【幼少期編】魔法は口ほどにものを言う〜実験開始〜
鍵付きの部屋に閉じ込められた俺とアンズ。
アンズは連れ去られた後、号泣したせいか、疲れて眠っている。
このまま寝かせとこうかと思ったが、「2時間後にまた来るからな!」と誘拐犯のおじさんに脅されたんだった。
本来ならば大人が助けてくれると信じて待つのが一番なんだろうけど、自力で逃げられるんだったら、ここから早く抜け出して、また図書館に戻りたいんだよなぁ。
(とりあえず、探ってみるか……)
運のいいことに監視カメラは設置されてない。
早速、部屋の中で、脱出に使えそうな道具を探してみることに。
周りを見渡すと、壁側にポツン……とロッカーがあった。
中を開けてみると、箒にブラシと王道な掃除道具が入っていて、視線を落とすと、洗剤入りの容器と複数の空き缶のストックが置かれていた。
(良いこと考えた。この洗剤と空き缶の組み合わせ――爆発させて、鍵を壊すことができるかも?)
だが、残念なことに洗剤だけでなく缶にも、何の成分なのか記載されていなかった。
(アルミとか何の成分なのか表示がないとはなぁ……。法律違反じゃない? そっか、まあ、ここは異世界だから関係ないかー)
要するに『郷に入れば郷に従え』ならぬ、『異世界に入れば異世界に従え』である。
俺は焦ることなく、冷静に、最善を尽くせないか、考え抜くことにした。
「アダム……」
後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。
振り向くと、目を覚ましたアンズがトコトコと歩きながら、俺の隣にやってきた。
目をこすりながら、彼女は俺に問いかける。
「ここ、怖いね。どうしよう?」
「アンズ、落ち着いて。逃げられるように、使えそうな材料を見つけて……、今は方法を考えているところなんだ」
怖がっているアンズを宥めつつ、この部屋から逃げるための最善策をひねり出してみる。
(缶の種類だけでも分かれば、御の字なんだけどなぁ……)
「アダム、教えてほしいの!」
アンズは俺の言葉に引っかかった単語があったのか、すぐに質問をした。
「方法って、まほう、でもいいの?」
(ん? なんだって……)
俺自身、使ったことのない単語だ。
思わず聞き返す。
「MAHO?」
「うん。ま・ほ・う! アンズ、いま杖を持ってるよ。イジワルなおじさんが、アンズの杖をオモチャだと間違えて、ポケットに戻してくれたの。この杖があるから、簡単な魔法ならできるし、お父さんが教えてくれたんだよ。アンズが知ってるもので、アンズより軽いものなら、ここに出せるって!」
驚いた。
アンズは笑顔で、魔法ができると断言した。
しかも、「自分より軽い物なら、魔法で取り出せる」としっかり教えてくれた。
魔法自体現実で見たことがないから、信憑性が低いというのが正直な感想だ。
それでも、本人ができると言うのなら試してみる価値はある! と判断した俺はアンズに出してほしいアイテムを知っているか聞いてみることにした。
「そうか。じゃあ、アンズは磁石……いや、マグネットって分かるか?」
「わかるよ! おもちゃで遊んだことある。出してみるね?」
アンズはポケットから杖を出して唱えた。
「マグネット・プロジェクト!」
即座にアンズは杖を下向きに振る。
すると、ポトン……と、突如、床に磁石が現れた。
(すごい……。人生で初めて、生の魔法を見たな。この世界は魔法が使えるんだ)
「アダム、できたよ!」
「アンズ、グッジョブだ」
アンズは怖い環境にも関わらず、俺のことを信頼してくれた上に、ちゃんとやってのけた。
俺はアンズの仕事っぷりに感心しながら、魔法で出してくれた磁石を持つ。
「早速、この缶に磁石がくっ付くか試してみるな」
缶に磁石を当ててみたが、くっ付かなかった。
「そんなぁ……!」とアンズは泣きそうな顔をする。
一方、俺は前向きに捉えていた。
「大きな一歩だよ。アンズのおかげで、缶の特定ができた」
後は……、洗剤が酸性・中性・アルカリ性のどれかなんだよなぁ。
さすがに、アンズはリトマス試験紙を知らないだろうし。
それか、いっそのこと洗剤の成分を確認せず、爆発する可能性が高いと信じて、このまま缶に入れてみるか?
ちょっと待てよ……思い出した!
女神様から「魔法を唱える時は私の名前か『女神様』と言ってくださいね」と助言をもらっていた。
「アンズ、聞いてもいいか。『魔法』っていうのは、杖を使わないとできないのか?」
「ううん! 杖じゃなくてもいいんだよ。アダムもやりたい? そのメガネ、できそう!」
杖じゃなくても、自分の持ち物であれば良いのか?
理屈はよくわからんが、アンズは裏表なく、ニコニコと答えてくれたから、嘘はついていなさそうだ。
(試してみるか)
俺は決めた。
魔法でリトマス試験紙を出す!
前世での経験も踏まえて、とにかく、こういう実技はやってみるに越したことはない。
早速、自分のメガネを使って、魔法を試すことにした。
メガネの両端をつまんで、頭の中でリトマス試験紙を思い浮かべる。
「女神様、リトマス試験紙を!」
声に出して唱えたところ、メガネのレンズがピカっと光ったと同時に、天井に小さなリトマス試験紙がポンッと姿を現した。
そのまま降下して、俺の手のひらにストンと落ちた。
「できた……!」
「やったね、アダム!」
(成功だ!)
リトマス試験紙を見て、魔法が思い通りにできたことに満足する。
アンズも喜んでくれている。
すぐに洗剤の容器を開けて、リトマス試験紙を入れる。
赤色と青色の2枚を入れると、赤色のリトマス試験紙だけが反応して、青色に変化した。
ちょうどいい塩梅だ。
イメージ通りにできれば実験がうまくいくかもしれない、と自信を持ち始めた俺はアンズにこれからの流れを話した。
「この缶と洗剤の組み合わせなら、化学反応で爆発できる……」
「爆発って……なんか怖いよ。大丈夫?」
「大丈夫。爆発する場所から一番離れたところにいれば、俺らに被害はない。まずは、この洗剤を缶の中に入れて、缶の蓋を閉じる。それを扉の近くに置く。時間が経てば爆発して、ドアノブの部分だけでも壊せれば、ここから逃げられる」
「難しすぎてよくわからないよ? でもがんばる! アンズはアダムと一緒がいい! じゃあ、これ入れる?」
「そうしよう。って、危ないから、俺が入れる」
しまった。
大学教員だった時の自分自身に戻った勢いで、難しい説明をしてしまったが、アンズは全く怒らなかった。
むしろ、怖いと言いながらも、どこか強心臓なアンズは、最後まで積極的に手伝ってくれた。
彼女の頑張りもあってか、二人で手分けして、作業を終わらせた。
(よし。あのおじさんが戻ってきたタイミングで爆発するよう、洗剤の量もきっちり調整できた、完璧だ)
入念に準備を終えたものの、アンズは心配げに、俺に再度問いかける。
「ねぇ。アンズたち、本当にここから出られるの?」
「あぁ。アンズが教えてくれた魔法と俺のアイデアで成功できると思うよ」
「わかった! アンズ、がんばるね!」
この時の俺は「できると思う」と言ってしまったが、「できる」と明言すればよかった。
でも、この実験は異世界転生してから、最初に行った実験だから……保証はできなかった。
ちょっとした後悔を覚えつつも、俺は「研究者として活動できている!」とワクワクが勝っていて、例の誘拐犯おじさんが来るまで様子を伺うことにした。
(アンズを泣かせた罪、償わせてやる!)




