第101話 再び駆ける1歳児
グランデシャイン王国とオフィ-リアス帝国の戦争。
その言葉を聞いたとき、心臓がドクンと跳ねた。
そして思わず口に出してしまう。
「グランデシャインが戦争!?」
「何だ坊主、知らないのか? まあ子どもだもんな」
僕の叫びを聞いた先ほどの客が、怪訝な顔をしながらも反応を返してくれる。
どうやらこの村の住人のようで、ラフな格好をしている。
少し早い晩酌をしていたようだ。
「戦争つっても、オフィ-リアス帝国が一方的に攻めてきたんだよ」
「そうそう。王様が倒れた混乱に乗じてな」
「王が……グランディ王が倒れた……!?」
頭の整理が付かない。
あんなに元気そうだった王が倒れた?
不調の兆しは微塵も感じられなかったハズなのに。
「俺ぁよう、暗殺されたんじゃねぇかって思ってるぜ」
「だな! しかも味方だと思ってたやつに!」
「ありえるありえる! 詩人の話でもよく聞くやつだ!」
「俺たちが話を作ってみるか!」
男たちはそのまま戦争を酒の肴に変え、好き勝手に話し始めた。
ここがまだ他国の領域だからか、あまり関係のないことだと考えているらしい。
これ以上は有益な話は聞けなさそうだと、その場を離れる。
「イクラちゃん? どうしたのぉ?」
「ぴょん……私には聞こえたぴょん。王国が戦争してるって」
「えっ!?」
どうやら耳のいいロロップには聞こえていたようだ。
その声を捕えたであろううさ耳も悲しそうに伏せられている。
「相手はオフィ-リアス帝国。教会と手を組んだ奴らだ」
「オフィ-リアス……」
確か糞勇者の奴がそう言っていた。
勇者と共に教会の味方となった帝国。
この大陸でグランデシャインと並ぶ大国の1つだと。
「ど、どうするの!? あそこにはイクラウス様の婚約者さんがいるんでしょ!?」
「…………」
助けに行く。
そう思っても口に出なかった。
ここにいるのは戦争に関わるべきではない子ども。そして母様。
戦争の理由もわからないままだ。
「……主は言いました。『汝、欲することをせよ。さすれば希望が与えられん』。イクラちゃん、あなたはどうしたい?」
「母様……」
当然、助けたいに決まっている。
あそこにはアステラだけでなくグラシェルノやグラウゼルと言った友達もいる。
何より王様が倒れているってことは、まだ治療すれば助かるかもしれない。
「行きましょう。いえ、行っておいで……私たちはゆ~っくり向かうことにするわ♪」
「しかし……」
母様の言葉が意味することは、僕とロロップだけで先に行くと言うこと。
だがここで母様やマリン、クゥと離れるのは不安でしかない。
「私たちなら大丈夫よ♪ ほら、あなたがくれたぬいぐるみもあるし♪」
「……ですが……」
「あ、そうだ♪」
尚も渋る僕に、母様がカバンから何かを取り出し、僕に手渡した。
これは……木彫りの僕?
30センチほどの木の僕が眠そうな顔をしてこちらを見ている。
「イクラちゃん、誕生日おめでとう♪ ちょっと過ぎちゃったけど、もう1歳になったんだよね♪」
「え?」
「私ね、小さいころから教会にいて、木彫りの女神像を作るお仕事してたの! 今は他に贈れるものがなくて……だからイクラちゃんの木彫り像を作ったのよ♪」
「母様……」
普段ポケーッとしてて器用さを全く感じられない母様からは考えられないほど、よくできた木彫り像。
もしかして、この5日間で作ってくれていたのだろうか。
嬉しくて体が爆発しそうになる。
「ありがとう、ございます! 一生大事にします!」
「うふふ♪ イクラちゃん、あなたはもう1歳。1人で何でもできるお年頃です!」
「そう、ですね……」
「だから……行っておいで。これ以上、私はあなたの足手まといにはなりたくないの」
違う……違うよ母様!
僕は足手まといとか負担だとかそんなこと全く思ってない!
母様がいるから僕は強くなれるんだ!
心からの叫び。
だけど、今の僕にそれを言うことはできるのだろうか。
「……わかりました。僕は行きます」
「うん♪ 頑張ってね! 私たちはゆっくり向かうから!」
「はい! それと……足手まといとか思ってないですから!」
「うふふ、知ってる♪」
母様には敵わない。
もしかしたら母様は本当にそう思っているかもしれない。
だから母様が負い目に感じないように、僕は行こう。
「ロロップ、頼めるかい?」
「ぴょん! その言葉を待ってたぴょん♡」
ロロップに抱えられ、いざアステラたちの元へ。
夕暮れの町を駆ける。
◇◇◇◇◇◇
「あのー聖女様? 普通1歳は何でもできるお年頃じゃないと思います……」
「ふふ、そうね♪」
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