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次男が成人するのを待って、更に共に酒を酌み交わせるようになってから、深緋篤志はその生涯の幕を下ろした。次男の大学卒業まであと二年ほどを残していたが、遺された家族の生活に不安が残ることはなかった。
母もまだ働ける年であったし、後進の指導に力を入れて亡くなる直前まで病院に詰めていたのだからその遺産は推して知るべし、と言うところだろう。
彼の悪しき技術は遺らないようにと遺言があり、そのすべては廃棄された。それの指揮を取ったのは四代目理事長と言われたその人だった。
遺骨のほとんどは彼の実家の近くに散骨され、一部は常磐会の菩提寺の共同墓地に埋葬された。
葬儀が終わり、喪主を務めた彼女がその夜、ベランダに出て空を眺めた。デッキチェアに座って別れた彼の思い出に浸っていたら、長男がココアを差し入れてくれた。いつからかコーヒー好きはすっかり鳴りを潜めてしまった。
もう一つの椅子に伴侶そっくりの長男が座り、思い出話をしていた中で「俺さ」と話題を切り替えた。
「親父とお袋が警察に連れて行かれた時のこと、なんとなく覚えてたんだよね」
初耳の話に、彼女は目を瞠った。長男はあの時三歳か四歳で、帰ってから数か月は赤ちゃん返りをしていたが、それ以降何も言及がなかったのでもう覚えていないものだと思っていた。
「俺が医者になりたいって言った時、親父に改めて教えてもらった。なんであんなことしたのかって」
長男が空を見上げた。探した視線の先はもう沙良も分かる。最期を待つ星だ。
「人の中に、アレを見たかったんだって。見てはいけないものを見たいと望んで、望んで叶えてしまったって」
医者としての初歩の初歩を、父は踏み外した。それを償うために、二度とメスは取らなかった。
逆に、四代目理事長は、理事長の座は降りたものの外部理事会のコンサルタントとしてその経営手腕を常磐会のためにと遺憾なく発揮している。
当初の反発は大きかったものの、彼はじわじわと外堀を埋め、最終的に実力でその席をもぎ取った。
常磐会のバックボーンを支えてはいるもののその方針に口を出すことはなく、見合ったコンサル料のみを受け取って、最近は老いた母と共に穏やかな生活を送っているそうだ。
弟妹との蟠りも解け、彼らが帰省する機会も増えたと聞く。
総てが終わって、二十年が過ぎようとしていた。




