【王位戦エントリー編】王位戦に向けて、身代わりを用意すればいい!【※】 ※アダム→第三者視点
【※注意】
主人公アダム視点→第三者視点回です。
一部、暴力的な描写有り。
苦手な方はご注意ください。
「リュウコさん、イブのことをお願いします」
「えぇ、任せて。私がしっかり見ておきますね」
目的地である乗馬クラブに到着したため、俺は眠っているイブをリュウコさんに託した。
その後、俺はニカさんが運転する車で、アンズの家まで送ってもらっているところだ。
無事に病院から脱出できたものの、安堵できずにいた。
「ニカさん。バロさんとルパタ、今はどうしているのでしょうか」
「僕と入れ替わりで、バロくんが病室にいるよ。ルパタくんは人気のない喫煙所で防御魔法を行なっているところ。アダムくん、二人は魔法のプロだから、信頼して大丈夫! 任せて、僕も君をしっかり送り届けるからね」
「……分かりました」
杞憂に過ぎなければいい。
けれど、よりによって、病室の前に担任である第11王子が現れたんだ。
どう考えても、雲行きが怪しい。
こうして移動している合間にも、病院で何か最悪な事態が起きているのではないかと、胸騒ぎがしていた。
* * *
双子が眠る病室の扉が開いた。
「失礼する」
国王が入室した際、瞠目したのを、バロは見逃さなかった。
平身低頭の姿勢で、国王に挨拶をする。
「お久しぶりです、国王陛下。驚かせてしまったようで、大変失礼いたしました」
「バロ、久しぶりだな。どうして病室にいる?」
「私の娘が双子と同じクラスメイトでして。『いつまで生き延びられるかわからない』と、病院の先生たちが言っていたから心配だと申しておりました。私自身、居ても立ってもいられなくなりまして」
「生き延びられるかわからないだと?」
国王が大股で双子の元へ歩み寄る。
「ご安心を。二人とも娘から聞いていた状況より、だいぶ改善したようです。国王陛下が来られたことを、双子はわかっているのかもしれません。数値も正常範囲に収まっています」
バロは冷静に、双子のモニター数値を国王に見せながら説明した。
「左様か」
「えぇ」
「そうか」
国王の険しい表情が一転、口元が柔らかく微笑んでいた。
「最愛の妻であったレンゲと、優秀な人材であるロイド・ブラッドリーを失ってから、私は後悔し続けてきた。だからこそ、今回だけはなんとしてでも助けなければならない」
「つまり、何か対応をすべきだと?」
「あぁ。紹介状の攪乱に輸血ミス。異常事態が起こりすぎている。治療で改善しているとはいえ、この施設に預け続けるわけにはいかない。王立科学院直下の病院へ、即刻転院させるべきだ」
国王は淡々と、問題点と改善策を的確に告げていく。
「国王陛下のおっしゃるとおりかと存じます。それでは、私はこれで」
バロはもう一度頭を下げて去ろうとしていた。
しかし、国王が制した。
「バロ、王族に戻らないか?」
「それは……」
「戻った際には、お主の娘を第3王女として迎え入れようと思っているが」
バロは動揺した。
愛娘のアンズが、王の一言で王女として迎え入れられるなんて。
すぐに拒否したいところだが、相手は国王陛下。
機嫌を損なう回答をしてしまえば、娘の身にも危険が及ぶかもしれない。
とはいえ、国王の「王女」発言には何かしら事情があり、意図があるに違いない。
まずは理由を聞いてみれば良いと、バロは間髪入れずに判断した。
「国王陛下。何か悩まれていることでも?」
「私の娘が行方不明だ。せめて、娘以外にも王女がいれば、と思ってな」
国王自身、行方のわからない娘のことが気がかりなのだろう。
「心中お察しいたします、国王陛下。私も同じ娘を持つ身故に」
「ならば」
「申し訳ございません。私たちは二度と王族にはなりませぬ。私も、娘も、どうしても叶えたい夢があるのです」
「叶えたい夢とは?」
国王は聞き返す。
「いずれも亡き王妃様が叶えたかった夢に近いものかと」
バロの熱い決意に、国王の表情が引き攣った。
それでも、バロは堂々と深紫色の瞳で、国王を見つめ続けた。
沈黙の末、先に折れたのは国王の方だった。
「そうか。ならば、行ってよい」
「承知いたしました。此度はお声がけいただき、誠にありがとうございました」
バロが一足先に病室を後にしたため、残ったのは国王一人になった。
「やはり断られたか。まぁいい。それにしても、双子は人間から吸血鬼族に変貌を遂げたのだな……。誰かが回復魔法でも行ったのだろうか?」
感心した様子で顎に指を当てながら、双子をじっくり覗き込む国王。
国王が病室を出た数分後には、国王直属の部下たちによって、双子を安全に転院させるための準備が迅速に行われていた。
* * *
病院の外。
人気のない喫煙所にて、第11王子――ホルムが姿を現した。
「クソクソクソ! 国のトップがいちいち雑魚相手のお見舞いなんかしてるんじゃねぇよ。それに、さっきの防御魔法はかなり高度な技だった! 誰の仕業だ!」
ホルムは悪態を吐いた。
自分以外に誰もいないと思っていたから。
だが、ふと視線を落とすと、喫煙所の片隅でフードを深く被った男がぐったりと座り込んでいた。
フードの隙間から尖った耳が見えている。
そして、かなり体力を消耗したせいか、息切れしている様子だった。
ホルムの頭の中で、点と点が線に繋がっていき、1つの結論が導き出される。
(コイツだ。今回の結界を張ったのは、このエルフ族の男だなッ!)
「双子のトドメを刺すように」と、上から指示を受けていた。
必ず完遂しなければならない計画だったのに。
この男が張った結界のせいで、全てが水の泡になった。
第11王子は怒りで頭が沸騰しそうだったが、決して声に出さなかった。
むしろ、足音を消して背後から忍び寄り、男の首を両手で絞め上げた。
「ぐっ、ウゥッ!」
男が窒息して意識を失う前に、ホルムは手の力を緩めた。
「安心しろ、殺しはしない。だが、話はたっぷり聞かせてもらおう。俺たちの計画を邪魔したんだからなぁっ!」
ホルムはぐったりと倒れたエルフのフードを乱暴に剥がし、その素顔を凝視する。
「ガハハハハハハ! なんてこった! エルフの王子様がネズミのように転がっていたとはなぁ! あぁ、良いこと考えた。王位戦に向けて、身代わりを用意すればいい!」




