第100話 盗み聞きする1歳児
その日はそのままこの村に泊まることになった僕たち。
なんと女将さんのご厚意で宿泊代がタダとなった。
厳密には、宿泊代が『お気持ち』ということらしいが。
ちなみに、部屋はみんなで一緒の部屋である。
「イクラウス様、ちょっといい……?」
「クゥ?」
ベッドでゴロゴロしていると、神妙な顔をしたクゥに声をかけられる。
どうやら明日は槍か雷が降るらしい。
「外でお話したいんだけど……」
「……わかった」
どうやら冗談を言っている場合ではなかったらしい。
彼女に連れられるまま宿の外へ、そして近くのベンチに座らされる。
そこで彼女が深刻そうに口を開いた。
「昨日、聞いちゃったんだ……聖女様のこと」
「…………」
「心臓、止まってるって……」
ああ、聞いてしまったのか。
どうやらクゥも眠れなかったらしい。
だから、母様のいないところに連れてきた、と。
「そうだな」
「そうだなって……お母様が心配じゃないの!?」
「心配ではある」
「じゃあどうして! そんなに……落ち着いてられんだよ……!」
クゥの奴、自分の心臓も止まってるってのに母様の心配をしてくれているのか。
本当に、思いやりのあるいい子だ。
「まず、母様自身が『しばらくは問題ない』と言ったから、まだ焦っていない」
「『しばらく』って……しばらくってどのくらいよ!」
「……そうだな、順を追って話そうか。まずは――」
母様から聞いた話、それをクゥにも伝える。
母様は、実はミレイに毒を飲まされた時に死んでしまったこと。
そこに主が介入し、肉体の状態を保持して死を防いでいたらしいこと。ある種の『時止め』らしい。
今回の騒動で主の『時止め』を無理やり脱したことで、体は動くが内部的には止まっているらしいこと。
ここまで聞いたクゥが、神妙な顔をして尋ねてきた。
「えと……つまり……?」
「クゥみたいなものだ。その原因が僕の完全無欠な“闇魔法”か“主の仕業”かの違いしかない」
「……そっか……」
複雑な表情。それもそうだろう。
自分と同じ状況でいいはずがないと言いたいのだろうが、それは自分を否定することにもなる。
「で、だ。僕は元からクゥを何としても蘇生しようと考えていた訳だ。そこに母様も加わるってだけのこと。何も変わらない」
「イクラウス様……」
「むしろ喜べ! 母様が加わったことで僕の中でその優先度が最高になった! クゥの蘇生も早まるってことだぞ!」
「…………」
しかしクゥは飽きれたような顔をしている。
なぜだ、クゥは助かりたいわけではないのだろうか。
「それってさぁ……元はあまり優先度高くなかったってこと……? ですよね!? そうですよねぇ!?」
「……そ、そんなことは……ないよ?」
「嘘だ! ひどい、クゥってばこんなにイクラウス様に尽くしてるのにぃ……!」
「ぐぬっ」
何も言えない。
しかし譲れないものは譲れないから仕方がないだろう。
とは口が裂けても言えない。
「まあ……でもいいです。私のことは」
「クゥ? そんなこと言うな、絶対にどうにかするから」
「いえ……だってこのまま治らないってことは……」
「クゥ……?」
「ずーーーっと! ずーっとイクラウス様のこと脅かし放題たかり放題ってことですもんね☆ 嬉しいな! 天下のイクラウス様がずーっと何でも叶えてくれるー!」
「…………」
僕の純情を弄ぶ少女、クゥ。
主よ、どうかこの者に拳骨とご慈悲をお与えください。
「ん、ずっと一緒だな」
「……へへ!」
彼女のいたずらっ子のような笑みを見続けるのも悪くはない。
そしてどちらともなく、宿屋へと戻る道すがら。
「そういえば……アンデッドって子ども作れるんですかね?」
「……その頃までに蘇生させるよ」
「やっだー! イクラウス様のえっち! へんた~い☆」
「…………」
◇◇◇◇◇◇
それから5日後。
僕らはグランデシャイン王国の国境手前最寄りの町へとたどり着いた。
予定より少しかかってしまったが、『悪魔の子』出張聖癒が思った以上に好評だったためだ。
「今日はどうするぴょん? お金は結構貯まってるぴょん♡」
「やるよ。助けが必要な人はいるだろうからね」
「さすがイクラちゃん♪ いいこいいこ~♪」
「お姉さんも、頑張る……!」
ここまでの町でも、最初同様に治療師への不満が少なからずあった。
独占しているから不満も向かいやすいのはわかるが、1番の問題は治療が高額だということ。
料金体系に文句を言うつもりはないが、おかげで『悪魔の子』の評判も上々である。
「とりあえず宿を取ってからにしよう」
「ぴょん……今日のところは問題なく泊まれるといいな」
「前の町はひどかったよねー! 女将さんもちりょーしてもらってたのにさっ!」
しょんぼりしているロロップの頭を撫でる。
町によっては獣人差別により宿に泊めてもらえないことがあった。
そんな時は、主の奇跡が起こる。決して闇魔法は使っていない。
急に店主が許可してくれるのだ。もう1度言うが、闇魔法はちょっとしか使っていない。
「それじゃあ母様、ロロップ、受付お願いします」
「任せてぇ~!」
「ぴょん!」
母様とロロップに行って貰う。なぜなら、2人とも見た目は大人だからだ。
子どもの僕らに受付はできない。
そんな歯痒い思いをしていると、宿の飲食スペースにいる客の話し声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? グランデシャインの戦争の話」
「ああ、オフィ-リアスとのだろ……結構ヤバそうだぜ」
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