【王位戦エントリー編】私、この世界では、しっかり長生きするね〜ばんえいの記憶〜 ※イブ視点
【※注意】イブちゃん視点回です。
お兄様が私のことを褒めてくれた。
嬉しい。
回復魔法は成功したし、ピンチな出来事も起きたけれど、無事に乗り越えられた。
でも、さっきからずっと揺れている。
私は今、どこに向かっているの……?
U U U U U U U U U
思い出す。
この世界に来る前、日本にいた時のことを。
帯広駅近くの施設で学会が開かれ、私は同級生の実と一緒に飛行機で移動していた。
田中実――女性名にしてはちょっと珍しい名前だけれど、彼女はとても優秀な研究者だった。
「みのるー! 今日さ、学会が終わったら、ばんえいを観に行かない?」
「ばんえい?」
「えぇ。競馬なのだけれど」
「いいよ」
意外にも、実はあっさり承諾してくれた。
でも、条件がある様子。
「ちょっとお願い事が。教授の熊本先生の研究発表は見たいかな。モノクローナル抗体の治療薬に関する話だから聞いておこうと思って」
「交渉成立ね。じゃあ、今日の発表、頑張ってね」
「へーい」
その日の私はサポート係だった。
実が発表しているところを写真に収めるよう、職場で依頼されていたのだ。
なお、実の発表は、北海道と自身の名前にちなんで『ハスカップは「不老不死の実」なのか?』という内容だった。
彼女はテンパることもなく、最後までしっかり発表をやり遂げた。
その上、運が良いことに、例の熊本先生が実の発表に感化されて、直接声を掛けてくれた。
こうして無事に学会を終えたこともあり、私たちはタクシーで帯広競馬場に向かった。
「帯広駅から競馬場まで、千円ぴったり。10の3乗かぁ、いい数字ー」
「みのる! 急いで豚丼を食べましょ!」
「オッケー」
まだ予定の時間まで余裕があったので、遅めの昼ご飯を取ることにした。
「美味しい、全部」
「本当ね。お味噌汁も付いていたわね! 美味しすぎて、完食しちゃったわ〜」
私はハーフ豚丼を、実は卵入りの豚丼を頼み、あっさりと平らげてしまった。
幸せそうな顔をして食べ終えた実を見て、私は待ちに待ったばんえい競馬を案内した。
「ほら見て! こんな近くでそりを引いてるのよ」
「いつもと違う。走ってない?」
「えぇ。競馬といえば、通常は競走馬のイメージがあるかもしれないけれど、今日はばん馬なのよ。体が大きくて逞しいでしょう?」
「本当だ。ちょっと気になることがある――」
私が実の疑問に全て答え終えたところで、場内で、ある個人協賛レースタイトルがアナウンスされた。
『次は第3レース――【研究オタク学会お疲れ様記念】です』
「研究オタク学会お疲れ様記念?!」
さすがに、実もこのタイトルにはすぐ反応を示して、私の方を振り向いた。
私は気まずさを覚えながらも、コホンと咳をしてから、事情を説明した。
「私が協賛したのよ」
「ん?」
「みのるの発表日を知ってたから、前もってスケジュールを組んでたの!」
珍しく、実は目を見開いて、ポカンとしていた。
「……計画、立ててくれてたんだ。ありがとう」
「もちろん。みのる、いつも一生懸命すぎて心配になるから……」
「そう?」
「叶えたい夢があるのは素晴らしいことだけど、生きているからこそ叶えることができるの。亡くなったら、全てが水の泡になっちゃうわよ?」
話しながら、事前に競馬新聞を買っていた私は、パドックで目当てのばん馬を選ぶことにした。
「私は三番と五番のワイドにするわ」
「じゃあ、一番に入れる」
実も乗り気だ。
でも、選んだ馬は、あまり人気がない子だった。
「いいの?! この中だと人気が……」
「いや、この子で行くよ。天使みたいだから」
「あぁー、芦毛ってことね。わかったわ」
実の意見を尊重し、二人で馬券を購入した後、一緒にレースを見ることにした。
結果は、なんと実が選んだ子は一着になった。
私の選んだ三番と五番も二着、三着と、無事に入線した。
「みのる……よくわかったわね」
「直感だよ、目つきで決めた。一番がダイヤモンドのように輝いた瞳をしていたから」
「フィーリングってこと?! ふっ……!」
意外な決め方に、私は笑いが止まらなくなる。
だけど、この後すぐに優勝馬との記念撮影があるから、急いで案内所前まで移動しないといけない。
「みのる、この後写真撮るから行くよー!」
「りょーかい」
私と実は、運営の方々と共に、優勝馬と優勝騎手、調教助手の元へ向かった。
普段、実はあまり表情が顔に出ない。
それでも、今日の出来事が嬉しかったのか、集合写真に写っていた実は微笑んでいた。
最後に、実は優勝馬へ、優しく声を掛けていた。
「体が小さいから、今はみんなに注目されていないのかもしれないけれど、君なら大丈夫。ブレイクスルーを起こしな……」
「ブレイクスルー」は実の口癖だ。
彼女は亡くなった妹に誓ったこともあって、未知の病に対して、治療薬を開発しようと前向きに頑張っていた。
同じ研究者として、私は彼女のことを心から尊敬していた。
なのに、彼女は過労で亡くなってしまった。
あまりにも悲しい、突然の最期だった。
一方で、実が推していたばん馬はのちに最強馬となり、無双していくことになるのだけれど……。
Y Y Y Y Y Y Y Y Y
(ねぇ、みのる。貴女が亡くなってから、私……人生がとてもつまらなかったわ)
この世界でも、最初はあの兄上のせいか、生きる意義を見出せないでいた。
でも、今の私は違う。
私はアダムお兄様という、実にそっくりな研究王子に出会えた。
奇遇にも、お兄様も「ブレイクスルーを起こせる」と、実と同じ言葉を私にくれた。
二人とも、あの時のばん馬のように一生懸命なところがあって、本当に素敵なのよ。
実が叶えられなかった夢、お兄様が叶えると思うから。
私、この世界では、しっかり長生きするね。
じゃあね、実。
À bientôt……。
<ご挨拶>
いつも『ファンタジア・サイエンス・イノベーション』ならびに『第一王女を探さないで』をご愛読いただきありがとうございます。
この度、両作品3サイト(小説家になろう様・カクヨム様・Nolaノベル様)累計10万PV突破を記念し、ばんえい競馬にて個人協賛レース『祝FSI第一王女10万記念』を開催いたしました。
(イブちゃんと同じように、私自身もこっそり協賛しました笑)
当日のレースの様子は、ばんえい十勝 【公式】様のYoutube配信動画にてご覧いただけます。
https://www.youtube.com/live/ckBZr8nYIXI?si=9KVckNynt1WCPYKq&t=9830
日頃より応援してくださる読者の皆様のおかげで開催することができました。
心より感謝申し上げます。
今後とも『ファンタジア・サイエンス・イノベーション』ならびに『第一王女を探さないで』をよろしくお願いいたします!




