第131話 2歳児に懐かれる1歳児
ナナリスの話によると、彼女の目論見はこうだった。
頭領である自分を打ち負かせるほどの強さを見せつけること。
人間である僕らが、信用に足る人物であると示すこと。
「図らずも2つとも達成できたようだね」
「打ち負かせてはないですけど」
「あれで十分だよ。それに、ここの人たちは“強さ”に拘る者は多くない」
「そうなんですか?」
獣人と言えど価値観はそれぞれということか。
当たり前か。
今もしがみついているルビちゃんが『力こそ正義!』とか言うの想像できない。
「人間からの迫害で傷ついた者や他の獣人に恐怖心を持つ者、それに戦いに適していない者……そういった人たちがここには多いからね」
「なるほど。奥地にいるのはそのためですか」
「そういうこと。だから、聖女像の話は本当にありがたく思っているよ」
困っている人にこそ聖女像を役立てて欲しい。
今回はそれが叶いそうだ。
「よかった! ぜひとも聖女フルルーチェ様をこの国の恩人――いや救世主として崇め奉ってください!」
「ふふ」
その笑いは肯定と受け取ったぞ!
こうなれば三日三晩母様の素晴らしさを説いて回らねば……しかしそんな時間はない。
ああ、こんな時に母様の伝記『史上最高最かわ聖女フルルーチェの慈愛に満ち溢れた尊き人生とその最も愛した子ども』があれば。
いやあれはまだ執筆途中、しかも教会に置いてきてしまった。
万が一捨てられていたら、神殿を燃やし尽くそう。
「また変なこと考えているね。ほら、聖女像の設置を頼むよ」
「あ、はい。どこにします?」
「大きさはどのくらい?」
「ナナリスさん20人分くらい」
「それはまた……わかりやすいようでわかりにくいね」
「そう?」
なんてことを話しながら、案内されたのは集落の中央。
周りに民家はなく、休憩スペースのように使われているのだろうか、ベンチのようなものがある。
「やっぱり真ん中がいいよね」
「そうですね。ここならスペースも十分です。では早速――」
母様よ、主よ。従順なる母様の僕となる彼女らを、どうか悪しき存在からお守りください。
願いを込め、魔力を練り上げる。
やがてそれは聖なる輝きを放つ聖女像へと姿を変えた。
「おお……さすがに神々しい。聖女様が抱いているのはキミかい?」
「はい。母様が愛してやまない僕です」
「ふふ、そうだね」
ずっと様子を見守っていた周囲の獣人たちも、何だか安心したような顔をしている。
『聖女の守り』に保護されているのがわかっているのかもしれない。
聖女像も心なしか嬉しそうだ。
「……ルビは?」
「え?」
「ルビは? いないの?」
「…………い、今から……作ろうと、思ってたとこ……」
◇◇◇◇◇◇
その後はここで一夜を過ごし、朝早くから戻る準備をする。
シロ、クロ。待っててくれ……!
「タリアさん。色々とありがとう。これでボクたち獣人も外の世界で生きやすくなるよ」
「いえ、我々人間のしたことを思えば……」
どうやらナナリスさんとタリアさんは例の魔道具や獣人への支援について話をしていたらしい。
その間僕が何していたかと思えば――。
「もういっちゃうの……?」
「ルビちゃん、また会いに来るからね」
「いやぁ」
ずっとルビちゃんと遊んでた。
途中からお兄ちゃんのロインまで加わって。
迎えに来た彼らの母親は……とても大きかった。さすが牛の獣人。
しかしこうして朝早くから見送りに来てくれるまで懐いてくれたのは嬉しい。
猛烈なタックルと頭ぐりぐりは痛いが。
「ほらルビちゃん~、いい子にしないとレアで食べられちゃうぞぉ~?」
母親である。
なぜ焼き加減を伝える必要があるのか。
あと大きい。
「……イッちゃん、食べてくれる?」
「食べないよ……」
「そんなぁ……ママもおいしいって、いってくれるよぉ?」
「…………」
母親を見るととてもニコニコしていた。
そういえば母様も僕のほっぺをおいしいと言っていた。
きっと母親とはそういうものなのだろう。
「あんまりイッちゃんの邪魔してるとぉ~、ミディアムにされちゃうわよぉ~~~?」
「ミディアムはいやっ!」
「それじゃあ、離れましょうね」
「…………うぇぇん」
遂に泣き出してしまったルビちゃん。ミディアムに何の抵抗感があると言うのか。
しかし抱き着く対象を母親に変えたことで、いよいよ解放される。
そこにナナリスが話しかけてきた。
「ふふ。キミは相変わらず罪な男だね。ルビの初恋を奪うなんて」
茶化すような言葉。確かにその通りだ。主よ、モテモテな僕を羨むがいい。
最近幼い子ばかりに好かれている気もするが……あ、セレチュは大人だった。
まあそれはいい。
「ナナリスさん、この度は助かりました。改めてお礼を申し上げます」
「気にしないで。このコインを貰った時から、ボクらは仲間。そうだろう?」
「おお! それは!」
骸の魔王討伐の時に渡した、母様のかわいいご尊顔が刻まれたコインだ。
まだ持っていたらしい。いつどんな状態で見ても母様はかわいい。
ふと、ナナリスが手に持つコイン、そこから見える腕に何か刻まれているのが見えた。
『3―7』? 入れ墨だろうか。
「ふふ。そうだ、実はここから北に進んだ山沿いに、キミの助けが必要そうなとある民族がいる。行ってみてはどうかな?」
「とある民族?」
「うん。恐らく地図には載っていない集落だと思うよ」
それはいい。ナナリスは有力な情報をくれたようだ。
僕の助けが必要ということは、聖女像を受け入れてくれる可能性も高い。
そうとなれば早速向かわねば。
「ありがとうナナリスさん! また会いましょう!」
「ふふ。また会おうね」
ナナリスに別れを告げ、ルビちゃんの頭を撫でる。
そして最後に、右腕に僕を、左腕にルビちゃんを抱えた聖女像に別れを告げて『アニマルランド』を後にしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ふふふ……また会おうね、イクラウス君……いいや、イレブン・ナイン……ふふ」
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