第141話 揺れる1歳児
死んでしまう、デズモンのその言葉に仕方がなく皇帝を元の場所に戻す。
皇帝は口から大量の水を吐き出し、咳き込んているようだ。
「はぁ……」
城を爆発させる実験も中止することにし、硬質化した糸で壁にだくさんの穴を開ける。
水圧に耐えられなくなったか、壁が壊れて水が勢いよく流れて行った。
「ぴょん! 怖い旦那様もかっこいいぴょん!」
「イクラウス様……」
能天気なロロップと異なり、アステラは僕の心のイライラに気が付いているようだ。
自分でも説明できない、イライラもやもや。
「ご慈悲をありがとうございます! このデズモン、何としても皇帝陛下を説得して見せます!」
「ん……」
死ねと言われても、殺されそうになっても、尚皇帝を守ろうとする男。
いい家臣だね。
「ガハガハッ……デズモンンン~~~……っ!」
「陛下! ジリアン様の件とグランデシャインは無関係だと! そう仰っております! もうおやめください!」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 死ねデズモン! 『アクアランス』!」
皇帝が立ち上がり、高密度の魔法の槍を放つ。
その向かう先は――。
「がはっ……へ、いか……」
デズモンの胸だった。
槍に貫かれたデズモンは、血を噴き出しながら倒れる。
「デズモン!?」
「貴様も死ねぇっ! 悪魔の子イクラウスぅぅぅっ!!!」
血走った目、剣を両手に迫る皇帝。
僕を庇うように立ったのは、アステラだった。
「イクラウス様、あなたができないときは私が!」
「アステラ……」
剣を右手に持ち、脱力するアステラ。
「グラリオン流剣術秘奥技――」
「死ねぇぇぇ!」
皇帝の剣がアステラに触れる瞬間。
「グランドセクスタイル!」
「ごばぁっ!?」
六芒星が皇帝の胸に刻まれた。
「……峰打ちです」
6本の、鎧ごと大きくへこんだ傷を見ると、確かに切断はされていない。
だけど致命傷には変わりないのでは。
「『聖女の癒し』」
「――はっ!? へ、陛下……! いやこの光は……」
まずは忠誠心の男デズモンを回復させてやる。
次は……どうするか。
「これ、戦争相手国のトップ暗殺成功ってことでいい?」
「ぴょん! クールぴょん!」
「確かに!」
「戦争の結末としてはよくあることですね」
タリアさんたちの了解も得られたことだし、このままでもいいか。
代わりの頭を僕らの言うこと聞くやつに挿げ替えれば万事解決。
ああ主よ、罪深い僕をお許しください。
「何卒! 何卒ご慈悲をぉぉ!」
「ん~……」
デズモンが何度も地に頭を打ち付けるが、こちらとしては殺す理由は何個もあれど許す理由はない。
殺されそうになるし、対話も断られるし。そもそもの元凶だし。
ここは勇気の決断だ。
「悪いけど――」
「お、お待ちください! 聖子様!」
何とも場違いな甲高い声、そして懐かしい呼ばれ方。
その声の主を見ると、破壊された壁から1人の女性がこちらを覗いているのが見えた。
「ど、どうか父を……皇帝陛下をお助け下さい……!」
「悪いけど、たった今殺すことに決めたんだ」
「そんなぁ!」
15歳くらいだろうか、とても煌びやかなドレスをきた皇女様らしき女の人。
その人がこちらに近寄ってくる。
暗めの黄土色の長い髪が地属性を――。
「……母様?」
「え? いえ……」
母様?
何で僕は彼女を母様と呼んだ?
母様――フルルーチェ母様とは似ても似つかない。
髪の色だけ多少似ているが、こっちは黄土色だ
ならばどうして?
「わたくし、あなたを産みましたでしょうか……?」
「ジリアス皇女! お下がりください! 護衛は何をしている!」
「い、いえ宰相様! わたくし聖子様にお願いしなければならないのです!」
皇女――ジリアスと呼ばれた少女とデズモンの声が遠くに聞こえる。
対照的に、ジリアス皇女の顔だけに意識が向く。
「ぴょん! あの女の人にそっくりぴょん!」
ロロップが指さしたのは、ジリアン皇女。
確かにそっくりだ。
そっくりだ……。
「……ごめんね、ごめんね……」
頬を伝う涙が何のかわからない。
『ごめんね』の意味も分からない。
しかし皇帝を許してやれという思いが溢れてくる。
「『聖女の癒し』」
「まあまあ! わたくしのお願い聞いてくださったのね! 聖子様ありがとうですわ!」
間の抜けた言葉、状況にそぐわない言葉。
普段なら鼻で笑うところ。
なのに、僕はジリアス皇女に抱き着いていた。
「ごめんね、ごめんね……」
「あらあら、どうしちゃったんでしょうか……いいんですよ、聖子様」
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