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【第9王子vs.実験部編】特別科を掲げて一般科にケンカを売る

<※注意>研究取扱者のメンバーが主人公にスキンシップを取る場面があります(一部、同性・異性間の描写を含みます)


<※用語説明>

議事録:

会議で話し合った内容や決まったことを記録したもの。

起案:

「こんなアイデアを進めたいです!」と提案や書類を作成すること。

決裁:

その提案や書類を上司や責任者が「これで進めてOK!」と承認すること。

 せっかくの休日だというのに、今日は会議で潰れる。

 だが、研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃの会議という以上、参加しないわけにはいかない。

 

(正直なところ、貴重な休日に行く気などさらさらないタイプ……)

 

 それでも、第5王子であり、研究取扱者でもあるシアンさんから第2王子のダンさんが作成した議事録(ぎじろく)を受け取らなければならず、やむなく向かうことにした。


 会議が始まるまでの間、俺はコーヒーを飲みながら、会議室でひとり静かに過ごしていた。そんな静けさを破るように、扉が開き、姿を現したのは第5王子のシアンさんだった。


(めずら)しい〜。俺だけでなく、シアンさんも結構(けっこー)時間にルーズなタイプなんだけど……)


「アダムちゃん、おひさ〜! 元気やった? 君、ほんまおもろいな。『第9王子を(あお)り返すぐらい、雄弁だった』って、ダンから聞いたで〜」

「あっ、シアンさん。お久しぶりです。まぁ、元気というか……ぼちぼちですけど……」


 今日のシアンさんはタバコを吸っておらず、俺と同様にコーヒーを飲んでいた。


「そうや! ダンと言えば、例の()()!」


 そう言って、シアンさんは俺に紙媒体で議事録(ぎじろく)を渡してくれた。よく見ると、起案(きあん)したのはダンさんだけど、決裁(けっさい)したのはシアンさんらしい。ふと思ったことがあり、彼に聞いてみる。


「シアンさんが決裁者(けっさいしゃ)なんですね、もしかして王子の中で最年長なんですか?」

「さすが、アダムちゃん。賢いね〜、(キミ)。ご明答や……せっかくやし、読んでみてごらん」


 俺は早速、その議事録に目を通す。ダンさんのまとめ方は分かりやすくていいのだが……肝心の会議は第1〜3王女の生存について、各々意見を言ってるだけ……。第1王女は行方不明で有名、第2王女は出産予定だが時期未定、第3王女は病弱。第4王女のケイは……順位が4位で、参加権がないこともあり、何も記載されていなかった。


(じゃあ、今の王族子女会議で参加できるメンバーは実質、男しかいない状況なのか……)

 

 しかし、その会議内容で唯一有意義(ゆういぎ)な情報は参加権のないケイが立案(りつあん)した――ザダ校研究施設の再開発におけるメリットとデメリットについてまとめた資料だけだった。


(こんな意味のない会議を月に1回もやるなんて、この国の王子たちは何を考えているんだ……)


 顔に呆れた表情が出ていたかもしれないが、俺は我慢できず、そのまま正直な感想をつい第5王子に漏らしてしまった。

 

「この会議って……各々の思想しか述べてないですよね。ケイの考えた案件以外、何も生産性ないじゃないですか……」

「おもろい感想言うねぇ〜。まぁ、俺もいつもそう思いながら、会議に参加しよるけど? アダムちゃんのそういう正直なところ、嫌いじゃない。むしろ、好きやな……」


 ふと、彼の声が近いと感じる。気づけば、シアンさんは俺の隣に座っていた。

 それに、なぜかシアンさんの脚がじわじわと俺の脚に近づいてきている――気のせいじゃない。これって、確実に意図的だろ……?


 その異様な距離感に、思わず背筋がゾッとした。

 

「ちょっと、シアンさん! 身体近寄りすぎです。俺はシアンさんの恋人になったつもりはありません」

「ええやん、かわいい子にはた……「アダムー!」ファッ?!」


 突然、オオバコさんがやってきて、後ろから俺に抱きついた。その瞬間、俺の頭はふわっとしたオオバコさんの柔らかさに包まれ、まるで壁に挟まれたように動けなくなる。


 だが、俺は心の中でこう呟いた。


(やったぜ! お兄さんより、お姉さんの方がいいに決まっている!)

 

 なお、オオバコさんは抱きつく前、シアンさんの頭にペチッと手を置き、「ちょっとどいて〜!」と言いたげな仕草を見せていた。そして、俺とシアンさんの間を引き離すように、彼女は椅子を後ろにスッと動かしてくれた。

 なんて天才的(ロッテの⚫︎坂)だと感じさせられる守備力の広さだろう……ありがとう、オオバコさん。ファインプレイだ。

 

 そんなオオバコさんはジトッとした目でシアンさんを睨みつけ、低めの声で警告する。

 

「ちょっと~! アダムは私の相棒なんだから、セクハラやめてよ!」

「そうなん?」

 

 シアンさんは肩をすくめるような仕草を見せた後、興味なさそうにコーヒーをすすった。その様子に釣られて、俺も喉の渇きを覚え、自分のコーヒーに手を伸ばす。


 すると、オオバコさんはふと何かを思いついたようで……俺たちを見比べて、口を開いた。


「シアンってば、本当は女の子が大好きなのに〜! ()()()のアダムに興味を持つなんて、どういう風の吹き回し?」

「 「ゴホッ! 」 」

 

 思わず、俺とシアンさんは飲んでいたコーヒーを吹き出す。

 

 俺はこの状況になんて答えたら良いかわからないが、シアンさんは「それは違う!」と言って、フォローをする。

 

「アダムちゃんがかわいいのは事実よ。えっと、息子みたいなもんや! 研究取扱者組で最年少だし……」

「それはそう! 10歳の頃、可愛かったよね〜。いや〜、大きくなっちゃって〜! あっ、今も可愛いよ!」

「もちろん。当たり前や!」


 ……二人とも朝からテンションが高すぎる。忘年会のノリで盛り上がっていると言っても過言じゃない。そのやり取りを横目で見ながら、俺は心の中でため息をついた。朝からこれでは、さすがに疲れる……。

 

「もう、アダム! 変な大人には気をつけてね!」


 そう言いながら、彼女は何かを手渡してきた。見た目は万年筆だ。


「えっ、これ……万年筆?」

「そう見えるでしょ? 実はね、これ、盗聴器なんだ! 万が一のときに使ってね!」


 思わず手のひらのそれを見つめて固まる。


(万年筆型の盗聴器なんて、どこで手に入れたんだよ……)


 盗聴器とは思わず、「えぇ……ストーカーですか?」とゲンナリした顔で聞き返す。そんな俺の顔を見て、オオバコさんは「あっはっはー!」と大爆笑した後、真顔になって、俺にアドバイスしてくれた。

 

「違うよ――最近、第9王子が荒れてるらしいから。数字1個違いでしょ? 危ないよ……保険()けとかないと」

「俺もそれは同意見やな、()()()の存在に他の特別科の生徒さんたちも悩ませられてるみたいやから」


(意外だ。人に興味がない変わり者として知られる第5王子ですら、気に掛けるなんて……)

 

「ふーん、んじゃお言葉に甘えて、いただきます」


 オオバコさんから万年筆を受け取り、そのまま研究取扱者同士の会議に参加した。例の王族子女会議よりも有意義な時間を過ごせたと思う。


 会議が終わると、オオバコさんが近づいてきて「盗聴器を落としてもどこにあるか分かるようにアプリを入れておくね」と言いながら、俺のスマホを手に取った。そして、俺が抵抗する間もなく、彼女は手際よく設定を終えてしまった。


 だが、不思議なことに、研究者というのはこういう直感には妙に鋭いのかもしれない――彼女たちの忠告は、驚くほど的中することになる。


 

 研究取扱者の会議から10日ほど経った頃、健康診断の案内が届いた。

 案内には、『王位戦(おういせん)に参加する場合、健康診断書は必要な書類になります』と明記されていたため、俺は当然受けることにした。


 その日の終礼で、担任の先生が元気よくこう告げる。


「明日の午前中は男子の健康診断、特待生は昼休み、午後は女子の健康診断です! 今日も一日お疲れ様〜」


 終礼が終わり、放課後――部室へ向かう途中、ふと忘れ物に気付いた。仕方なく、自分のクラスの教室に引き返そうとした時、中からこんな物騒な声が聞こえてきた。


「明日、健康診断楽しみだねぇ。一般科の女子生徒のみんなぁ〜」


(楽しみ? 健康診断が?)


 その言葉に漂う妙な雰囲気が、どうしても気になった――耳を澄ませると、例の第9王子の声が聞こえてきた。

 彼と話す気は全くなく、足を止めたものの、教室に入る気にはなれなかった。


(というか……どうしてコイツが一般科の教室にいるんだ? 特別科で居場所がないのか……まあ、ドンマイって感じだけど)


 俺はそう心の中で皮肉を呟きながらも、嫌な予感が消えない。

 

 第9王子は姑息で、何か問題を起こしても反省しないタイプだ。特別科でも一匹狼だと噂されているし、何を企んでいるのか想像もつかない。


(……また妙なことを考えてるんだろうな)


 俺は軽く溜息をついたが、この時点では気に留める程度だった。

 

 まさか、翌日女子生徒3人が突然行方不明になるなんて――その時はまだ思いもしなかった。

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