第111話 ミイラと1歳児
夕暮れ時、ついに母様が王城へと辿り着いた。
ご無事だとわかっていても、その姿を視界に収めることができて感無量である。
「…………」
「あらあら、イクラちゃん? どうしたのしがみついたりして」
「言葉にならないのでしょう、愛しの母君に再会できて。30秒ごとに『母様』と言っていましたから」
「あら、あなたは……」
「ようこそおいでくださいました聖女様。私はこの国の第1王子、グラウゼルと申します」
「まあ、これは失礼しました~。私はフルルーチェ、この子の母です♪」
「存じております。此度は御子息であられるイクラウス様に我が国を救っていただけたこと、国を代表して――」
母様に背中をトントンされながら、ふと正面を見る。
呆れ顔のクゥの顔、そしてその横にいる人物が目に入る。
白い布で全身をグルグル巻きにされた人物。その足取りはただ者ではない何かを感じさせる。
あー、はいはい。
なるほどなるほど。
委細承知、母様はやはり世界一慈悲深い。
「グラウゼル――殿下。母様たちはここに来るまで大変疲れておられます故、できればゆっくりさせていただけるとありがたいのですが」
「これはこれは……配慮が足りず申し訳ございません。早速ですが、会食の準備ができておりますので――」
そこまで言って、ようやくグラウゼルも母様の背後にいる人物に気が付いたようである。
「……彼女たちは?」
「はい♪ こちらのとってもかわいい子がマリンちゃんで、こっちのすっごくかわいい子がクゥちゃんです♪」
「……そちらのお方は?」
顔どころか全身を白い布で巻かれた人物。
どこからどう見ても不審者であるが、母様のおかげか制止されずにここまで来たようだ。
しかし前も見えないほどグルグル巻きだ。どうやって歩いているのだろうか。
と思ったらクゥが手を引いてあげているようだ。
「……うふふ♪」
「え、ええっと……その。どなたでしょうか?」
「……えへへ♪」
「……あの……」
言い訳を全く考えていなかったらしい。
そんなところも母様らしいが。
ここは愛息子である僕が助け舟を出すとしよう。
「彼女はここに来る前、我々が保護した方です。とても大けがを負っていたのであのような姿ですが、何卒ご了承ください」
「……イクラウス様がそう言うのなら、詮索は致しません。では案内いたします」
ふぅ、ごまかせた。
だんだん僕が汚い大人になっていく気がするが、母様のためならば望むところである。
主も言っていた、嘘も方便であると。
グラウゼルを始め、王族の方々の後ろに続いて僕たちも食堂へと進む。
その途中でグラシェルノのお母さんに小声で話しかけられる。
「やっぱり、えっちだね」
「……何がですか?」
この人が何を言ってるか、何を考えているか本当にわからない。
こんなに気の抜けるような話し方なのに、兵や国民の前では早口で喋ってるし。
「あのひと、かこむんでしょ?」
「…………」
「わたしにも手、だしちゃう?」
「…………」
ふざけたこと言っているようだが、どうやらあのミイラさんの正体に気が付いているらしい。
こう見えて鋭いところがあるようだ。
そしてこういう人のあしらい方もなんとなくわかった気がする。
「……そういえば、まだお名前を聞いていませんでした。お伺いしても?」
「やっぱえっちじゃん」
「ダメですか? あなたに興味があるのです」
「え~? しょうがないなぁ~……タリア、だよ」
「タリアさん、どうかあのことは僕と2人だけの秘密に。できますね?」
「え~? ん~……いいよ」
よし。
「おいそこの。人の妻を口説くな。義理とはいえ俺の母親だぞ」
「ふぇ? なんのことぉ?」
気付かれていたか。
ロロップにも気付かれていたようで、すごい形相で睨まれている。タリアさんが。
「ちっ! ――しまった、聖女様の前で私はなんて口を――」
「うふふ、いいのよ♪ イクラちゃんのお友達だものね。私も畏まった口調は疲れちゃうから~、いつも通りにしましょ♪」
「ご寛大な心に感謝を。では――おいイクラウス! 父上もいるんだぞ!」
既に席に座っていた王様の姿が目に入った。
まずい、あの人にバレたら完全に殺される!
そもそもアステラにも――いや何より母様に――マリンにも――クゥは……いいや。
「聖女様、お久しゅうございます。よくぞお越しくださいました」
「その節はどうもお世話になりました~」
その王様が母様に挨拶をする。
よかった、タリアさんとのやり取りは聞こえてなかったらしい。
だが、何か違和感があるな。
「イクラウス様も、改めて感謝申し上げます。国だけでなく、私の命も救っていただいたとか」
「い、いえ……」
違和感がわかった。
あの王様が、母様だけでなく僕にまで敬語で話している。
顔にも覇気がない。病み上がりだからだろうか。
「さあ、お疲れでしょう。早速いただきましょうか」
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