第110話 見送る1歳児
勇者との決闘をした場所。
そこから少し離れた城壁の前。
僕とロロップはそこにいた。
目の前には、この国を守った英霊たちの姿が。
「聖子様……いえ、イクラウス様。おかげさまで我々は本懐を遂げることができました!」
代表して指揮官らしき人が報告してくれる。
最後まで見届けなかったが、オフィ-リアスの野営地は既に跡形もない。
夥しい数の敵の死体がそこかしこに落ちているだけだ。
生き残りの姿も今のところ見えない。
そう、終わったのだ。
彼らの使命は、仮初の命は。
「うん、よかった。そしてありがとう」
「こちらこそ、どう感謝申し上げればいいか……あなた様を信じ、散った甲斐があるというものです」
「ううん。本当に、僕の方こそだよ」
『悪魔の子』を匿う背神の国として襲われ、民を守るために散った彼ら。
ならばこそ、主も少しくらい大目に見てくれる。
最期の奇跡を。
「では我々はこれで……人に見られるわけにもいきますまい」
本懐を遂げた、そういう割には浮かない顔をして逝こうとする司令官さん。
国の英雄である彼らをこのまま御許に案内すれば、主に怒られるのは僕の方だ。
「まあ待ってよ。主は仰っています。頑張ったのだから、少しだけ大目に見る、と」
「はい?」
「どうぞ、付いてきてください」
城壁の入り口を通り、広場に入る。
そこには大勢の人が待っていた。
グラシェルノのお母さんが必死になって集めてくれていた兵士の家族、そして友人たち。
最期の別れをするため、それぞれの元へ向かう。
「あなた、お疲れ様」
「おお……お前……! よくぞ無事で……」
「あなたのおかげですよ……」
「……くぅ……!」
きっと奥さんだろう。
長年積み重ねた思いを伝えあうように抱き合っている。
「お兄ちゃん……」
「お前も無事だったか……よかった……本当に……」
「お兄ちゃんがいなくなったら私……」
「お前なら大丈夫だ。花嫁姿が見られないのが残念だが」
「……ばかぁ……」
兄妹だろう。
もしかしたら、たった2人だけの家族だったのかもしれない。
これからのことを応援するように抱きしめている。
「まさか、あんたが私より先に逝くとはねぇ……」
「すまない、母さん」
「あんたって子は……いいや、よく頑張ったね。バカ息子」
「母さん、あなたが産んだバカ息子は国の英雄になった。誇ってくれ!」
「バカ……そんなもんにならなくても私はね……」
「母さん……」
母と息子だろう。
最後にお互いの愛を伝えあうように、抱きしめあっている。
「……」
「……」
彼らの他にも、たくさんの家族や友人が別れを惜しみつつも最後の会話をしている。
しかし、そんな彼らをどこか気まずそうに見つめている兵士たちがいた。
「どうしたのですか?」
「ああ聖子様……いえ……」
「俺たちは元々孤児で……友と呼べるのもこいつらだけだったし……な」
そう言うことか。別れを告げる相手がいないんだ。
だというのに、彼らは最期まで国のために戦ったんだ。
なんと貴ぶべき方々だろうか。
「ではみなさんのお名前をこのイクラウスにお聞かせください。私が責任をもって主に、その偉業と共にお伝えしましょう。そうだ、グラウゼル殿下に頼んで記念碑を作るのもいいですね」
「イクラウス様……」
「あなたと共に在れたこと、生涯の誇りです」
僕もだよ。
イーサン。オリバー。ジェイコブ。ルーカス。ロウレン。クラウス。ダン。ハンダー。マルティネス。スコール。
君らの名は永遠に語り継がれるだろう。
母様、主よ。どうか彼らの次の生が幸福に満ち溢れものになりますように。
◇◇◇◇◇◇
すっかり日も昇り、気が付けば正午をとっくに回っていた。
傷ついた人を治したり、いい感じの主の言葉を話したり。
久しぶりの徹夜である。
しかし僕はまだ1歳。
もう限界だ。
「母様に! 会いに行く!!!」
「ぴょん?」
母様成分が足りない!
もういいだろう、よく頑張った。
「ふっ。お前は相変わらずだな」
「うるさいグラウゼル。お前なんかと話している場合ではない!」
「ちょっ!」
「さらばだ!」
ロロップの手を引き、いざ。
というところで『聖女念波』を感知した。
「――やはりここにいよう」
「は? どうしたんだお前」
「母様がもうすぐここに来られる。『聖女念波』でそう感じた」
「何だそれは? 会話ができるのか?」
できない。
ただただ、母様の何かしらを感じてるだけだ。
どことなくフワフワした何かしらの何か。いい匂いもする気がする。
これぞ愛のなせる業。
「ということで、もう少し復興作業を手伝おう」
「それはありがたいが……どれくらいで着くかわかるか? こんな状況だが、できる限りの歓迎をしたい」
「ん~……」
母様の歓迎に対して国の持てる力を最大限かけることは当然である。
だが、今は復興作業中で物品も人も限られている。
そもそも母様は『私よりも他の人にしてあげて~』というだろう。
「いいよ。温かいご飯とふかふかのベッドがあれば」
「そんなものは当然だろう。聖女様をお迎えするんだぞ? そうではなく――」
「この状況でそうされても母様は喜ばない。だから今言ったのだけでいい」
それすらも遠慮なさるかもしれないが、そこは僕が頑張ろう。
一緒にふかふかのベッドで寝たいと駄々をこねればいけるはずだ。
「……かたじけない」
「落ち着いたら盛大にもてなしてね。国の威信をかけて。贅の限りを尽くして。そうだ、例の記念碑の横に黄金でできた巨大母様像を設立しよう」
「…………」
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