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見覚えのない風景に、ソファで眠ってしまっていたことを知った。柔らかいそれのおかげで身体に痛みなどはなく、梢は身を起こして軽く伸びをした。日が傾き始めて、週末が終わろうとしている。
また自分のワンルームに戻って、明日からは仕事が始まる。
週末だけの逢瀬は梢が通うことになって、おそらくもう目を覚まさないんだろうなと心のどこかで感じ始めていた。
病人の好きなものを飾れるようにと広く取られた空間は、今は色とりどりにラッピングされたプレゼントに埋め尽くされていた。
養護施設長補助・元総務課の笹原諒こと、金山瑠璃が退職すると知った職場の人たちが、それぞれ「彼に」と渡してくれたものだ。もう枯れてしまったが、花束は大小さまざま。国産から外国製のものまで取り揃えられたお茶の詰め合わせも多数。甘さ控えめのお菓子とのセットもあった。腕時計やベルト、名刺入れ、変わったところで髪留めやピアスなども。
その山を見て、慕われていたのだと知った。
「笹原さんの彼女さんですか?」
退職関係の処理に何度か通った総務課で、梢よりは年上の女性たちに声を掛けられた。総務課で一緒だった同僚と後輩だというその二人は、梢を休憩スペースに誘ってお茶を淹れてくれた。
「ずっと不思議だったんです。誰かと付き合ってる気配はないのに、誰に告白されても付き合おうとしなかったので」
「一部で変な噂が流れるくらい」
事情も知らずにはしゃいじゃって、と、懐かしそうに笑う二人とお茶を飲みながら、過去の彼を聞いた。
「ずっと敷地内の地図とにらめっこしてたよね。防犯性と利便性の両立とか、非常時の導線確保とか」
「退職する直前じゃありませんでしたっけ?ふらっと来て、整地の話していったのって。下草の処理をしないと秋から冬に掛けては山火事の危険があるとかなんとかって」
「あったねぇ」
「飲んでたのが烏龍茶だったから後任の人びくびくしてましたもんね」
クスクスと笑う意味が分からなくて首を傾げていたら、同僚のほうが「あぁ」と気付いてくれた。
「機嫌のいい時は何でも飲んでましたけど、あの人、機嫌が悪い時って烏龍茶一択なんですよ。悪くなればなるほど濃くなっていくんで総務課のバロメーターになってました」
「コーヒーは飲まなかったんですか?」
答えは二人とも、見たことがない、だった。
それからまた、今度は人を代え、中身を変え、話を聞いた。熱かったお茶は冷え、梢が一度トイレに離席してもその人たちは彼の話をしたがった。
最終的にほとんどの人が車座になって話に花を咲かせた。辞退したのに見送られて、彼らに見られないように涙を流した。




