K
シルバーのSUVが駐車場に入ってきて、空いたスペースに滑り込んだ。
運転席からステップを使わずに降りた小柄な男性は、黒いボディバックを肩に掛けながら助手席側に回り込み、ドアを開けて中にいた女性が下りるのを手助けした。
鍵を掛けて、手をポケットに入れたまま歩き出した男の腕に女性が腕を絡ませる。
「植物園っていうのがお前らしいよな」
「ガラスの美術館でも良かったけど」
「あんま性に合わねぇからなぁ」
花曇りの空の下を、二人は並んで、ゆっくりと歩いた。小柄だが姿勢のいい男性の肩に、女性が頭をこすりつける。
「なんだよ」
「初めてのデート、嬉しいな、と思って」
三十も過ぎて何を、と低い声は言ったが、その耳が赤くなっているのを見て彼女はそのデリカシーのない言葉を許してやることにした。
「帰り、寄っていってくれるんでしょ?」
「あ?」
「お母さんが張り切ってたよ。夕飯作るって」
「マジか」
天を仰いだ男はなんの覚悟をしたのか。ため息とともに顔が前を向く。眉間には皺が寄っているようだ。
「オレ、合わせる顔ねぇんだけど」
「自業自得。諦めて針の筵に座ってなさい」
男がポケットから手を出して、彼女の手と指を絡ませた。それを、また上着のポケットに戻す。それに機嫌をよくした女性は、にこやかにその腕に抱き着いた。
髪を短く切った彼は、少年の時の頃をわずかに思い出させた。鼻孔をくすぐるのは慣れた彼の香りだ。遠く回り道をしたが、ようやく共に歩める。
春の優しい風が、その艶髪を撫でていった




