第134話 怒り狂うドラゴンと1歳児
「ギャアアアォォォォーーーンッッ!!!」
怒り狂って暴れているドラゴン。
その目には理性も何もない。ただ怒りの炎だけが見える。
全身が純白だからこそ、その目の赤さが際立つ。
「ブレスだ! 避けろ!」
「ダメッ間に合わな――」
女性の魔族――髪の毛が薔薇のとげのようになった人が顔を伏せる。
そこにドラゴンが大きな口を開け、膨大な魔力の塊を吐きだした。
「ガアアアアァァァッッ!!!」
「『聖女の守り』!」
間一髪、女性の前に出て『守り』を展開する。
かつてない衝撃と共に、『守り』がミチミチを悲鳴を上げるのが聞こえた。
おそらく今までの攻撃で1番のものだ。
込める魔力を増やすと、それも無くなったが。
「グウルルル……ギャアアアォォォーン!!!」
「…………」
ブレスが防がれたことも意に介さず、再び暴れ続けるドラゴン。
今度は魔族に対してではなく周囲の岩を砕き始めた。
「あ、あなたは……?」
「僕はイクラウス。ドラゴン様を鎮めるよう言われて来ました」
「あなたが!」
どうやら話は彼女らにも伝わっていたようだ。
手間が省けて助かる。
「急にドラゴン様が目覚めて……そしてあのような状態に!」
「……なるほど」
どうやら彼女らにも想定外の事態らしい。
しかしちょうどいい、このまま対処させてもらおう。
「このままドラゴン様と対話させてもらいます!」
「そんな! 危ないですよ!?」
「大丈夫です。離れていてください」
「しかし――ぐぇっ!?」
「さっさと行くぴょん!」
引き下がらない植物魔族さんの首根っこを引っ張って連れて行くロロップ。
ありがたいけど、きっと僕の身を案じてくれてたと思うから優しくしてあげて欲しい。
「では……」
「ギャアアアオオオッッ!!!」
再び僕に狙いを定めたようにこちらに向かって吠えてくる。
大型トラックほどの大きさ、その全身を使うような叫びは、大気をも震わせる。
そして僕など一飲みにされそうなほどの巨大な口、それを再び大きく開く。
ブレスだろう。
「『聖女の守り』」
「ガアアアッッ!!!」
最初から強めの魔力で展開した守りは、今度はビクともしない。
しかしこの荒れ狂うドラゴンをどうするか。
怒りを冷ますにはいくつか考えられる。
1つ目、思いっきり暴れること。
2つ目、原因を取り除くこと。
3つ目、強制的に忘却させること。
とりあえず、1つ目。彼の怒りを受け止めてみよう。
「こい! 『聖女御座す安息の地』」
「…………? …………!? …………!?!?!?」
久しぶりのレストリア。
魔力体でピカピカ光るレストリアならデコイとしてちょうどいい。
心なしかレストリアもドラゴンを見れて嬉しそうだ。
「…………!?」
「ガアアアアッ!!!」
「…………!? …………!?」
「グルルル……グオォォォーーーンッッ!!!」
「…………!? …………!? …………!?」
よし、いい感じだ。
レストリアがぴょんぴょん跳ねながら逃げ回り、それをドラゴンが追いかけて攻撃している。
まるでねこじゃらしにじゃれつく猫だ。
だが、なんとなくレストリアが涙目なのは気のせいだろうか。
「…………!?」
「ガァァァ!」
ついには蹲ってプルプルしているレストリア。
もしかして……怖がっているのか?
そんなバカな、あれはただの魔法のハズ。
「…………ごめんねレストリア」
「グルッ!?」
いたたまれなくなってレストリアを解除する。
消える瞬間にこちらを見ていた彼女はやはり泣いていた。
後で慰めてあげよう。
「おっと――」
「グオォォ!」
目標が再び僕に向かう。
結構暴れたが、ドラゴンの怒りは収まる気配が感じられない。
それどころか増している気さえする。
仕方がない、3つ目を行使するか……気は進まないが。
「『悪魔縛りし拘束具』」
「グォ!? ――グオォオォォオオ……ガアア……!」
敵を無力化する糸。
それを受けてもしばらく暴れようともがくドラゴンだったが、数分かけてようやく沈静化した。
「……グルル……オォォン……」
「……ドラゴン様、声が聞こえますか?」
体を力なく横たえたドラゴン。
それを見てすぐに『悪魔縛りし拘束具』を解除するが……。
「……悪魔の子よ」
「ドラゴン様!?」
人語を操るドラゴン。
どうやら話通り理性的、知性的な存在のようだ。
しかしその目は、怒りを失った目は……とても虚ろな目だった。
「……殺せ」
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