第144話 大魔導士像と1歳児
『教会で待つ、と』
僕のその言葉を聞いた皇帝は、砕けそうなほど歯を食いしばっている。
どこかが切れたのか、口から血を垂らしている。
「おのれ教会……帝国を……我を謀ったな……!!!」
「…………」
共に仇を討とう、そう言っていた人間こそが本当は仇というのはよくあることである。
しかし今回はそれに当てはまるかはまだわからない。
「それはどうでしょうか。少なくとも今見た人物については、僕は教会内で見たことはありません」
「何だと!? 今貴様が言ったではないか!」
「僕が言ったのはその人物が『教会で待つ』とだけです」
「何を……」
その人物がどういう意味で言ったのかはわからない。
僕が見たことがない教会の人物なのか、陰で牛耳る権力者なのか、誰かに変装しているのか……はたまた、ただの待ち合わせ場所なのか。
「あ、でも教会を攻め落としてくれるなら歓迎します!」
「…………」
少なくても大教皇は殺って欲しい。
ああ母様、主よ。恐ろしいことを考える僕をお許しください。
「…………」
「皇帝?」
「……姉さんの仇を討てる可能性があるなら……最期の戦いとして……」
既に彼は自分の世界に入っているようで、僕の声には反応していない。
ブツブツと呟くばかりだ。
「まあ! お父様がこうなったらなぁんにも話さなくなるんです! イクラウスちゃま、あっち行きしょうねぇ~」
大事な話の途中だったというのに、それを微塵も考慮しないジリアス皇女に連れられていってしまう。
まあ大事なことは伝え終えただろうか。
あの女の見た目とかは後でデズモンにでも伝えておこう。
◇◇◇◇◇◇
それから1時間ほど、帝国式歓待を受けた。もちろん比喩ではなく、お茶やら菓子をいただいた。
主な内容はジリアス皇女とのおしゃべりだったが。
そしてどうやら準備が整ったようで、城の外へと案内される。
「ぴょん! 今から何をするぴょん?」
「聖女像の設置だよ。そのために来たんだろ」
「そうだったぴょん。色々あって忘れてたぴょん!」
ロロップの気持ちもわかる。
ここまでの僕たちの行動は、皇帝の暗殺だと言った方が正しく思われるだろう。
結果的に目標は達成できたが。
「イクラウス様、ここでいかがでしょうか」
提示されたのは、城へと続く道の門の横。
スペースとしては問題ないが、できれば民の来やすい場所にして欲しい。
皇帝の家ってだけで近寄りたくないもの。
「できれば国民の方が行き来しやすい場所の方がいいです」
「……承知しました」
続いて案内されたのは、要望通り町中の大きめの広場だった。
少し離れた場所に繁華街が見える。
人も多く行き交っており、繁華街と居住地を繋ぐ休憩場みたいなところかな。
「いかがですか?」
「うん、いい感じ! 結構大きいけど大丈夫でしょうか?」
「はい」
承諾も得たので、いっちょでっかく作っちゃおう。
「母様、聖女像よ。帝国の民をお守りください。彼らが平和に暮らせますように。『聖女像降臨』」
「…………」
ここまでの旅で何度も作った母様と僕の像。
いつの間にか像を作ったあとに聖魔法を込める作業をしなくても、その効果が発揮されるまでになった。
僕の魔法力も向上しているのかもしれない。成長期だし。
「おお……これは……」
「美しい……いや、神々しい」
「聖女、フルルーチェ様……」
デズモンやその他の兵士たちも感嘆の声を上げている。
母様のかわいさは世界共通最大最強なのでしかたがない。
と思っていると……デズモンの目から一筋の涙が零れた。
「デズモンさん、母様は素敵でしょう?」
「…………はい。我々が迫害しようとした方はかくも神々しく。その罪すら許されているような気さえします」
「ええ、お許しになるでしょう。母様は世界一慈悲深いので」
僕は許さないけどね。
「イクラウス様、ありが――」
「ねぇねぇイクラウスちゃま! 提案があるのですけどもぉ~!」
またジリアス皇女である。
空気読め。
「聖女様の横に~、ジリアン皇女も作ったらいいと思うのです!」
「えー……それは……」
あり、かも。
最近まで敵対関係だった僕ら、その関係修復と友好を示す証としてはかなりいい案なのではなかろうか。
ジリアス皇女にしてはいいことを言った。
「ジリアス皇女殿下、さすがにそのようなお願いは――」
「いえ、そちら側がよければそうしましょうか」
「イクラウス様……よろしいので?」
「もちろん。帝国を導いた偉大な魔導士様と聖女様、2つの像が並び立つことは僕としても喜ばしいことです」
ジリアン皇女のことは未だに気になっているし。
やっぱり恋かもしれない。
幽霊と神官の恋って何だか切なくもロマンチック。
「……ジリアン様は、大規模な破壊をもたらす魔法が他国では有名ですが、最も偉大な功績はいかな小さな村にも訪れ、頑強な城壁を築いた慈悲の行動にある。帝国ではそう考えられています」
「城壁を?」
「はい。民を魔物や他国の襲撃から守るためです」
敵対国からは『メテオ』のような魔法が印象に残るのは当然。
だけどジリアン皇女もまた、民のために尽力したというのか。
「そういうことならば尚のこと賛成です。共に民の平穏を祈る皇女と聖女様。立場は違えど、その志は同じでしょう」
「はい! 改めて、よろしくお願いします」
「では……ジリアス皇女、笑って――いましたね」
「へ? はい!」
よく似ているであろうジリアス皇女。
その笑顔を見本にしようと思ったが、彼女はいつも笑っていた。
きっとジリアン皇女も、笑うときはこんな感じだったのだろう。
「……では……『大魔導士像降臨』」
「おお! 素晴らしい!」
「これは歴史的瞬間なのでは!?」
「ジリアン様! 聖女様! 万歳!」
母様像の横、並び立つように建てた笑顔のジリアン様の像。
それを見た兵士たちは大騒ぎしている。
騒ぎに気付いた周囲の一般の方々も、同様に騒いでいる。中には拝み始めた人も。
「ん~! やっぱり、いい感じですわね!」
「感想それだけ?」
ジリアス皇女……。
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