【幼少期編】目には目を、歯には歯を、誘拐犯には爆発を
体感的に、2時間経過しただろうか。
そろそろ見張りに来るかもしれない。
おじさんが来る前に、最後の確認がてら、缶の様子を見てみることに。
(おっ、いいんじゃない?)
缶が変形していた。
このメカニズムは、缶とその中に入っている洗剤の化学反応によって、ガスが発生しているからである。
理論上では、10分後には爆発するであろう。
確認を終え、アンズと二人で、鍵のかかった扉から一番離れたところへ待機した直後、廊下から足音が聞こえ始めた。
例のクソおじさんが見張りにやってきたようだ。
案の定、鉄格子の扉の奥から、俺たちに話しかけてきた。
「二人とも、大人しくて、えらいなぁ。お嬢ちゃんに関しては、この後、詳細に検査するからな、ひゃぁ……」
「えっ、なんで? いやだ!」
気持ち悪いことを言いながら笑っているおじさんを前にして、アンズは拒絶の反応を示す。
「テメェ! 言うことを聞けよ! 検査で王族の娘だと判明すれば、俺だけでなく、お嬢ちゃんも良い生活ができるぞ!」
すぐにキレ散らかしたおじさんだが、誘拐なんて発想を行動に移してしまう時点で、短絡的に違いない。
それにしても、『検査』と高尚に称してるけど、悪趣味な計画を実行しようと思っているんだろうな。
ってか、そもそも、なんで王族の娘だと決めつけているんだ?
例のおじさんは怒りで自身の爪をガリガリ噛んでいて、扉の近くに缶が置いてあることに全く気づいていない。
千載一遇のチャンスである。
爆発するまでまだ時間がありそうだから、『頼む、このまま缶の存在に気づくなよ……』と祈りつつ、俺から質問してみることにした。
愛嬌よさそうな、高い声を出しながら。
「おじさん、質問っ! 王族の娘さんを見つけると幸せになれるの?」
「こんのクソガキ野郎! 知らないのかよ? 国王の娘が行方不明でよぉ、発見すれば、多額の報酬金がもらえる制度になってるんだぜ。お金さえあれば、働かずに一生暮らせていける! ガッハッハッハ!」
コイツの将来については1mmも興味はないが、国王の娘さん――第一王女の行方がわからないなんて……。
まぁ、男女比が1000:1と女性が稀少すぎる上に、こんな誘拐とか物騒な事件が起きている世の中で生き抜くのは厳しいだろう。
すでに亡くなっているかもしれない。
(かわいそうに。ん……? 缶が爆発しないな……)
まだまだ会話を引き伸ばすか。
「おじさん! なんでさ、この女の子が王族だと思ったの?! 検査をするって言ったよね?」
我ながら煽る聞き方をしてしまったが、頭が弱いおじさんは「またインタビューかよ、ふざけるな!」と扉を蹴りながらも、ベラベラと話し出す。
「この後地獄を見るだろうし、わかりやすく教えてやるっ! 国王の娘にせよ、人間ではない王族の場合、体のどこかにアザがあるらしい! つまり! 体をくまなく見れば、王女様だと判明できるってわけだ! 俺はわかってたんだよ。図書館とか、お金持ちが好んで行きそうな場所に行けば、身分が高い女の子を連れ去ることができるって!」
……人間以外の王族にアザがあるという情報は初めて知ったから良しとしよう。
その上、腑に落ちた。
俺の場合は人間だから、アザがないんだ。
だが、おじさんの言ってる内容が吐瀉物レベルに不快すぎて、俺は絶句した。
「おじさん! アンズは人間だから、アザなんてないよ! お母さんのところに帰らせて!」
流石に、アンズも嫌気がさしたのか、俺たちの会話に入って、願望を伝えた。
「安心しろよ。別に王族じゃなくてもよぉ、女の子なら高値で売れるんだぜ。今まで何人ここに来させたことか……。検査が楽しみだなぁ、お嬢ちゃん♪」
(は? アンズが抵抗してるのに……楽しみだと?)
コイツは常習誘拐犯で、女の子の売買取引をしている最低ロリコン性犯罪者野郎だ。
私利私欲のために?
本当に無理。
「クソ野郎確定だなぁ……」
「ぁっ?!」
(ゲッ! しまった――! 生理的に無理すぎて、声に出してしまった……っ!)
やばい……と思って口を手で隠したかったが、もう遅い。
「なんだと。このクソガキ――! 男のガキはコ・ロ・スッ!」
おじさんの怒号に、恐怖のあまり、ビクッと震えるアンズ。
その勢いのまま、怒りが収まらないおじさんは中に入ろうと乱暴に鍵を入れて扉を開けようとしたが、その扉のドアノブに触れた瞬間――。
ボォオオオオオオオン! ! !
缶が破裂した。
強大な衝撃音に伴って、爆発した物がおじさんの体に付着する。
「キエエエエ――!」
おじさんは悲鳴を上げながら、床にバタンッ! と倒れ込んだ。
(はぁ、危機一髪だなぁ。でも……)
この実験は大成功だ!
爆発でドアノブどころか扉そのものが壊れていた。
今のうちに逃げなければと思っていたが、アンズが呆然としていて、すぐ動けそうにない。
だからと言って、置いてけぼりにはしないさ。
こういう時は……声を掛けるしかないんだ。
「アンズ! よく頑張った、あともうちょっとだ! 一緒に逃げて、お母さんのところに戻ろう!」
俺の方から、震えているアンズの冷たい手を握って、立たせる。
アンズは俺の顔を見て、緊張が解けたのか、「うん!」と明るい声を出して、俺の手を思いっきり握り返した。
一方で、おじさんは横に倒れたまま、まだ立てそうにない。
――絶対に逃げ出してみせる。
お互いに手を繋いだまま、建物の出口に向かって、一直線に走って逃げる。
(すげぇ! 異世界でも実験ができた!)
焦る状況だけど、研究者としては、実験がうまくいった達成感で、ニヤニヤが止まらなかった。
このまま、なんとか出口の方に脱出できた俺とアンズ。
ビルの外へ出ると、目の前で待機していたのは、アンズのお母さんと図書館長のおじさん、そして銃を構えた大勢の警備員。
「うっ……!」
夕焼けの日差しが眩しいと思ったところで、アンズのお母さんが涙を浮かべながら、俺たちを抱きしめた。
「アンズ! 知らない人について行ったら、ダメって言ったでしょう! 本当に無事でよかった……」
「ごめんなさい、お母さん……えぇっん……!」
アンズはずっと我慢していたが、とっくに限界だったらしい。
人目も憚らず、大声で泣いた。
アンズのお母さんだって、愛娘が生きて戻ってこれるのか、心配だっただろう。
それにも関わらず、律儀に、俺にも声をかけてくれた。
「アダム様……ご無事で良かった。アンズを追いかけたと聞きました。娘のことを助けてくれて、本当にありがとう」
「どういたしまして」
優しさに甘えたい気持ちもあったけれど、今はあの犯罪者を捕まえてもらわないと。
「犯人はまだ中にいます! 早く捕まえてください!」
警備員の方を向いて、俺はあえて叫んだ。
すると、彼らは「行けーっ!」と掛け声をかけながら、一斉にビルの中へ潜入していった。
(はぁ……。ああいう歪んだ性格の大人とは、二度と出くわしたくないものだな……)
ぶっちゃけると、この後、図書館に戻って本の続きを読みたかったけど、事件が起きてしまったからと、図書館長の指示で閉館にしたそうだ。
実際、俺たちは緊張状態が続く環境で長時間閉じ込められたことにより、疲労が溜まっていた。
すぐに別れて、お互い、自宅へ帰ることにした。
「ただいま……」
家に着き、自室に戻った俺は今日中に実践したいと思い、アンズから習得した魔法を次々と唱えていった。
研究者の時に使用していた実験器具も取り揃えることができ、前世で契約した女神様のサポートは完全にプラスに働いた。
(いやぁ、お金を払わずに実験器具を集めることができるなんて最高だぜ!)
これからは実験だけでなく、再び研究できることに対しても、喜びを噛み締めていた。
(アンズ。今日は色々と教えてくれてありがとな……)
【後日談】
アンズ「いやぁ……爆発ってすごいね! あの時は怖かったけど、アンズ初めてみたよ〜」
アダム「読者の皆さん、絶対に真似しないでください。現実で爆発を起こしたら、部屋が吹っ飛ぶし、隣人に嫌われます……」
アンズ「え?! アダム何回かやったことあるの?」
アダム「……。アンズにはまだ早いから、また今度教える」
アンズ「気になるー! ちゃんと教えてね!」
アダム「はいよ」(前世の時に、研究室でやらかした事があるとは言えないしな……)
※物語の中で描かれた爆発実験は、あくまでフィクションとしてのスリルと興奮を楽しんでいただくためのものです。現実の世界で爆発や危険な実験を行うことは、非常に危険であり、専門的な知識と安全な設備が必要です。主人公たちが無事に終えられたのは、物語だからこその奇跡です。決して真似をしないよう、どうかご理解くださいませ。




