第99話 稼ぐ1歳児
一夜明け、改めて歩き始める。目的地はグランデシャイン。
大体徒歩で5日もあれば着くだろう。
さしあたっての問題は、金である。
「お金がないので稼ぐ」
「ぴょん? どうするぴょん?」
「何、簡単なことだ。今までしてきたことをするんだよ」
「ぴょん?」
この体さえあれば、金は稼げる。
本当に母様には感謝だな。
◇◇◇◇◇◇
「寄ってらっしゃい見てらっしゃーい! 今話題の『悪魔の子』! イクラウスがあなたの病気やけがを治しちゃいますよぉー!」
「どんな怪我でも治しちゃうぴょん! すり傷でも骨折でも大丈夫ぴょん!」
逆境即ち好機である。主も言ってる。
『悪魔の子』という名の衝撃や異質性で興味を引き、ゲリラを聖癒行ってお金を稼ごうという目論見だ。
「『悪魔の子』ってあんたかい?」
「え~? こんなかわいい子が?」
ほら、食いついたぞ。
悪魔の子という宣伝の割に、ここには女子どもしかいないからな。
ゴレイヌを置いてきて正解だった。
「はい! 僕が『悪魔の子』イクラウスです! どんなけがや病気でも治しちゃう、悪い子です!」
「やぁん! かわいいんですけどぉ!」
「持って帰りたーい!」
良き。
これぞ僕の短い人生経験で培った処世術の賜物である。
問題はいつロロップが爆発するかわからないところだ。
「でも金は必要なんだろう?」
うら若きお姉さん方ではない、酸いも甘いも吸い尽くしたお姉さんが怖い顔で凄んできた。
「ええ、申し訳ないのですが~……お気持ちだけで結構ですので♪」
「ふん、どいつもこいつも人の足元見おって。どうせ金貨だろう?」
甘い、甘すぎるよおばあちゃん。酸いも甘いも吸い尽くしたから甘すぎるのかしら。
その甘さ、僕の偉大にして慈悲深き説明係の母様が打ち砕いて見せよう。
「いえ、お気持ちだけです~。私たち、旅をしなきゃいけないのでお金は必要なんです。ですが、それは皆様も一緒。なので、お気持ち――お任せで~す♪」
「お任せ……?」
「はい♪」
「なら、銅貨1枚もでいいんだね。これで腰痛を治しておくれよ」
「はぁい♪ お客様1名ごあんな~い♪」
来たね。
いい感じのお客さんだ。しかも僕の得意な腰痛の治療だ。
「おばあちゃん、凝ってますね~」
「あん? まあ……ずっと農作業で腰曲げてっからね」
「ではでは、この『悪魔の子』が治してしまいましょう! 『聖女の癒し』!」
「ほわっ!? 温かっ――きもちえぇゃぁあああ~~~……」
どろどろになったおばあちゃん。
神殿での“聖癒”とは異なり本格的な治療ではないが、それでも聖魔法の治療は効果大だ。
「どうですか?」
「……悪くない。いや、悪かったよさっきはあんな言い方して。どうも治療師にはいい思いがなくってね」
「ふふ。良くなってよかったです! また来てね、おばあちゃん!」
「ああ、ありがとね」
態度の悪い人ほど、反転した時の効果が大きい。
おばあちゃんの反応を見た人がたくさん並び始めてくれた。
そしておばあちゃん、最後の罠にかかるがよい。
「金はどこに入れればいいんだい?」
「この袋に、お願いします……!」
「何だい、嬢ちゃんみたいな子が……銀貨1枚にしてやろ」
「ふわぁ~! ありがとう、ございます……!」
「……仕方ないね、もう1枚だ」
「ふわぁ!」
あんないたいけな子が一生懸命働いているんだ。
誰も彼もが財布のひもを緩めるだろう。
これぞ『悪魔の子』の戦略よ。
◇◇◇◇◇◇
その後しばらくの間、『悪魔の子』による出張聖癒は続けられた。
そこそこお金も貯まったようだし、そろそろお目当ての人に来てもらいたいのだが。
「おいあんたら! ここで何している!」
来た、と内心ほくそ笑む。
出張聖癒の場に来たのは、聖イルミナス教会の紋章が付いた服を着ている男だった。
十中八九この村で働いている治療師だろう。
事前の打ち合わせ通り、対応するのは僕だ。
「どなたですか?」
「私はこの町で治療院を営んでいる者だ! 勝手にこんなことされては困る!」
「こんなこと、とは?」
「人の治療だ! 回復魔法は神聖な、神の慈悲! 無秩序に与えられるものではない! イルミナス教会管轄の元に管理されているんだ!」
かつてゲオルディクスからもそう聞いた気がする。
そういう建前で教会が管理してお金を稼いで――慈悲を適切に施しているのだと。
「おかしいですね。主は仰られている。『慈悲は全ての者に等しく与えられるものだ』と」
「その通り! 故に適切な体制を徹底することで確実に必要な方に治療行き渡らせるのです!」
そうそう、そんな感じで言っていたな。
ゲオルディクス、元気かな。
今は考えないようにしよう。
「詭弁ですね」
「何?」
「現に今こうして求めている人がいる。それが治療が行き渡っていない証拠です」
「ぐぬっ!」
この程度で『ぐぬっ』とは。
普段から物事を考えずに言われたことだけしてきた証拠だ。
言い訳は常に考えて生きるべきだ。
「お前……待てよ? まさか『悪魔の子』か!?」
「はい」
「かっかっかっ! まさかこんなとこで……みなさん! 騙されないでください! この子は教会を追放された『悪魔の子』! 何をされるかわかったもんじゃない!」
論点を変え、僕の正体をみんなに告げることで引き離そうとしているらしい。
しかしその言葉こそ待っていたのだ。
そして先ほど治療したお姉さんが神官に向かって口を開く。
「知ってるわよ」
「は?」
「最初から自分でそう言っていたもの」
「へ?」
「『悪魔の子』っていっても……ちゃんと治療してくれるし、なによりかわいいし!」
「何を……」
他のみんなも口々に『そうだな』『かわいいよね』などの言葉を言ってくれる。
そして最初のおばあちゃんが現れ、神官に向かって言った。
「だいたいあんたんとこは高いんだよ。痛いから治して貰いには行かなきゃならんが、大して良くならないくせに金貨2枚も取る。あんたの方がよっぽど悪魔さね!」
「何を……!」
これが決定的だったようで、治療師はそそくさと逃げ出してしまった。
これぞ完全勝利!
「みなさん、お待たせしてすみません! 治療の続きをしましょう!」
こうして僕らは、お金と『悪魔の子』の名声を稼ぐのであった。
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