第108話 決闘の立会をする1歳児
「ほ、ほええぇぇ~~~……」
「…………」
グランデシャイン外壁の前。
そこにいたのは、間抜けな顔をしている勇者だった。
涎も垂れ流し。焦点の合わない目。放り投げたように横たわる体。
何だか、もういいかな……。
よく考えたら僕自身は大したことをされたわけじゃない。
母様に近づこうとしたのは万死に値するが、それさえ対策すれば……。
「旦那様をイジメた恨み!」
「ぎゃふっ!?」
そう思っていたところにロロップによる踵落とし。
憐れ勇者のお腹は爆散した。
地面にも大きなクレーターができた。
「いやいや、さすがに――『聖なる癒し』」
「ぴょん!? ぴょん!」
「ごふっ!? や、やめれ……」
殺すのは忍びないと、回復させる。
しかしロロップは再び、その踵を振り下ろす。
「おいおいロロップ――」
「ぴょん? ぴょん!」
「やめ、んぎゃあ!? ほ、ほんろに……」
そして再び……。
「だめだめ! ロロップ! もう終わり!」
「ぴょん? こいつ、しぶといぴょん!」
「僕が回復させてるの! こいつはむかつくけど、殺すほどのことは――」
したか。
後9997回分殺してもいいんだった。
違う、そうじゃない。
「旦那様を傷つけたこと、何回殺しても気が済まないぴょん」
「ロロップ、その気持ちは嬉しい。けどね、主は言っている。汝、罪を許せ。さすれば汝自身も許される、と」
意味わからないけど。
聖典の最初の方に乗ってたから、本当に言ってた。はず。
「ぴょん! 旦那様が言うなら、わかったぴょん♡ 旦那様は優しいぴょん♡」
「そうだろうそうだろう」
言っていたのは主だが、まあいい。
しかしこいつをどうするかが問題だ。
さすがにこのままさようならという訳にもいかない。
めんどくさいから……精神を殺してしまおうかな。
そしたら誰も困らなくなる。うん、それがいい。
「イクラウス!」
「イクラウス様!」
ようやく答えが出たところに、グラウゼルとアステラが大勢の兵を率いてやってきた。
しかもグラリオンまでいる。
どうやらアンデッドが敗れた時のために兵の準備をしていたらしい。
「……そいつ、勇者だな?」
「うん。正直どうしようかと思ってたとこ」
そこでグラリオンが、思い切ったように口を開いた。
「……聖子様、どうか私に彼と戦わせていただけませんか?」
「グラリオン、さんが……?」
今の状態の勇者なら間違いなく勝てるだろう。
だが、そういうことじゃなさそうだ。
「いいんですか? 勇者はかなり――」
「はい」
「……わかりました」
強い目をしたグラリオン。
彼としても、疑念を晴らすチャンスなのだろう。
「では……」
そこではたと思いつく。
彼にも、勇者にも一見公平な戦いを。
「勝負は、どちらかが『まいった』と言うまで。それでよろしいですか?」
「はい」
「勇者も聞いていたな。お前が勝てば見逃す。王子殿下が勝てば、お前は死ぬ。それでいいな?」
「……わかった」
既に……というか1回目の死の時から『悪魔縛りし拘束具』の効果は切れていたから勇者も聞いていたはず。
僕には怯えた目を向けながらも、対するグラリオンには侮蔑の目で見下している。
相変わらずの自信家だ。
「では……始め!」
「たぁぁぁっ!」
「……ふんっ」
開始早々、グラリオンが突撃。
勇者は軽く攻撃を弾き、グラリオンの胸に剣を突き刺した。
「がはっ?」
「ふん、雑魚が……」
「『聖なる癒し』」
どう見ても致命傷、しかし即座に回復。
グラリオンはすぐに剣を構えた。
「貴様! 何をしている!」
「勝負は『まいった』と言うまで続きます。ご安心を、あなたも回復して差し上げます。痛みは感じるでしょうが」
そう、これは単純な強さの勝負ではない。
心の強さの勝負だ。
「……いいだろう。何度でも殺してやる! 『勇猛最高位極光強化』」
「『オーラ』! 行くぞ!」
勇者の強い光を纏ったオーラ、それに比べて弱々しい光のグラリオン。
誰が見ても、実力差ははっきりしている。
しかしグラリオンの目には全く恐れなどない。
「……グラリオンはな、光属性の適性はほとんどなかったんだ」
「グラウゼル?」
「だが、兵たちの見本となれるように時間をかけて習得したんだ。諦めるな、頑張れってさ」
彼の髪の色は紫。闇属性の特徴の1つ。
つまり、光属性とは真逆。習得はかなり大変だっただろうに。
「ぐはっ!?」
「弱い」
会話している間にも、戦いは続いている。
戦いというには、一方的だが。
「ごほぁっ!?」
「雑魚が」
何度も血を噴き出し。
「ぐっ!?」
「死ね」
何度も致命傷を負い。
「がふっ!?」
「何だこれは」
それでもグラリオンは諦めない。
「あがっ!?」
「新手の拷問か?」
何度も立ち上がるグラリオン。
「殿下……」
「団長……!」
周りを見ると、兵たちがみんな涙を流しながら見守っていた。
「はぁはぁ……まだまだ!」
「……ちぃっ!」
日が、昇り始めた。
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