第130話 子どもを撫でる1歳児
戦いの経験はろくにない。
なぜなら僕はまだ生まれて1歳だ。
そんな僕に戦いでできることなど、魔力で押すしかない。
「何を……?」
「魔力弾……」
ナナリスの声に、魔法で答える。
それはごくごくシンプルな魔法。
属性の籠った、初歩的な……魔法の適性があれば誰でも使えるような魔法。
その数――。
「無限」
「なっ!?」
“無限”は盛った。
一瞬で出せるのが精々が100くらい。しかし、今もまだ増えている。
1秒で100。既に1000はあるか。
光、闇、地、火、水、風。それぞれの色を宿した5センチくらいの魔力弾。
「ほらほら、放っとくとどんどん増えるよ」
「――ちっ!」
1000を超え、僕を中心にシャボン玉みたいに浮いている魔力弾。
ナナリスが意を決したかのように薙ぎ払う。薙ぎ払おうとした。
しかしまるで硬い壁にぶつかったように弾かれる。
「痛っ――熱っ!? それに重い……!」
「属性が籠ってるからね……ひんやりもするんじゃない?」
「……ピカピカもしているよ」
風は……爽やかになれるかもね。
「……ボクも本気を出そう」
「ふむ?」
「ボクの髪の色、キミならどういう意味か分かるだろう?」
「緑……風」
ナナリスがなんとなく爽やかなのは、風属性由来らしい。
そんなことを考えている場合ではない。
それより……獣人は魔法が使えないはずだが。
「見た目はシャボン玉ですが、吹き飛びませんよ? 全て僕のコントロール下です」
「だろうね。だから……”風よ、吹きすさぶ暴風、無形の波──『エアロブラスト』”」
ナナリスの足元で風が爆発した。
その爆発力で無理やり突破するつもりだ。
なんて無茶なことを考えるんだ。
「はぁぁぁーーーっ!!!」
「ちっ――ん?」
このままではナナリスが『すりおろし猫ちゃん』になってしまうため、魔力弾を消失させようとしたのだが。
しかし、彼女の身は削れていなかった。
「(何か、鱗のようなものがついているような……?)」
そこまで考えたところで、僕はまたナナリスによって吹き飛ばされた。
「あわわわわ~~~!?」
「…………」
再び大回転を起こしながら宙を舞う僕。
グルグルと世界がシェイクされるが、落下予想地点に何かいることに気が付いた。
「(あれはおいしそうな兄妹!?)」
最初に出会った牛の兄と妹。
どうやら少し離れたところで僕らを見ていたようだが、運悪く僕が降ってくる場所にいる。
「う、うわぁぁぁー!?」
「ふぇっ」
兄は必死に逃げ出せたが、妹は目を瞑ってしゃがみこんでしまう。
このままじゃぶつかる!
何か手は――そうだ!
「糸! もこもこ!」
「いやぁぁぁ……ふわっ?」
かろうじて、全力でもこもこの糸を体に巻きまくった結果、どうにか衝撃を緩和させることに成功したようだ。
とはいえ小さな体には耐えがたい衝撃だろうと、慌てて倒れている彼女を抱き起す。
「『聖女の癒し』! 大丈夫!?」
「ふぇっ……?」
「痛いところはない!?」
「……だいじょぶ……」
よかった、けがも見当たらないし大丈夫そうだ。
「にんげん……さんは……?」
「僕? 大丈夫だよ」
「……よかったぁ」
なんとまあ。
さっきまで僕に怯えていたにもかかわらず心配してくれるとは。
いい子いい子してあげよう。
「わっ」
「ふふ、いい子だね」
「…………」
さて、戦いの続きだけども。
ナナリスは、と思い視線を戻すと目の前にいた。
「ふふ、少年。ボクの負けだよ」
「え? 何で?」
「敵に情けをかけられてしまった、というやつさ。それに見てごらんよ」
「ん?」
周りを見てみると、観戦している獣人がたくさんいる。
その人たちが口々に何かを言っていた。
「今……獣人の子どもを庇ったのか?」
「俺もそう見えたぞ」
「人間のくせに……?」
「今の光は一体……」
どうやら、妹さんを守ったのが彼らにとっては意外だったらしい。
彼らの目からは恐怖や猜疑の色が薄くなった気がする。
「ん」
「お?」
彼らを観察していると、妹さんが抱き着いてきた。
「ん!」
「お?」
「んん~!」
「いててて」
戸惑っていると、今度は頭を僕の胸に押し付けてぐりぐりされる。
角でゴリゴリ削られて痛い。
「ふふ、頭を撫でて欲しいみたいだね」
「ああ、そうなの?」
「ん!」
ナナリスがまるで微笑ましい子どものじゃれあいを見るかのように目を細めていた。
『見るかのように』じゃなくて、そのまんまだった。
仕方がないので頭を撫でる。
肩に届かないくらいの髪は思いのほかサラサラで、撫で続けると大きな目が細められていった。
「お名前は?」
「……ルビ……あなたは?」
「僕はイクラウスだよ」
「……イッちゃん……」
イッちゃん。
また新たな呼び名が増えてしまった。
「レアが……おいしいよ」
「食べないよ……」
この子の親はどこだ。
今すぐここに来い。
「ふふ、どうやらうまくいったみたいだね」
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