉しいです♪」
「まあまあまあまあ! こちらこそ嬉しいですわぁ!」
ポケッとした者同士が出会ってしまった。
これではきっと話が進まなくなってしまう。
それを察したのか、アステラが口を開く。
「お義母様! 数刻前に主からお告げがありましたが……」
「ああ、あれねぇ~……」
やはり母様にも神託はあった模様。
当然か、最も神に近い――否、神すら超越して久しい存在なのだから。
むしろ主ごときが話しかけるなんて不敬では。
「『教会にて神敵を討て』、ですって……」
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最終章の開始です。
明日も18時20分頃投稿します!
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