第114話 地魔法と1歳児
世界が敵に回るかもしれない。
不安に押しつぶされそうになりながらも、母様の寝室に向かう。
とりあえず母様といれば安心できるから。
「母様、失礼します」
「……ああ、イクラちゃん。元気ぃ~……?」
しかしどうしたことだろう。
母様の様子がおかしい。
元気がないのは母様の方だ。
「どうしたのですか母様!? お体が悪いのですか!?」
「あ~……う~ん、ちょとねぇ~……」
「そんなっ!? そうだ、この僕をお食べください! そうすれば必ず元気になります!」
「ふふ、確かにイクラちゃんってかわいくておいしそう……はむっ♪」
あ。
「…………」
「うふふ、イクラちゃんのほっぺたムニムニでおいし~♪ はむはむ♪」
「…………」
「えへへ、イクラちゃん食べちゃった~♪ ……あれ? イクラちゃん? イクラちゃんってばぁっ!」
「……はっ!?」
しまった、母様にほっぺたをはむはむされてつい昇天してしまっていた。
主が見えた気がする。
これは僕もはむはむ返ししていいのだろうか。いいに違いない。
母様のほっぺを――と思ったところで正気に戻る。
母様の体調のよくなさそうな顔を見て。
「母様、本当にお体どうされたのですか?」
「……んとね、主のお力が弱っているみたいで……」
「主の?」
今の母様の体は主の力で維持されている。
その力が弱まっていると言うことか。
「神託があったんだけど……それも分かりにくくて。『信仰心』とか『戦火』とかしか聞こえなくて……」
「……なるほど」
かつてないほどの頭の冴え、それが導き出したのは1つ。
教会が戦争を起こそうとしているからだ。
人々を争いに巻き込む。そんなこと主の望みとはかけ離れているだろうし、民からの信仰心も失って当然だ。
「どうにかして母様の偉大さとかわいらしさを世に知らしめなければ!」
「うふふ、私じゃなくて主だからね! あと、偉大とかかわいいとか……恥ずかしいから……」
「なぜですか! 母様のかわいさは世界一、否宇宙一です! 誇ることこそあれ恥ずかしがるようなことではありません!」
「あ、ありがとう……こんなに真っすぐ褒められ続けたら誰だって仕方ないと思う……」
最後の呟きはボソボソ言っててあまり聞こえなかったが、誰に言ったのだろうか。
まあいい。
今はとにかく考えねば。
「母様の素晴らしさを世に知らしめる……」
「主を忘れないでね!」
「ついでに主も……」
さらについでに『教会に背いてでも味方をしたくなるような何か』。
ふぅむ。
「……あ」
「どうしたの~?」
「閃きました! これなら全て解決……! 素晴らしい! さすがは母様が産んでくださった僕だ!」
「…………」
こうとなったら早速取り掛からねば。
しかし素材は――いやできる。メテオができるならできるはずだ。
それに聖属性も……くっくっくっ、世界よ、待っていろ。
「主よ、どうかこの子自身の素晴らしさが認められますように」
「あれをああして、そこにあれを――ん? 何か言いましたか? 母様」
「ううん、イクラちゃん大好きって♪」
「はわわぁ~……」
◇◇◇◇◇◇
そして翌日。
全ての準備を終えた僕は母様やグラウゼルなど、みんなを城壁の外へと呼び出した。
タリアさんだけは他国への伝達の準備のため忙しくて来なかったが。
「どうしたんだ? みんなまだ忙しいのだが……」
「まあまあ、今からすっごいの見せてあげるからさ!」
「ふむ?」
「母様というでに主の素晴らしさを広め、かつ教会に背いてでも味方をしたくなるような物さ!」
魔法はイメージ、ならば簡単だ。
母様のご尊顔は一時も忘れたことがない。
後はそれを魔力に乗せて顕現させるだけだ。
「聖・地属性魔法――『聖女像降臨』!」
僕に宿る魔力がごそっと失われる。
その代わりに、魔力が巨大な像を形作る。
聖なる魔力を帯びたそれは、徐々に母様の姿となり、硬質化していく。
「ふぅー……どうですか? 素晴らしいでしょう!」
「これは……城壁より高い聖女、フルルーチェ様の石像か? 確かに見事ではあるが……これがどうしたと――」
「穏やかな顔で目を閉じ、祈るように手を組んで……本物のお義母様みたいです! 素敵です!」
「は、はずかし……」
アステラはよくわかっている。
母様を見ると、顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
かわいい。
「さらに! この『聖女像降臨』は聖属性の性質も併せ持っています! つまり――」
事前に用意していた魔石を埋め込み、魔法陣を急いで刻む。
陣を刻むための媒体は像自体が担っているから、そのまま刻むだけ。
「ご覧の通り、『聖女の守り』と『聖なる癒し』を発動する魔道具になるのです!」
もちろん超巨大である必要はない。
だが目的が名声や偉大さの普及ならば目立つ方がいい。
「おお! それはすごい! つまりこれで他国や魔物から我が国が守られるということか!」
「そういうこと! そして……」
主の慈悲を道具にするのは間違っているかもしれない。
だけど、僕らを否定する奴らに優しくする理由もない。
主のご慈悲は平等であると同時に、いかすのは人自身ということ。
「僕や母様を支持してくれる国や地域に、この像を贈る、というのはどうでしょうか」
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