第121話 筋肉の国と1歳児
セレチュ様(仮)は着替えてくると言うことで応接間で休むことになった僕たち。
垣間見える真実と目の前の現実に混乱している。
「セレスティア様は御年20になられるお方だと伺っておりました。つまりセレチュちゃまは妹君か何かでしょう」
「何かって何ですか! 宰相さんも『セレスティア様』と呼んでいたわよ!?」
タリアさんは未だ別人だと思っているらしい。
アステラは半信半疑ながらもセレスティア様ご本人だと思っているようだ。
僕? 僕はね……。
「婚約とか夫とか、嘘だよね? ちっちゃい子のおませな冗談だよね?」
「…………」
「…………」
なぜタリアさんまで黙ってしまうのか。
「ぴょん! だから言ったぴょん!」
「言ったのか?」
「目で言ったぴょん!」
ああいうときのロロップの目は誰にも直視できない。
目じゃなくて口で言って欲しい。
しかしさすが獣人、なぜか最初から気が付いていたらしい。
「お待たせしております。女王陛下は間もなくこちらにいらっしゃいます」
「あ、宰相様……」
ここに案内してくれた後に用事があると席を外していた宰相。
しかしロッキンバーグぼ方々はみんながたいがいいと言うか、筋肉もりもりというか。
この老人に差し掛かっているであろう宰相も、すごい筋肉だ。顔は好々爺そのものだが。
その宰相の手には、例の教会からのお達しと思われる封書が握られていた。
「姫様がいらっしゃる前に確認をさせていただきたいのですが……こちらの手紙、その内容……『悪魔の子』というのはあなた様のことでしょうか?」
「はい。実は我々は――」
オンモードのタリアさんが事情を説明する。
僕らが教会に対抗するために各地を回っていること。
それに加えてセレチュ様との出会いについても。
「いやはや、そんな事情が……」
「はい。ですので聖女像の設置を認めていただきたいのです」
「……申し訳ないですが、それは女王陛下がお決めになります。個人的には……いえ、これ以上はすみません」
いくら好々爺然とした宰相でも、即決とはいかないらしい。当然か。
教会と対立するかどうかの問題になるのだ。
「そろそろ女王陛下もいらっしゃいますし、その時にもう1度――」
「話は聞かせてもらった!」
宰相が話を終わらせようとしたその時、勢いよく応接間の扉が開かれる。
現れたのはかわいらしいドレスを着たお姫様だった。
その両脇には筋肉もりもりのメイドさんが控えている。
「盗み聞きをしてすまぬ! この通りだイクラウちゅ!」
「頭を上げてください、セレチュ――セレスティア様?」
「おお! ようやく我が名を呼んでくれたか! しかしセレチュでよいぞ!」
本当にセレスティアさんご本人らしい。
セレチュではないと何度も訂正していたのは……『ス』が言えなかったからのようだ。
しかしなぜ幼女の姿なのだろうか。年齢は20なると聞くが。
「ロッキンバーグは我が夫イクラウちゅを支持し、教会と敵対することを選ぶ!」
「まあ! ありがたいでちゅ!」
「……ん。先日我が頭の中にも神の声は届いた。あれこそが真実であろう。聖女像など貰わなくても、人として当然の選択である!」
「わぁ! さすが聡明なお姫ちゃまでちゅね!」
「……ん。宰相よ、そうであろう? このようなかわいいイクラウちゅを陥れようなど許せるはずがない!」
「……ですな」
セレチュ様に話を振られた宰相。
すると彼はおもむろにサイドセスト――胸の厚み、腕の太さ、脚の太さなど、体の厚みを強調するポーズを取る。
筋肉が急激に膨張し、上半身の衣服がはじけ飛ぶ。
「まこと許し難し! 神の道どころか人の道を違えた坊主共に我らが人誅を下しましょうぞ!」
「よくぞ言った! よし、全軍に伝えよ! 剣を持て! 次は神殺しでありゅ!」
「承知!!!」
早い。気が早いどころじゃない。
こちらの準備は全く整っていない。
「待ってセレチュ様! まだ他の国に母様の像を設置しないといけないんだ!」
「む、確かにそう言っていたな。全く、イクラウちゅは頼もしいのに母親大好きっ子であるな!」
「はい」
「素直なことはいいことだ! イクラウちゅよ、我らの助けが必要ならばいつでも呼ぶがいい!」
すっごい頼もしいことを言ってくれるが、幼女。
何だか微笑ましくなってしまう。
そろそろ彼女の事情も聞いてみたいが……。
「セレチュちゃま、お勇ましいでちゅねぇ!」
「……お前さっきから我のことを子ども扱いするな! 不敬であるぞ!」
「はわわ~! 怒った顔もかわいいでちゅ! ちゅっちゅっ!」
このままではタリアさんが処刑されかねないし、ちょうどいいので彼女のことを尋ねよう。
「ところでセレチュ様。どうしてそのようなお姿に……?」
「む?」
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