第106話 聖死霊術と1歳児
時刻は深夜。
敵の夜襲に怯え、眠れない夜を過ごすグランデシャインの人々。
彼らのために戦い、彼らのために志半ばで散った兵士の無念や、いかに。
「主は言いました。『死んでも死にきれないなら、生き返れ』と」
「お前、それ本当に主が言ったのか?」
「邪魔しないで。さあ戦士たちよ、今こそ立ち上がるのです! 『聖死霊術』」
町の広場に集められた兵の亡骸。
家族のため、国のために戦い散った、誇り高き戦士たち。
彼らを、昏い昏い闇が。そして温かく眩しい光が包み込む。
やがて1人2人と立ち上がり始めた。
「こ、ここは……? 俺は確か敵兵に……」
「おのれオフィ-リアスめっ! ……あれ?」
「おい! お前死んだはずじゃ!?」
「お、お前だって俺を守るために! ど、どうなってんだ……? 」
次々と、戸惑いながら起き上がる戦士たちの遺体。
ほとんどの者が体が残っているため、実体がある。
ところどころ無い部位もあるが、その部分は半透明な肉体のようなもので覆われている。
「聖なる祝福を受けた、真なる不死の戦士たち。あなた方が望むなら、今一度戦いの場へ案内しましょう」
「何を……?」
「おい! 子どもは隠れてろ! 危ないぞ!」
事情が全く掴めていないアンデッドの皆さん。
当たり前か、さっきまで死んでいたんだもの。
きちんと説明しよう。酷だけども。
「えっと――」
「俺から説明しよう。みなの者、聞け!」
「はっ!」
確かに、僕が説明するよりグラウゼルが言った方がいいだろう。
先ほどまで戸惑うばかりだった兵士さんたちも一瞬で敬礼を取っている。
「貴様らは死んだ! 志、半ばにして!」
「…………」
少しの間。
口には出ていないが、さすがに動揺が広がっているようだ。
だが、自分や周りの同志たちを見て、それが事実だと悟っている。
「このままでは残された家族が! 大切な人々が! 国が! 憎きオフィ-リアスに蹂躙されてしまうだろう!」
「…………」
「しかし! ここにいる聖子、イクラウス様の手により! 無念を晴らす機会が授けられた!」
「聖子……? 『悪魔の子』だって聞いた……」
誰かがボソッと呟く。
「どうでもいい!」
「――っ!?」
「重要なのは! 何を成すかだ! このお方が用いたのは確かに邪法。しかし! そのおかげで! 貴様らは無念を晴らせるのだ!」
「――っ!!!」
「死して戦え! 罪なき我らに牙を剥く真の悪魔どもに思い知らせてやれ! 我らこそ正義だと! 自分たちこそが! 民を守る英霊であると!!!」
「応ッッ!!!」
全員だ。
そこにいた全員が進みだし、戦いに向かう。
100人以上の彼らが、誰1人欠けずに国や残った人のために再び戦うと決めた。
「母様、主よ。彼らにご加護を……」
「ああ……」
◇◇◇◇◇◇
それらは、突如現れた。
闇夜の中から、一糸乱れぬ統率をもって。
夜襲に備えつつも最後の休息をとっていたオフィ-リアスの野営地に。
不死の死した軍勢が。
そんな状況を、僕とロロップは近くの木の上からこっそり観戦中。
「ロロップ、寒くない?」
「大丈夫ぴょん♡ 旦那様と同じ格好で嬉しいぴょん♡」
僕の『悪魔纏いし黒衣』、ロロップのドレスにも同じ魔法を刻んでいる。
矢面に立たないと言った以上、バレる訳にはいかない。
だが不測の事態に対応したいし、それともう1つ目的もある。
「敵襲! グランデシャインから敵兵が――何だあれは……人?」
「武器も持たずに突っ走ってきている!」
オフィ-リアス側、最初に気が付いたのは見張りだった。
大声を上げ、眠っているであろう仲間に危険を知らせる。
「慌てるな! 訓練通りに対処しろ! それに……ククク、我らには魔道具があるだろう!」
「配置――よし! 距離確認――打て!」
アンデッド軍団がもう間もなく敵陣にたどり着く、そこに魔法による一斉砲火を浴びせられる。
1メートルくらいだろうか、火の玉がアンデッドと同じ数ほど降り注ぐ。
着弾と同時、何人ものアンデッドが無様に吹き飛ばされる。
「よし――あ?」
「敵……依然突っ込んできます! 勢いが止まらない!」
「接敵は免れんか……全員剣を構えろ!」
いかに便利な魔道具といえど、接近してしまえば怖くない。
至近距離で魔法を使えば、自分もただじゃすまないだろう。
さらに吹き飛ばされた者たちもすぐに立ち上がり、再び走り出す。
千切れ跳んだはずの体を再生させながら。
「ぴょん! さすがに怖いぴょん!」
「敵からしたら悪夢だろうねぇ」
体を吹き飛ばせば死ぬ。人間でもアンデッドでも同じ。
それが回復するというのだ。
そして、傷つく恐怖を使命で上書きした屈強かつ不屈の戦士たち。
「うおおおおおぉぉぉ!!!」
「貴様らに! 貴様らなどに我らが民を傷つけはさせん!!!」
「グランデシャインは俺たちが守る! 死んでも守り切るっ!!!」
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