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【研究取扱者試験編】焼肉強食

 無事に帰宅した。

 オウレン先生と別れて、今は自宅で俺一人。時間は午後5時を回ったところだ。ニボルさんとサラも一度家に戻ったらしいが、買い物をしに出かけたようで不在だった。


 午後6時ごろから、ニボルさん家で焼肉パーティーを開くとオウレン先生が教えてくれたため、一時間ほど仮眠を取ることにした。


 そして、目が覚めた俺は人間でも食べられるキノコをニボルさん家へ持って行くことにし、発表で使った毒キノコたちは実験室のテーブルの上で放置することにした。


 俺はこのベニデングダケが特に好きだ。なんて毒々しい見た目をしているんだろう。


(あっ! うっとりしている場合じゃなかった……早くニボルさんたちにも報告しないとな)


 家の鍵を閉めて、ニボルさん家に向かった。

 

 玄関に入ったと同時に、パンッと大きい音が鳴る。ニボルさんとサラがクラッカーで俺を祝ってくれた。


「アダムくん〜! よく頑張ったね。おめでとう!」

「ニボルさん、ありがとうございます」

「アダムさん、お疲れ様! 一緒に受かってよかった! おめでとう〜」

「サラもよく頑張った、おめでとう」


 俺とサラは、二人でハイタッチをした。その様子を見て、ニボルさんは拍手をする。

 

「二人共受かるなんて……素晴らし過ぎるよ! たっぷり食べてね!」


 笑顔のニボルさんとサラは、俺をリビングに案内してくれた。

 目の前には、たくさんのお肉が……。オウレン先生はすでにビールを注いでいた。すぐに呑みたいのだろう。俺とサラにはジュースを注いでくれた。


「兄さん、これからお疲れ様会しましょう?」

「そうだね! カンパーイ!」


 食べる前に、みんなで乾杯をする。


(あれ……。こうやって、打ち上げに参加したの転生前ぶりかもしれない。いつもは打ち上げって愚痴会みたいな感じだから苦手意識があったけど、ニボルさんたちと過ごすのは楽しいな〜)


 一人で浮かれながらも、様子を見届ける。ニボルさんは調理師免許の資格を持っていることもあり、本格的な焼肉がスタートした。網の上にお肉を乗せ始める。


「ニボルさん、このお肉は?」

「塩タンだよ〜」

「へぇ、やっぱり塩タンからですよね!」


 ニボルさんは焼肉の雰囲気を楽しみながら、肉をじっくりと焼いている。

 オウレン先生は皿を用意して、タレやレモンの準備をしている。

 サラは大根おろしとワサビを用意していた。「ぼくはワサビが好きなんだよね。あと、味噌ダレが好き!」とみんなに情報をシェアしている。サラは俺やニボルさんと違って、異世界転生していないはずだが、和風な調味料を好んでいるらしい。


 しばらくして、ニボルさんが大声で俺たちに合図をした。


「できたから食べよー!」


 ニボルさんが焼いてくれた塩タンをオウレン先生はニボルさんのと異なるトングを使って、俺たちの皿へ取り分けてくれた。違うトングだからじーっと見ていたら、先生が俺に理由を教えてくれた。


「あのキノコ事件以来ね、食中毒は怖いなぁと思ったわけ。それで使い分けてるの。安心して食べてね」


 オウレン先生は、生肉に菌が付着しているリスクも踏まえて、その菌を焼けたお肉に付けないためにも使い分けてくれたそうだ。大好物のビールを飲みながらも、ちゃんと臨床で得た知識を実践している。そんな先生に敬意を示しながら食べることにした。

 

「オウレン先生……さすがですね。いただきます!」

 

 俺の隣で食べているサラも「おいしい〜」とご満悦である。ニボルさんとオウレン先生はビールを飲みながら、深く味わっていた。

 

 みんなが美味しそうに食べている様子を見て、俺はキノコを持ってきたのを思い出す。「これも焼きませんか? 安心してください、毒は入ってないですよ」と言って提供したところ、「言い方、面白いー!」とサラが笑いながら焼いてくれた。


 キノコを焼き終えた後はカルビやロース、ハラミといろんな牛肉が次々と出てきた。俺とサラは成長期前後ということもあり、ずっと食べてもまだまだお腹いっぱいにならない感じだ。一方、大人組は今日俺たち以上に緊張していたのか――その発散でとうとう赤ワインのボトルを開けて、飲み始めていた。


「かぁ〜」とニボルさんはおっさんっぽい声を上げながらグラス越しに飲んでいる。オウレン先生は優雅に飲みながら、俺たちのお皿へお肉を入れてくれた。前世の俺はすぐに酔っ払っていたため、上手くアルコールを吸収できている二人の姿を見て、単純に尊敬する。単なる好奇心で聞いてみる。


「二人ともお酒は強いんですか……?」

「そうだね、僕とオウレンは強いよー!」

「すごいですね」

「アダムくんも飲むか〜い?」

「兄さん、確かに。アダムくんは前世の年齢を考慮すると、二十歳を超えているけど……あっ。今のアダムくんは未成年だからダメよー! ダメダメ〜!」


 すまない。前言撤回しよう。二人ともすでに酔っ払っていた。その上、ニボルさんは未成年の俺にお酒を勧め始めたが、もちろん丁重にお断りした。そして案の定、二人は酔い潰れて、寝てしまった。


 焼肉パーティー閉会後、俺とサラで後片付けをした。お肉はダンボールでまとめて購入したらしいが、全て空になっていた。ダンボールの外箱をよく見てみると、『お肉詰め合わせ2kg』と書いてあった。


(えっ、俺たち4人で2kgもお肉を食べたのか! えっと、カロリー換算すると……)


 俺が頭の中で、消費カロリーを考えている間に、サラはダンボールを折り畳んでいた。そのまま、ダンボールを持って、どこかへ行こうとしていた。


「サラ、そのダンボールどうするんだ?」

「今から、倉庫に行って捨ててくる!」

「俺も行く」


 俺がついて行くことに驚いて、彼女はこう言った。


「大丈夫だよー!すぐ戻ってくるよ?」

「いや、近場といっても夜中の時間だ。女の子一人で行くのは危ない……あっ」


 その言葉を口にして、俺はしまったと反省する。


(シラフなのに、サラのことを「()()()」と言ってしまった……)


 けれど、穏やかな彼女は怒ることもなく、いつものように優しく微笑む。

「お気遣いありがとう……。じゃあ、一緒に行こう!」と誘ってくれたこともあって、二人で外に出た。

 

 夜空には、満天の星たち。俺とサラの合格を祝福してくれているようだ。


「おぉ……」と嘆声を漏らした直後、俺たちの目の前に、流れ星がひとつ。俺は心の中で願いを込める。


(研究者として、末長く活動できますように……)


 一方、サラは手を合わせて、不思議な願い事を声に出す。


「生まれ変わったら、異世界転生できますように!」


 異世界転生したいなんて……今の人生に、何か不満をもっているのだろうか。だけど、お互い一度しか言えなかった。


「サラ、願い事は3回言わないとダメかも……」

「そうなんだ。でも、流れ星を見ることができたから、ラッキーだね!」


 サラが倉庫の鍵を開ける。俺がダンボールを持っていたので、一緒に倉庫の中に入って、置いた。

 

 その後すぐに、ニボルさん家へ戻ろうとしたのだが、サラがふと何かを思い出したように、後ろから俺の上着の裾をちょいと掴んだ。


「どうした?」

「あの……アダムさんはさ、おじさんたちから聞いたんだよね。ぼくの……その性別とか生い立ちについて……」

「あっ……」


 さっきの「女の子」という言葉は、サラの地雷を踏んでしまったのかもしれない。


 俺はどう答えるべきか珍しく悩んでしまったが、ニボルさんとオウレン先生から聞いた事実を、ありのまま正直に話すことにした。

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