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【第9王子vs.実験部編】目には目を、歯には歯を、第9王子にも爆発を!

 第9王子との集合場所は、研究施設のプール場だった。

 薄暗い廃墟と化した空間には、かつての活気の名残だけが漂っている。もし取り壊しが決まらなければ、今頃俺は研究施設でフラスコを手に持ち、実験に没頭していたのかもしれない。


(それに、ここで研究活動ができていたのなら、もっと違う未来があったのかもしれない……)


 そう思うと少し寂しい気持ちになるが、たまたま理事長に出会い、このザダ校内の予備調理室を実験研究室兼部室として自由に使えるようになったのだから――こんな幸運、他にないだろう。

 実際に部室で「女神様!」と魔法を唱えると、柔らかな光が部屋全体に広がり、次々と器具や設備がその場に現れていった。広々とした室内が、まるで新たな生命を吹き込まれたかのように変わっていく様子に、思わず息を飲んだ。まるで「ここで夢を追え」と誰かに背中を押されているかのような感覚だった。しかも、部員は5人揃った。


 だが、俺にはまだ叶えたい夢がある――それは、研究所を設立すること。この目標のためにも、今回の対戦は何としても負けるわけにはいかない。


 俺は学校指定の学ランを部室に置いてきた。その代わり、白衣を(まと)い、オオバコさんが入学祝いで用意してくれた保護メガネを装着する。


 一呼吸してから……久しぶりに校内の研究施設へ入ると、なんと鍵が開いていた。姑息な第9王子のことだから、無理やり手配して鍵を開けたのだろう。

 

 そして、プール場に到着すると、なぜかプールに水が溜まっていた。

 どこから水源を引いたのか確認しようとしたところ、どうやら第9王子が魔法で水を貯めていたようだ。


 俺は「よぉ、第9王子様」と話しかける。もちろん、煽りを込めて。

 すると、彼の顔色が一変し、怒りに満ちた声で突然叫び出した。


「目障りなんだよ! ()()ケイを勝手に部活動へ参加させたり、お友達で囲ったりしてよぉ〜!」


(俺のケイ? もしかして、この第9王子、彼女のことが好きなのか?)


「つまり、ケイのことが好きってわけか?」

「ウゼェ! ケイが他の人と話してるのを見るのが嫌なんだ! アイツは人間で女性だ。元々、身分が低い。第9王子である俺のもとで監視されとけばいいんだよ!」


(うわぁ……引くわ。自分より立場が弱い人を権力で抑え込もうっていう魂胆か? こいつ、最低だな)


 俺は感想をそのまま口にした。


「ケイのこと……何も考えてないんだな。それ、世間では()()って言うんだけど」


 きっと、彼にとって()()だったのだろう。彼の顔は怒りで真っ赤になり、血管が浮き出ている。

 そして、よく見ると――背中から悪魔のような羽が生えていた。


(初めて見た……ここって本当に異世界なのか! 一応、確認してみるか?)


「その羽って、本物? それともコスプレ?」


 前世では、ハロウィンで悪魔のコスプレをしている人をよく見かけた。この世界でも似たような文化があるのだろうか?


「知らねぇのか! 悪魔は喜怒哀楽が極まった瞬間、背中に羽が出るんだよ! ……お前と話すのは嫌いだ! 死ねぇええええ!」


 彼は叫ぶと同時に魔法を放ったのだろう――プールの水面から大量の魚が現れる。どの魚も鋭い牙を持ち、刺されれば致命傷は免れないような危険な状況に陥ってしまった。その魚たちが一斉に俺の方へ向かって突進してくる。怒涛の勢いに、全身が硬直する。


(やばい……! 戦闘向けの魔法なんて、俺は何も覚えていない。完全に詰んだわ……これ)


 俺はあの時以来の覚悟を決めた――あぁ、痛いんだろうな。死ぬかもしれない。


 アンズやサラたちと、もっと遊んでおけばよかったなぁ……。


 そんな後悔を胸に抱えながら、俺は目を閉じた。そうだ、前もって予告と感謝の挨拶をしておこう。

 


 ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜 第二部完!


 

 ご愛読ありがとうございました。また異世界転生したアダム・クローナルを応援してください――。




(ん? ? ?)


 

 

 ……締めの挨拶を呟いたのに、なぜだろう。

 異世界転生した時と違って、今回はまったく痛みを感じない。


 恐る恐る目を開けてみたら……あっさりと開いてしまった。


(ん……!? あれ、俺、生きてる?)


 驚いたことに、俺は生きていた。しかも、信じられないことに――無傷だった。


 気づけば、いつの間にか俺の体に――バリアが貼られていたようだ。

 

 魚たちは気絶していて、泡を吐きながら、どこかへ消えていく。

 一方、俺は何もなかったかのように、その場で普通に立っていた。


(どういうことだ……?)


 俺が混乱していると、対戦相手も「はぁ? 俺の攻撃が無意味だったってこと……?!」と、弱々しい声で本音を漏らしながら、とんでもなく間抜けな顔をしている。


 だが、奴は諦めが悪い。もう一度攻撃を仕掛けてきたが――その瞬間、またしても俺の体に突然バリアが発動した。しかも、今度は攻撃を見事に跳ね返してしまった。


(えっ……? もしかして俺、攻撃を無効化できる能力を持ってたのか?)


 そんなことを考えている間に、第9王子の仕掛けた技が時間差で彼自身に跳ね返っていた――俗に言う『カウンター』だ。

 彼は自分の魔法で召喚した魚の牙に刺されたようで、激しく出血している。


(万が一、肉弾戦になったら「サーセン!」って言って逃げるつもりだったけど……)


 幸いなことに、俺の能力はまたしてもチート級だった。これも女神様が授けてくれた奇跡なのかもしれない。


 

 さて、俺の方から仕掛けるか!


 何をするかって?――俺が初めてこの世界に来て行った実験は『爆発』だった。

 

 そして、初めてこの学校でやろうとしている実験も――もちろん『()()』だ!


 事前に用意していた空の瓶を取り出し、天を仰ぎながら高らかに唱えた。


「女神様! 水と共に踊る、例の金属――『No.11』を!」


 声に出した瞬間、瓶の中から金属が現れた。

 封を開け、その金属をたっぷり水の入った実験施設用プールの中に落とすと――大爆発が起きた。


 ヤツは「グハァアアアア!」と発狂し、さらにダメージを負っている。

 自分の攻撃で傷つき、追い打ちを受けるとは、全てお前が蒔いた種――まさに()()()()というやつだ。


「俺の大切な女の子たちを怖がらせたお前を、俺だけでなく女神様も絶対に許さないだろうよ――」


 そんなヒーローのようなセリフを吐きつつ、俺はヤツから追加攻撃をされても困るため、猛ダッシュでその場から逃げて、アンズたちのところへ急いで向かうのであった。

<余談>

第9王子のフルネームはメタノ・ジェラル。

「嫉妬」→ジェラシー→ジェラル。

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