【第9王子vs.実験部編】白馬の王子様は女の子 ※アンズ視点
【※注意】主人公ではなく、アンズちゃん視点です。
今日の午後、保健室で健康診断があるはずだったのに、なぜか、私とケイちゃん、そしてBクラスの女の子の3人で男子更衣室に閉じ込められていた。
「私のせいなんです……! この黒髪、今の国王様に似ているから、勘違いされてしまったのかも。まさか、第一王女だと思われて、監禁されるなんて……。しかも、自作の同人誌を落としちゃった……もう、死ねる……」
Bクラスの女の子が後悔の言葉を呟きながら、肩をピクピク震わせて、号泣している。
パーカーを着た彼女は、真面目な性分なのか、恐怖を感じながらも、肩身離さずに教科書を握りしめていた。
「大丈夫だよ! 泣かないで。でも、どうしようかな?」
依然として、絶望的な状況だった。
外鍵が掛かっているせいか、更衣室のドアを開けることもできず、外へ出られそうにもない。
どこかに鍵が落ちてないかと探してみたところ、ロッカー近くの椅子にて、不気味な悪魔の人形が横向きに転がっていた。
「ちょっと! この人形、顔色が緑なの? 体調が悪そうね〜?」
ケイちゃんが正直に思ったことを言いながら、人形を持ち上げたところで――。
「逆らうナ、人間!」
突然、男性の低い声が響いた。
「しゃ、喋ったわねっ?!」
ケイちゃんが大急ぎで手元から離したのに。
その人形はロッカーに跳ね返った直後、ケイちゃんの背後に移動し、あろうことか、ケイちゃんのスカートを捲り始めた。
「王女なのに、幼稚なクマちゃんのイラストが描かれたパンツを履いているナ!」
ベラベラと喋り出す人形――もしかしたら、裏で誰かが操作しているのかもしれない。
かといって、許可なく、ケイちゃんのパンツを覗き見するなんて……信じられない!
「こいつ! この変態野郎!」
無論、ケイちゃんは怒声を上げて、殴り掛かる。
しかし、その一撃はあっさり躱されてしまった!
むしろ、人形の姿がだんだんと大きくなっていく。
(あれ? 下手したら、アダムより大きいんじゃない?!)
――ガシャーン!
巨大化した人形に足を掴まれたケイちゃんは、体勢を崩してしまい、そのままロッカーの方へ吹き飛ばされてしまった。
「ケイちゃん、大丈夫っ!?」
「えぇ。やっつけるから任せなさいっ!」
うつ伏せに倒れた状態でも、諦めずに行動を起こそうとしたケイちゃんだが、何かに勘づいてしまったらしい。
「最悪だわっ! 今日の授業で3回も唱えてしまったから、魔法自体が使えないわっ! アンズ、何かできないかしら?!」
「ケイちゃん! 杖を教室に置いてきちゃったから、私も魔法が使えないっ! どーしよう!」
私にとって、人生で二度目の誘拐。
一度目はアダムが助けてくれたけれど、今回はいない。
それだけでも、とっても心細いのに、杖がないから、そもそも魔法が使えない。
(うわぁー! マズイよー! ! !)
私とケイちゃんが焦っている一方で、Bクラスの女の子は恥ずかしそうに手を上げながら、人形に懇願した。
「ごめんなさい。どうしても、我慢できなくて……。トイレに行かせてください!」
「排泄したいんだナ! 許可する!」
すぐに魔法を施したのか、カチャッとドアの鍵が開いた。
(トイレに行くのはオッケーなの?!)
意外と、この人形……、融通が利くのかもしれない。
私とケイちゃんもトイレに行ってそのまま抜け出せないかなと、淡い期待を抱いたものの、すぐに打ち砕かれてしまった。
「条件がある! 一人で行ってこい! 残った二人はお前が戻ってくるまで、更衣室で監禁しているからナ!」
「わ、わかりましたっ……!」
Bクラスの女の子は大急ぎで消え去ってしまった。
そして、五分経過して――彼女はちゃんと戻ってきた。
だけど、さっきとは打って変わって、パーカーのフードを深く被り、顔を隠していた。
案の定、人形が問い詰める。
「なぜフードを被っている?! 何か企んでいるのか!」
「ぼ、あっ、私、泣きすぎて……ひどい顔をしているから……」
「アッハッハ! おねしょの後は泣くなんて、赤子のようだナ!」
蚊の鳴くような声で答えたBクラスの女の子に対し、すぐさま、人形は嗤笑する。
(はぁ……この環境、地獄だよ! ケイちゃんはどうかな?)
視線をケイちゃんの方へ向けたが、彼女は心身ともにダメージを受けているせいか、すぐ動けそうにない。
「おいおい、どこを見ている?」
目を離した一瞬の隙に、何故か、私の目の前に人形が立っていた。
「キャァアアア――!」
突然の出来事に驚いた私は、金切り声を上げたまま、しゃがみ込む。
「おぉっ。この娘、なかなか綺麗だナ! 接吻してもいいかもしれないナ?」
(き、気持ち悪い……! 距離が近すぎるし、勝てる気がしないっ……)
喉が裂けてもいい。
私は声を張り上げて、助けを求めた。
「助けて! 助けてっ――! 私たちを助けてください――! ! !」
「ウルサイ! どいつもこいつも生意気だナ! 絶対に接吻してやる!」
怒り狂った人形が押し倒すように、私に飛びかかり、私の顔を両手で包み込む。
(最悪! ファーストキスは好きな男の子としたかったのに!)
力が強く抵抗も出来ない私は覚悟を決めて、目を閉じ、キスを受け入れることにした。
(本当は……アダムとしたかった……)
シャキ――ン!
「ギエエエエエ!」
更衣室内で、風を切る音と同時に、悲鳴が響き渡る。
(えっ? 何……?)
気になって、私は目を開ける。
「あれ?!」
なんと、目の前にいた人形の顔が真っ二つに斬られていて、見る影もない姿に。
直後、パーカーを被っていたBクラスの女の子が迷うことなく、人形の背後から剣術技を繰り出していく。
終いには、彼女は自身の剣で男子更衣室の窓ガラスを割った。
「急いでっ! とにかく、この窓から逃げてっ!」と叫びながら。
「そうね! アンズ、逃げるわよ!」
立ち上がったケイちゃんが、私に救いの手を差し伸べる。
「うん! 一緒に逃げよう!」
「させるカァ――!」
さっきからタチが悪い!
「全員許さナ〜イ!」と捨て台詞を吐きながら、人形は尖った爪で、私の顔を斬ろうとしていた。
「いやぁ……!」
またしても、私は覚悟を決めることに。
ッシュ――……!
だけど、痛みを全く感じない。
でも、この斬れた音って……。
「あぁっ! 大丈夫?」
「う、うん……」
なんてこと……!
私の代わりに、Bクラスの女の子が斬られてしまった。
彼女が斬られた箇所は胸あたり。
血は出ていないけれど、パーカーが破けていて、胸の谷間が見えている。
なのに、彼女は怯む事無く、猛然と立ち向かう。
私だけでなく、ケイちゃんも、彼女の圧倒的な強さと気迫に息を呑む。
人形から強烈な一撃を受けたのにも関わらず、彼女は人形の攻撃を避けながら、何度も剣で斬り返していく。
斬り返しのスピードが速すぎて、何が起きているのか目視ではわからない。
けれど、とうとう決着がついた。
彼女の矢継ぎ早の攻撃で、忌々しい人形が、跡形もなく、粉々に砕け散った。
「やったねっ!」
「――みんな無事か?!」
私が嬉しくて声を出したタイミングで、待ちに待っていた人物が現れた。
「アダム……!」
アダムの顔を見た途端、私は涙が溢れてしまった。
アダムのところへ、すぐに行きたい!
けれど、足がすくんで、一歩も動けない……。
「うぅっ……ごめんね。後で追いかけるからぁ……えっ?」
「アンズ、俺が運ぶから、気にしなくていい」
なんと、アダムが私をおんぶしてくれた。
(アダムの背中、温かいや……って、嘘?!)
私はさっきと違うドキドキを味わっていた。
私がいつも尊敬している――カッコよくて、天才で、大好きなアダムが、私のことをおんぶしている。
「アダム、重たいかも」
「ううん、そんなことない」
「ちゃんと来てくれてありがと……」
「あぁ、遅くなってごめん」
(やだ……お気遣いまで?! 紳士的なところも好き……!)
私は甘酸っぱい思いを心に描きながら、アダム、ケイちゃんとBクラスの女の子の4人で、部室へ向かった。
* * *
部室に着いた私たち実験部。
そして、Bクラスの女の子。
彼女は、さっきの剣術で体力を消耗したのか、「はぁ……はぁ……」と息切れしている。
ケイちゃんも、私と同じように、彼女のことが気になっていた様子。
「さっきは怖かったわね? でも、安心して。ここはアタシたちの部室よ。お顔を見せ――えぇっ!」
彼女のフードを強引に外したケイちゃんが奇声を上げる。
「ど、どういうこと……?!」
私も彼女の顔を見て、ありのままの感想を伝える。
なぜなら、目の前にいるのは、同じ部員で男子生徒のサラ。
男の子のサラが、女子生徒の服を、堂々と着こなして……って、大変……!
(む、胸があるってことは、サラは女の子なの?!)
「あなた、女の子だったのね?! 胸の谷間がしっかりあるじゃない!」
私が聞く前に、すでにケイちゃんが代弁してくれた。
「あっ……うぅ……お願い……誰にも言わないで……!」
ずっと張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れてしまったのか、サラは顔を隠して、涙を流す。
(そっか、何か事情があるんだよね?)
私は何も聞かず、サラの隣に行き、彼女の背中をさする。
「サラ、ごめんなさい! 泣かせるつもりはなかったわ!」
「ぁっ……ぼく……」
「本当にごめんなさい!」
「っ……」
ケイちゃんが謝っても、サラは泣き止まない。
私も何て言えばいいのか、言葉が見つからない。
「今回は完全にケイが悪い。確認もせずに、パーカーのフードを外したのだから……」
「違うわ! アダム、あんたが悪いわよ? あんた、全く怪我していないじゃない?! サラは勇敢に戦った! アタシはサラの味方よ!」
「それはそれ。普通、『外していい?』って、聞くけどな」
「はぁ?!」
「うぅっ……」
あらら、大変!
アダムとケイちゃんは口喧嘩をしているし、サラは泣き続けている。
だからこそ、私は私ができることをしよう!
「ねぇ! みんな無事だったんだし、結果オーライじゃないっ?!」
シーン――……。
全員が、ポカーンとした顔で、私を見つめていた。
(あー! 静かになっちゃった……?!)
だけど、ケイちゃんが「あっはっは! ウケる! アンズのそういうところ、アタシは好きよ。貴女の言う通りだわ〜」とお腹を抱えていた。
サラも「アンズちゃんの言う通りだね……」と自身の指で涙を拭い始める。
「よく頑張ったよ、俺たち。アンズ、ありがとう」
最後に、アダムが私の方を向いて、微笑んでいた。
(アダムって笑えるんだ……!)
今日は誰もが辛い思いをしたけれど、それでも、お互いに助け合って、なんとか乗り越えることができた。
私たちはサラの秘密を共有した。
(どんな秘密を抱えていても、私はサラの味方だからね……?)




