第116話 旅立つ1歳児
執務室に戻り、グラウゼルと今後のことを改めて話し合う。
「もしかして、もう僕らの勝ちじゃない? 主が自ら僕らの味方であるグランデシャインを『聖地にする』って言ったんだし」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「出た、適当な発言」
大人はいつだってそうだ。
明言を避けてそれっぽい言葉で濁すんだ。
「……いいか、否定された教会はどうなると思う?」
「悔い改めて謝ってくる」
「さすがお子ちゃまだな、そんな訳ないだろう。まず、例の主の言葉を『悪魔の子』の仕業だと吹聴するだろうな」
「む? それはいくら何でも無理があるのでは」
「まあな。あの声を聞いた者ならば、それが例え悪魔の物だとしても跪きたくなる。そういう類のものだった」
聞こえなかった僕への当てつけだろうか。
しかし……本当に主だったんだ。
「人もばかじゃない。あれが『偽物』だと言う教会こそ偽物だと気が付くだろう。善良なものは、それでいい」
「善良じゃない者は?」
「目先の利に目が眩み、教会に乗る可能性がある。嘘だとわかっていながらな」
「…………」
それもそうか。
正しいものがすべてじゃない。
何より主を肯定していない人間もいるだろうし。
「そして教会はどうするか。恐らく死に物狂いで勢力を拡大し、こちらに総攻撃を仕掛けてくるだろうな」
「負ければ失うんだから、当然か……」
「わかっているじゃないか。さすが成長盛りのお子ちゃまだ」
主よ、次の神託はこいつも除外してください。
しかし……まあそうなると、やはりやることは変わらないな。
各国に聖女像をお届けし、母様と主の恩恵を授ければいいのだ。
「3か月だ」
「ん?」
「3か月で可能な限りお前の味方をしてくれる国を作れ」
「ああ……聖女像を作るってことでしょ? それなら大丈夫。たくさん食べれば」
魔力はたくさん使うが、その分おいしいものが食べられる。
もしかしてこれ、一石四鳥くらいの作戦なのでは?
我ながら素晴らしいことを考えたものだ。
「…………」
しかしグラウゼルの顔は渋いものを食べているような顔をしている。
「何か?」
「あの聖女像、どうやって送るつもりだ?」
「どうやってって……引っ張って?」
「無理に決まっている……いや不可能ではないが、人員が足りない。恐らく時間も足りない」
「そこは頑張ってよ!」
「無理に決まってる!」
だったらこいつはどうするつもりだったのか。
あ、聖女像は僕が提案した案だった。
「俺はてっきり、お前が直接出向いて作るもんだと思っていたが」
「ははは、そんなまさか……」
そんなことするとなると、母様と離れ離れになってしまう。
今の母様を連れ出すのは心配だ。
旅では何があるかわからないし。
「他に……他に方法は……ないかな……」
「…………」
「また離れ離れは……いやだな……」
「…………」
だけどわかっている。
そうしなきゃ母様を救えないかもしれない。
せっかく掴んだチャンスをふいにする訳にはいかない。
わかってるけど、涙が出ちゃうのはしょうがない。
「イクラウス。俺の全てを賭けて聖女様――お前の母親を守ると誓う。何一つ不自由はさせん」
「……グラウゼルのばか……お前なんか、嫌いだ……」
「友よ、我が小さき友よ。時々、どうしてこんな小さな子が大きすぎる使命を背負わなきゃならんのかと思うときがあるよ」
「嫌いだ……」
「いつでも帰ってこい。どんな結果になろうと……俺はお前の味方でいよう」
「…………」
本当に嫌いだ。
八つ当たりにも顔色一つ変えず、それどころか笑っている。
そんなところが……。
だけど、素直になれないまま後悔する方が辛いんだった。
「……本当は嫌いじゃない」
「クク……あっはっはっ! 急にどうしたんだ?」
「……別に。それよりも! お前母様に絶対近づくなよ! 他の男も接近禁止! 半径10メートル以内に入ったら拷問の後処刑!」
「それはさすがに無理だ……せめて5……いや3メートル……」
「無理」
しばらく無理と無理の応酬が続き、最終的には10メートル、母様から許可を得た場合は5メートルで落ち着いた。
◇◇◇◇◇◇
そして翌日。
「母様、行ってまいります」
「イクラちゃん、頑張ってね♪」
「母様……はい!」
母様とは昨夜さんざん別れを惜しんだ。
だから今は我慢できる――あ、できなさそう。
「イクラウス様! 聖女様のことはこの人類の希望の象徴であるクゥに任せて!」
「お姉さんが、ついていますから……!」
「2人とも……頼んだよ!」
クゥとマリンともしばらくお別れだ。
マリンはともかくクゥはお世話される側だろう。
だが、彼女がいれば飽きとは無縁だろうし、ちょうどいいかも。
「ぴょん! 旦那様のことは任せるぴょん!」
「お義母様、マリンちゃん、クゥさん。それに兄様方も……行って参ります!」
僕と一緒に行くのはロロップとアステラ。
アステラはグランデシャイン王族の代表として行くらしい。
ロロップは僕の護衛として。
それともう1人――。
「ではみなさん、行きましょう。グラウゼル様、グラリオン様。どうかシェルノをお願いします」
タリアさんも行ってくれるらしい。
彼女は元々役人だったそうだし、王妃となった後も外交や内政に携わっていたとか。加えて御者の経験もあるらしい。
つまり最適な人材ということ。
ただの不思議なお姉さんじゃなかったようだ。
「それでは、出発!」
いざ、母様の威光を知らしめに!
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次話は20時20分頃投稿します!
よろしくお願いします!




