第112話 察する1歳児
会食が滞りなく進む。
その中でいくつかわかったことがある。
1つめは、意外とクゥは緊張する質らしく、ガチガチに固まっている。グラシェルノもだが。
2つめは、マリンは図太い。臆することなく、そしてタリアさんと気が合うのかずっと喋ってる。
3つめは、王様の不調が深刻なこと。
「……父上、食べないのですか?」
「ん? ああ……食欲がなくてな」
覇気もない。顔色も悪い。けがは完ぺきに治したはずなのだが……。
料理もほとんど口にしていない。
というかすごく老けたように見える。
「イクラウス様、改めてこの度のお礼を申し上げます」
やがて全員が食べ終わった頃を見計らい、王様が声を上げる。
「いえ、私こそ……貴国は『悪魔の子』の噂に惑わされず、教会とも戦い抜いてくださいました。筆舌に尽くせぬ思いです。主も、必ずや貴国に加護をもたらすでしょう」
恭しく頭を下げつつ周囲を見ると、王様もグラウゼルもグラリオンも、周囲の臣下の方も頭を下げていた。
タリアさんも下げてはいたが、目が合うとウィンクされた。
「……此度の戦、そのあらましをお聞かせしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
概ね知っている。
だが改めて言うことに意味があるのだろう。
僕は――何より母様は聖女なのだから。
「……全ては、私の不徳の致すところから始まりました。私が子どもたちへの……妻たちへの愛が足りなかった故に」
王が話し始めたのは、懺悔。
大国の王として威厳ある振る舞いを追い求めるあまり、子どもや奥さんたちにそっけない態度を取ってしまっていたこと。
それが原因で第2王妃に愛想を尽かされてしまったこと。
その隙を突かれて今回の戦争が起こったこと。
「いやはや、本当に面目ない次第でございます。第1の妻が亡くなり……その忘れ形見であるアステラにかまけていたこともまた事実」
「お父様……」
力なく笑う王様、かつての面影はない。
逆の意味で吹っ切れてしまったんだろうなぁ。
「もし……」
「ん?」
「もしも、奥様――第2王妃様にもう1度お会いできるとしたら、どうしますか?」
グラリオンが僕の発言を聞いてビクッと体を震わせる。
もしかすると、彼もミイラさんの正体に気が付いているのかもしれないな。
「……そうだな……もしも許されるなら……」
「…………」
「……ゆっくり、穏やかに過ごしたい。共に笑い、共に老い……子どもたちの成長を喜び、そして共に死ぬ。私はね、愛していたのですよ。アルネイアも……もちろんタリアや子どもたちも、みな同じくらいに」
王としての立場が、プライドが、それを表に出すことを許さなかったのだろう。
実に悲しいお話だ。
「主の慈悲は全てのものに与えられます。きっと、よき導きが待っていますよ」
「……ありがとうございます、イクラウス様」
後は本人たち次第だ。
彼にはまだタリアさんがいるし、きっと第2王妃様とのことも母様と主の導きがあるだろう。
「父上、そろそろ休まれては? お体に障るでしょう」
「……そうだな。ああ、そうしよう」
そのまま僕らも解散となった。
王様のあの表情、ともすればひょっとするかもしれない。
しかし僕らには関係のない話だ。
◇◇◇◇◇◇
そして僕らはそれぞれ部屋に案内され、今日はゆっくりさせてもらうことになったのだが。
とんでもない事実が発覚してしまう。
「なぜ! なぜ僕と母様が同じ部屋じゃないんだ!」
「きょ、今日はなんでも『母親の集い』をするとか言ってましたよ……!」
僕の部屋にいるのはグラシェルノ。
昨日今日であんなに頑張ったのに、また母様をお預けされるとは。
主は、やはりいないようだ。
「そ、それより……! 魔道具のこと話しませんか? イクラウス様が以前お話していた『獣人の本能を抑制する魔道具』なんですが――」
グラシェルノも相変わらずである。
きっとこの戦争中も研究室に籠っていたのだろう。
「何人かの方に頼んで実験を重ねて……実用可能と言える物ができました!」
「おお、さすがグラシェルノさん!」
「はい! これを量産することができれば獣人の方々と人間のよりよい関係が築けるハズです!」
獣人は成人になると番を求めて性的に暴走する可能性が非常に高い、と言われている。
これは教会すら認めている事実だ。
しかしその魔道具があれば、不本意な衝動を抑え込めるだろう。
「ただ魔力の補充は定期的に必要ですし、獣人にはできません。それと、どうしても手作業なので作るのに時間がかかってしまいます」
「その辺は偉い人に任せればいいよ」
「そうですね……早速明日にでも父上に相談してきます!」
「ああ……」
王様の状態に気が付いていないのかな。
いや、それこそがグラシェルノっぽい。
きっと間もなく長は変わるだろう。
「グラウゼルでいいんじゃないかな。王様も疲れているだろうし」
「そ、そうですね……」
グラウゼルならうまいことやってくれそうだし。
それよりも僕もグラシェルノに言いたいことがあるんだった。
「ところでさ、僕もとっておきの成果を持ってきたんだ!」
「おお!」
僕は自分が『高機能糸吐き機』になったことを伝えた。
死ぬほど出させられた。
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