第132話 魔族と1歳児
ナナリスに教えて貰ったとある民族に会うため、僕らは予定にない道を進んでいた。
獣人の領域である森をそのまま徒歩で歩いた先。
そこに誰にも上れないような険しい山があるという。
そこまでの道のりを、再びセキが案内してくれている。
「チチチ! 見えてきたよー!」
「あれが……とある民族さんの集落」
『アニマルランド』を出発して3日目。
たどり着いたのは山の麓。そこにあったのはとても簡易な集落。
まるで野営をしているかのような質素な暮らしをしている人たちだった。
「チチチ! 誰かー! ナナリス様のお知らせ見た人ー!」
集落に向けて大声を上げるセキ。
だいぶ大雑把な呼びかけだが、どうやらナナリスが先触れを出してくれていたらしい。
至れり尽くせりである。
「ん?」
集落に入ろうとしたところ、違和感に気付く。
どうやら集落の周りを何かしらの魔力が囲んでいるようだ。
闇の魔法か?
「これはこれはセキさん。そして……あなた方がイクラウス様とそのご一行様で?」
「チチチ! そうだよー!」
藁で出来た、最低限雨風が凌げる程度の粗末な家から出てきたのはトカゲのような頭、そして全身に鱗のようなものが生えてる人だった。
彼は魔族、ということだろうか。
「ぴょん? トカゲの獣人?」
「兎人よ、私はリザードの……人間風に言うと魔族ですよ。名はザルフォスと申します」
「ぴょん! 私はウサギぴょん!」
若干失礼に当たるのではと思ったが、ロロップが先陣を切ってくれたおかげで声をかけやすくなった。
異種族同士で通じるものがあるのだろう。
「ザルフォスさん、仰る通り私がイクラウスです。こちらにいるのが……人間の国の王妃タリアと王女のアステラです」
「これはこれは……立場のある方がわざわざいらっしゃるとは。何もおもてなしできませんが、どうぞごゆるりと」
なかなか知的というか、人間の生活に理解がある様子。
だったら何でこんな生活を送っているのだろうか。
ナナリスたちとの関係も悪くないようだし、一緒に暮らせばいいのに。
「ありがとうございます」
「お言葉に甘えて……ひゃっ?」
「お待ちを! ……遅かったか……」
タリアさんとアステラが集落の内部に進もうとしたとき、例の魔力に触れてしまった。
「申し訳ありません! 集落には防護のために結界を張っていたので――」
「あ、ちょっとビックリしましたけど大丈夫です! 『聖女の守り』があるので!」
「おお! 我らの魔法をものともしないとは……これが『獣の魔王』殿が仰っていたイクラウス様のお力……!」
どうやら図らずも僕の力を見せることができたようだ。
しかし『獣の魔王』って……もしかしてナナリスさんのこと?
そんなこと一言も言ってなかったけども。
「これなら確かに……イクラウス様、早速お願いできますか?」
「はい……はい?」
「我らが崇めるドラゴン様、その怒りを鎮めていただける……そうですね!?」
ああ、そういうことなの。
ナナリスよ、ちゃんと説明してくれ。
「わかりました。それでドラゴン様はどちらに?」
「この山の頂上です」
「……ほわぁ」
山の頂上。
山というか、何百メートルもの岸壁のようにそそり立った壁。その遥か上方に……見えないのだが。
一体どうやって昇ればいいのやら。
「集落から続く道に頂上へ進める道があります」
「……それはどのくらいかかります?」
「そうですね……我々で1週間といったところでしょうか」
1週間!?
この険しい山道を!?
しかも慣れた人の足で1週間ってことは、僕らはもっとかかるんじゃ……。
「……イクラウス様……私、もうダメです……」
「タリアさん……」
「もう……足が言うことを聞きません……!」
タリアさんが泣きながら、足から崩れ落ちる。
彼女の気持ちもわかる。
ここまでの道のりも、ずっと頑張ってきたものね。ムカデが這うくらいなんともなくなってたものね。
「お連れの方はこの集落でお寛ぎいただいきますか? 我々は構いませんが……」
「……イクラウス様、よろしいですか?」
「そうさせてもらおうか。アステラも、そうした方がいいんじゃない?」
「……はい!」
アステラには申し訳ないが、タリアさんを1人にさせる訳にもいかない。
彼女も察してくれたようで了承してくれた。
先に聖女像を設置させてもらえば、心配いらないだろう。
「そうだ、先に聖女像を設置させていただいてもよろしいですか?」
「はい! ぜひともお願いします!」
その後、聖女像を問題なく設置した僕らは一晩休むことになった。
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