第143話 見つけた1歳児
ジリアン皇女、その遺体に呼びかける。
『我に従え、我に従え』
だけど決して悪いようにはしない、あなたの無念を晴らすため。
「『聖死霊術』、ジリアン皇女どうかお目覚めに」
黒い魔力と、聖なる魔力。
相反する力が同時に地中に溶けていく。
しかし肉体は既にないようで、霊体の女性が徐々に姿を現し始めた。
ジリアス皇女に瓜二つな、だけど目は反対に強気につり上がっている。
「ここは……あ――?」
「あなたが……」
「ジリアン姉さん!?」
今までの死霊術とは異なり、ジリアン皇女が反応したことに驚きと喜びが籠ったような声を上げる皇帝。
僕の胸も、かつてなく激しく振動する。
しかしそれらも打ち消すような、絶叫が響き渡った。
「ああああああーーーーーっっ!!! いやぁぁあああああああああああああああっっっ!!!」
「ちょっ!?」
「姉さん!?」
痛み、苦しみ、寒さ、混乱、恐怖、憎しみ、拒絶、懇願、悲嘆、絶望――ありとあらゆる負の感情が籠ったような、絶叫。
「頼む! やめてくれっ!」
「わかってる!」
何度か使ったことのある死霊術、それの支配権を初めて行使する。
余計な感情を排して忠実な駒とする、というのが本来の使い方ではあるが。
彼女の無念をここで終わらせる訳にもいかない。
「意思は不要、感情を閉じろ」
「あああがあああぁぁぁ………………」
どうやらうまくいったようで、絶叫することをやめたジリアン皇女が、虚ろな瞳で佇んでいた。
「ごめんなさい、辛いだろうけど少しだけ我慢して……」
「な、何をする! これ以上姉さんを…………いや、頼む」
皇帝もわかっているのだろう。
僕が彼女を傷つけたい訳じゃないことを。
「彼女の口から聞くのは忍びないから……直接記憶を見てくるよ」
「……わかった」
「『マインドスティール』」
ミレイの時にも使った、闇属性の記憶を盗み見る魔法。
対象が肉体、脳のないジリアン皇女だからどうかと思ったが、うまく発動したようだ。
薄い、ノイズだらけの記憶。きっと忘れたいであろう記憶。
それを無理やり覗く。
「水の中……? 研究室……他にもたくさん……」
どうやら水の中にいるようだ。
周りに見えるのは……SF映画でよく見るような、機械のようなもの。
この世界で機械……?
それに、他にもいろんな人が水の中に――。
『あらぁ、もうここまで来たのぉ? ぼくちゃんったらん♪』
「――お前はっ!?」
かつてミレイの記憶の中でも聞いた声。
忘れるはずがない。
『うふふふ♪ いいわぁ~、教会で待ってるねん♪』
「なっ!?」
その言葉が終わった瞬間、弾かれたように記憶の海から浮上させられる。
しかし見えた……ミレイの時と同じ、あいつ。
胸元までの長さの派手なピンクの髪。そして口元のほくろ。
そして……悪魔のような角が生え、どこか蠱惑的な瞳で笑う女。
はっきり見えた。
「見えた……あいつだ! 母様を殺そうとした奴! ミレイを利用して――あいつが! あいつだったっ!!!」
そいつは、僕をはっきり見て言った。
『教会で待っている』と。
おかしい、僕は記憶を覗いていただけ。あいつから認識される訳がないんだ。
なのにあいつは、明らかに僕に向けて話しかけていた。
「誰だ! 誰が姉さんを殺したんだ! 頼む教えてくれ! あいつとは誰だ!!!」
「ぐえっ――やめ、放せぇ……」
首を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。
彼の必死さは『聖女の守り』すら突破するというのか。
子どもの頭を揺さぶるのは絶対にしてはいけないことだというのに。
「お父様! めっ!」
「ジリアス!? しかし――!」
「めっ! ですよ! イクラウスちゃまがかわいそうですわ!」
「……すまぬ」
皇帝を止めてくれたことは嬉しいが、そのまま僕を抱き上げるのは……安心するからいいや。
「いてて……白金貨1枚追加で」
「むっ」
「安心してください。情報は共有します」
「……頼む」
しかしどう伝えればいいだろうか。
恐らくジリアン皇女は――それに他にも複数の人間は、人体実験をされていた。
何かしらの液体が満ちた透明な培養槽、体中に繋がれた管。それらがいくつも立ち並ぶ部屋。
決定的な場面は見ることができなかった上に、前世の知識、しかも映画の知識だが恐らく人体実験だろう。
いずれにせよ、このまま皇帝に伝えるのは難しいので掻い摘んで。
「まず、ジリアン皇女は何かしらの実験を受けていたようです。薬物か生物かわかりませんが、それらを投与されたのではないかと」
「何だと!?」
「そして、それを行っていた人物は……」
誰だろうか。わからない。見たことは全くない。
確かなのは、ミレイや母様を陥れた人物であること。
そして――。
「教会で待つ、と」
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