【研究取扱者試験編】研究者に翼〜激レアな天使族〜
発表が終わって30分ほど経った。
誰かがノックして、俺一人でいる待合室に入ろうとしている。とうとう結果が出るのかと腹を括る。
入ってきたのは、一人目の審査員であるオオバコさんだった。俺に封筒を差し出す。
「ヤッホー! 発表お疲れさん。結果はこの封筒に入ってるよ〜」
(これ、俺が見るのか? 中身見るの怖ッ……)
恐れながらも、封筒の中に入っている紙を確認する。
そこには、【合格】の二文字が記載されていた。
安堵しつつ、渡してくれたオオバコさんに確認してみる。
「あの、俺に反対している審査員っていましたか……?」
「いないよー! 満場一致で合格! もっと自信持ちなよ。実はね、今回の試験に受かったのは君だけ! おめでとう。ぜひ同じ研究取扱者として、この世界を盛り上げていこうねー」
オオバコさんは握手して俺を歓迎してくれた。
確か、願書の出願者が60人いて、そこから論文提出で6人まで絞られて……最後の発表で俺一人しか選ばなかったってことなのか。
(もしかして俺、凄いことを達成したのでは……?)
早くオウレン先生たちに報告したいと思い、席を立って部屋から出ようとしたところで、オオバコさんに引きとめられた。
「アダム! この後、誰かと待ち合わせをしてるの?」
「はい、そうですね」
「私ね、これから帰るんだ。だから、君の保護者さんのところまで一緒に行くよー!」
「わかりました……」
『迎えに来るのは保護者じゃないんだけどなぁ』と思いつつ、俺の三歩後ろを歩くオオバコさんと一緒に、待ち合わせ場所へ向かうことにした。
「アダムくん、お疲れ様!」
オウレン先生が入り口付近で待っていてくれた。
「実は……」と、わざと悲しそうな顔をしてみると、オウレン先生の目が見開く。
「アダムくん、まさか……!」と息を呑んだところで、俺は合格証書を取り出して、ニヤリと笑う。
「受かりました」
ピースサインをする俺に、オウレン先生は胸を撫で下ろす。
「おめでとう! あなたの努力が実を結んで、本当に嬉しいわ。これから将来が楽しみね」
「はい。ここまで送ってくれて、本当にありがとうございました」
「あれー? オウレンじゃん! なんでここにいるのー?!」
後ろで見守っていたオオバコさんが声を上げる。
「あら……オオバコちゃん、お久しぶりね。アダムくんとはお隣さんなのよ」
「えっ、私が住んでた家に、今、アダム住んでるの?!」
「そうよ。すごい偶然よね。しかも、二人とも研究者とはね」
(えっ。前住んでた人って発明家で、俺の愛車バイクことニンニンのメンテナンスをしてくれたんだよな……まさかオオバコさんが?!)
確認したくなり、二人の会話に割り込んで参加する。
「そうだ! もしかして、あなたは……倉庫に置いてあったバイクを直した方ですか?」
「はっは! ご名答! ニボルさんから聞いたのー?」
こりゃあ驚いた。まさか、こんなところで恩人に会えるとは思っていなかったし、オオバコさんだったとは!
「はい。しかし、すごいですね……。俺は将来、オオバコさんが直したバイクに乗りたいと思ってます」
「え! 君、今10歳でしょ?! すごい心意気だね、でも後六年経てば乗れるもんね! アダムはさ、研究者として、今後どうしたいと思ってるの?」
(しまった……!)
話を盛り上げてしまい、先ほどの試験の時と同様に、またオオバコさんの質問タイムが始まってしまった。だが、バイクを直してくれた張本人なので、答えることにした。
「俺は研究所を設立したいと思っています。この世界で研究や学問の発展に貢献したいので」
「君、本当にブレないね〜。でも、研究所を建てるのには、厳しい条件があるんだよ。王位一桁の王子様じゃないと認められないの」
「えっ! 10位じゃダメなんですか?」
一桁じゃないとダメとは、またしても理不尽な決まりである。思わず眉間に皺を寄せてしまった。
「その言い方、政治家みたいだよ〜!」とオオバコさんが大笑いしている中、オウレン先生がフォローに入ってくれた。
「あー、オオバコちゃん……。せっかく合格したのに、アダムくんの機嫌が悪くなってるじゃない!」
「めんご〜。でも王族の君なら一桁になれる可能性はゼロではない! ザダ校に入学して、王位戦で良い評価を出せれば、一桁台に順位を上げることができるのだから。叶えられる夢や希望があっていいじゃん〜」
久しぶりに聞いた――毎度お馴染みのザダ校である。同い年のアンズやサラだけでなく、オオバコさんも知ってる学校だから、かなり有名で王族も多数輩出しているのかもしれない。
(そうだな。次の目標、決まったかも)
俺は二人の前で、「俺はその夢を達成したいので、ザダ校に進学します」と宣言したところ、オオバコさんは再び爆笑し始めた。
「いやー。本当に君、10歳なの? 芯があるって言うのかな? ニボルさんに通じるものがあるね。そもそも、研究取扱者の資格を取ったから、入学は余裕かもよー!」
研究取扱者の資格がザダ校入学に有利であることを聞き安心しつつも、あたかも俺とニボルさんが異世界転生者だと知ってそうな物言いに俺は驚く。
「あっ、長話しちゃってごめん! 私、島に戻らないといけないから帰るね! またどこかで会えたらよろしく!」
オオバコさんは腕時計をチラッと見て慌て始め、近くに置いてあったバイクに飛び乗ると、あっという間に消えていってしまった。なんだか、台風みたいな人だなと思いながら、その背中を見届けた俺とオウレン先生。オウレン先生はポツリと本音を言う。
「オオバコちゃんっておもしろいんだけど、自我が強すぎるのよね」
「まぁ、研究者ってそんなもんですよ?」
「確かに……あなたの言う通りね。そうだ! 話が変わるけど、サラちゃんも試験受かったって」
「おぉー。サラ頑張ったんだな」
俺だけでなく、サラも無事に合格できたと聞いて、ホッとした。
(緊張してたけど、最後まで勇気を出して、頑張ったんだな……)
嬉しい報告が二件――オウレン先生は、帰りのバスの中でも、嬉しそうにしていた。
「兄さんが言ってたの。今日はみんなで焼肉しようって。合格祝いにピッタリでしょう?」
「わかりました。キノコもありますし……安心してください。俺たちは毒キノコを食べられないので、オウレン先生は好きなだけ毒キノコを食べてください」
「なんて冗談を! 毒キノコって言われるとねぇ……私だって、みんなと同じ食用キノコがいいわ!」
オウレン先生は苦笑いしながら、俺のジョークに乗ってくれた。
「食用キノコもあるので、ご安心を。そういえば、オオバコさんって人間なんですか?」
「見た目は人間と同じに見えるけど……違うわ。彼女は、この世界に十人しかいない――稀少な天使族よ」
「すごい。十人しかいないなんて。俺、激レアな経験ができたってことですね」
「そっ、そうね……。だけど、あなたも研究取扱者。お互い、激レアな存在よ」
(あれ? オウレン先生の言葉がわずかに詰まっていたように感じた……気のせいか)
この世界には、人間やエルフ族だけでなく、吸血鬼や天使など、多様な種族が生きている。
明確な違いを理解していないから、もっと知りたい――研究者らしく、新たな探究テーマを胸に刻みながら、帰路についた。




